【阪南経済Now6月号その2】マクロ経済学と物価問題
こんにちは,経済学部で「マクロ経済学」を担当している西洋です。
マクロ経済学は,一国経済全体の調子を考察する学問です。例えば,一国経済の豊かさを測る代表的な指標である国内総生産,どれだけの人が経済全体で失業しているのかを表す失業率,為替レート(ある国で使われているお金と,ほかの国で使われているお金の交換比率)などが,どう決まるのかを理論やデータによって説明しようとするものです。これは極めて現実志向的な学問であり,新聞やニュースを理解することにも役立ちます。
今回は,マクロ経済学が考察対象とする重要なトピックスの一つとして,われわれ市民の生活とも密接にかかわる物価の問題について,簡単に解説をしたいと思います。その1に引き続き、第2弾です。
マクロ経済学は,一国経済全体の調子を考察する学問です。例えば,一国経済の豊かさを測る代表的な指標である国内総生産,どれだけの人が経済全体で失業しているのかを表す失業率,為替レート(ある国で使われているお金と,ほかの国で使われているお金の交換比率)などが,どう決まるのかを理論やデータによって説明しようとするものです。これは極めて現実志向的な学問であり,新聞やニュースを理解することにも役立ちます。
今回は,マクロ経済学が考察対象とする重要なトピックスの一つとして,われわれ市民の生活とも密接にかかわる物価の問題について,簡単に解説をしたいと思います。その1に引き続き、第2弾です。
物価はどのように決まるのか
では,物価はどのように決まるのかでしょうか。物価の問題を理論的に語る時には,一般物価,単一商品価格,相対価格などの違いを考慮しなければなりません。しかし,これらの違いは捨象し,おおよそ一般物価の規定要因を考えた場合,わたしは次の7点が重要だと考えています。それらは,(1)統計上の定義,(2)総需要と総供給,(3)貨幣数量,(4)生産費,(5)制度的要因,(6)為替レート,(7)貿易要因です。これらの要因は独立ではなく,互いに関わりあっています。
まず,物価指数の高低は,そもそもデータ作成方法に依存します。これは様々なデータを選択し,算出されるものですから,この作業を決める統計上の定義等に左右されるのです。消費者物価指数は,消費者の行動や世の中の変化を統計に反映させるために5年に1度,対象とする品目の入れ替えやその重みを変えて計算されます。例えば,2006年の改訂では,薄型テレビなど価格下落の激しい財が算出品目に加えられ,このことが消費者物価指数を旧基準に比べて押し下げました。
2番目に,総需要と総供給とのギャップが挙げられます。経済全体で生産・供給可能な量に対して需要量が追い付いていない場合,価格を維持してもなかなか財・サービスが売れません。そこで,価格を引き下げてでも財・サービスを捌こうとする活動が生じ,これが起点となって,経済全体にデフレの様相が現れます。こうした総需要と総供給のギャップは,いわゆる「GDPギャップ」として測られます。これがマイナスの場合には,デフレ圧力が生じ,逆にプラスの場合にはインフレ圧力が生じます。
3番目には,貨幣数量が挙げられます。マクロ経済学の理論の1つに貨幣数量説というものがあります。これは一般物価の上昇と下落は貨幣の数量と関係があることを説明しようとするものです。この説は,貨幣数量と貨幣流通速度(お金の回転率)の積は物価と国内総生産の積に等しいと置きます。そして貨幣流通速度はほぼ一定で,国内総生産は経済全体の生産力に依存して決まると考えます。すると,この方程式から,貨幣量が増えれば物価も比例的に示すことができます。つまり,物価の変化は極めて貨幣的な要因によって決まると考えるのです。デフレが生じるのは,貨幣の供給量が十分ではないからだというわけです。
生産費説と制度的要因,そして為替レートの問題は互いに関連しあって価格を規定します。生産費説に従うと,ある財・サービスの価格は,「1+マークアップ率」と「財・サービス1単位当たりの生産費用」の積で表されます。マークアップ率とは,企業の儲けを表す割合と考えてください。財・サービスの生産には様々な要因が関わりますが,とくに重要な費用は人件費と原料費です。したがって,財・サービス1単位当たりの人件費(単位労働コストといいます)と原料費(単位原料コストといいます)の動きが重要です。ややテクニカルになりますが,この価格方程式について,変化率ととると,価格変化率=粗マークアップの変化率+人件費割合×(賃金変化率−労働生産性上昇)+原料費割合×(為替レート変化率+原料費−原料生産性)という式が得られます。
労働生産性上昇や原料生産性の係数の符号は,いずれも負です。つまり,これらの生産性が上昇し,より効率的に財・サービスを作ることができるようになると,その価格は低下します。また,為替レートが切り上がり,輸入価格が安くなると,やはり価格低下が起こります(円高を思い出してください。例えば原料が1ドルで,為替レートが1ドル=100円ならば原料費は100円ですが,これが1ドル=80円まで増価すると原料費は80円に下がります)。さらに,賃金の低い労働者に雇用をシフトしても,価格低下が生じえます。
生産費説を,制度的要因を踏まえて考えると,より説得的な価格変化の説明が可能になります。日本の賃金決定(波及)制度として「春闘」という制度があります。かつては,この制度によって,多くの産業で一律に高い水準で賃金上昇率を維持することができました。(昨年度はアベノミクスの後押しもあり,大きな実績を収めましたが)1990年代の不況下において春闘の機能が低下しました。このため,賃金は低い水準でしか上がらない現象が見られました。上の価格変化率の式を多部門で考え,この機能低下を踏まえると,生産性の高い産業部門で財・サービス価格が相対的に低下することが説明できます。この現象は,生産性格差デフレーションと呼ばれ,ここ数年にみられた現象です。逆に高度成長期など春闘が維持されていた時代には,生産性の低い産業部門で価格が相対的に上昇する生産性格差インフレーションが見られました。
この他に貿易要因として,外国からの安い財・サービスの輸入も重要です。それらは直接,安い財・サービスを市場にもたらし,価格変化に影響を及ぼします。こうした直接的要因だけでなく,安価な財・サービスを提供する外国企業と国内企業が価格競争することにより,価格低下が生じることもあります。
まず,物価指数の高低は,そもそもデータ作成方法に依存します。これは様々なデータを選択し,算出されるものですから,この作業を決める統計上の定義等に左右されるのです。消費者物価指数は,消費者の行動や世の中の変化を統計に反映させるために5年に1度,対象とする品目の入れ替えやその重みを変えて計算されます。例えば,2006年の改訂では,薄型テレビなど価格下落の激しい財が算出品目に加えられ,このことが消費者物価指数を旧基準に比べて押し下げました。
2番目に,総需要と総供給とのギャップが挙げられます。経済全体で生産・供給可能な量に対して需要量が追い付いていない場合,価格を維持してもなかなか財・サービスが売れません。そこで,価格を引き下げてでも財・サービスを捌こうとする活動が生じ,これが起点となって,経済全体にデフレの様相が現れます。こうした総需要と総供給のギャップは,いわゆる「GDPギャップ」として測られます。これがマイナスの場合には,デフレ圧力が生じ,逆にプラスの場合にはインフレ圧力が生じます。
3番目には,貨幣数量が挙げられます。マクロ経済学の理論の1つに貨幣数量説というものがあります。これは一般物価の上昇と下落は貨幣の数量と関係があることを説明しようとするものです。この説は,貨幣数量と貨幣流通速度(お金の回転率)の積は物価と国内総生産の積に等しいと置きます。そして貨幣流通速度はほぼ一定で,国内総生産は経済全体の生産力に依存して決まると考えます。すると,この方程式から,貨幣量が増えれば物価も比例的に示すことができます。つまり,物価の変化は極めて貨幣的な要因によって決まると考えるのです。デフレが生じるのは,貨幣の供給量が十分ではないからだというわけです。
生産費説と制度的要因,そして為替レートの問題は互いに関連しあって価格を規定します。生産費説に従うと,ある財・サービスの価格は,「1+マークアップ率」と「財・サービス1単位当たりの生産費用」の積で表されます。マークアップ率とは,企業の儲けを表す割合と考えてください。財・サービスの生産には様々な要因が関わりますが,とくに重要な費用は人件費と原料費です。したがって,財・サービス1単位当たりの人件費(単位労働コストといいます)と原料費(単位原料コストといいます)の動きが重要です。ややテクニカルになりますが,この価格方程式について,変化率ととると,価格変化率=粗マークアップの変化率+人件費割合×(賃金変化率−労働生産性上昇)+原料費割合×(為替レート変化率+原料費−原料生産性)という式が得られます。
労働生産性上昇や原料生産性の係数の符号は,いずれも負です。つまり,これらの生産性が上昇し,より効率的に財・サービスを作ることができるようになると,その価格は低下します。また,為替レートが切り上がり,輸入価格が安くなると,やはり価格低下が起こります(円高を思い出してください。例えば原料が1ドルで,為替レートが1ドル=100円ならば原料費は100円ですが,これが1ドル=80円まで増価すると原料費は80円に下がります)。さらに,賃金の低い労働者に雇用をシフトしても,価格低下が生じえます。
生産費説を,制度的要因を踏まえて考えると,より説得的な価格変化の説明が可能になります。日本の賃金決定(波及)制度として「春闘」という制度があります。かつては,この制度によって,多くの産業で一律に高い水準で賃金上昇率を維持することができました。(昨年度はアベノミクスの後押しもあり,大きな実績を収めましたが)1990年代の不況下において春闘の機能が低下しました。このため,賃金は低い水準でしか上がらない現象が見られました。上の価格変化率の式を多部門で考え,この機能低下を踏まえると,生産性の高い産業部門で財・サービス価格が相対的に低下することが説明できます。この現象は,生産性格差デフレーションと呼ばれ,ここ数年にみられた現象です。逆に高度成長期など春闘が維持されていた時代には,生産性の低い産業部門で価格が相対的に上昇する生産性格差インフレーションが見られました。
この他に貿易要因として,外国からの安い財・サービスの輸入も重要です。それらは直接,安い財・サービスを市場にもたらし,価格変化に影響を及ぼします。こうした直接的要因だけでなく,安価な財・サービスを提供する外国企業と国内企業が価格競争することにより,価格低下が生じることもあります。
つづきは,マクロ経済学の授業で
ここまでは,マクロ経済学が明らかにすべき問題の1つである物価の変化について説明してきました。物価(指数)にもたくさんの種類があり,また多くの複合的要因に左右されて決まります。
上の要因のうち,どれがより有効になるのかは,国や時代に応じて異なってきます。では,物価が変化すると,今度はどのような変化が経済全体に生じるのでしょうか。続きは,マクロ経済学の授業で考えてみましょう。
上の要因のうち,どれがより有効になるのかは,国や時代に応じて異なってきます。では,物価が変化すると,今度はどのような変化が経済全体に生じるのでしょうか。続きは,マクロ経済学の授業で考えてみましょう。