経営情報学部の基礎数学では,約20年前から将棋を取り入れています.今年度は今泉健司四段をお招きしました.
 今泉四段は,2回の奨励会退会,介護士等で働きながらのアマチュア棋戦での活躍,プロ編入試験を突破して41才でプロ棋士に,という特異な経歴の持ち主です.2018年度には,「史上最年少ルーキー藤井聡太七段、NHK杯1回戦で戦後最年長ルーキーの今泉健司四段に敗れる」と話題になりました.
 特別講義では,まずミニ講演会を行っていただきました.
 最初の奨励会退会は26歳の時で,年齢制限によるものでした.今泉さんは高校に行かずに奨励会に専念していたため,中卒の26歳で社会に放り出されました.飲食店の勤務は辛く,また,奨励会時代の後悔もあって,75kgだった体重が55kgまで減ったそうです.
 二回目の奨励会退会(35歳)の後,介護の仕事を開始.介護の仕事を通じ,他人の気持ちに立つこと,人はいつ死ぬか分からないから今を大切に生きることを学んだということです.今泉さんは介護の仕事を続けるうちに,将棋の成績も上がり始め,プロ編入試験に合格し,41歳でついにプロ棋士になりました.
 2018年度のNHK杯テレビ将棋トーナメントで,藤井聡太七段と対局が決まったときは,「ヤベ,公開処刑かよ」と思ったということです.しかし,自分が勝つには野球で言えば8対7の乱戦に持ち込むことだと考え,そのイメージ通りの将棋に持ち込めて勝てたということです.
 今泉四段は,最初の奨励会退会時にある人から貰った,
「人生に無駄なことなど一つもない」
という言葉を紹介され,
「もしも私が他の棋士と同じように奨励会を勝ち抜いてプロになっていたら,講演会に呼ばれることもなく,こうして皆さんにお会いできることもなかった」
「介護職で人生が変わった」
と,一見回り道に見える経歴が実はプラスになっていることを語られました.
 「将棋を通じて皆さんの笑顔の元になる」とご自分のモットーを紹介され,講演を締めくくられました.
 ミニ講演会の後は,多面指しでの指導をしていただきました.
 質疑応答では,以下のようなQ&Aがありました.
Q「介護職は体力的に大変だと思いますが,介護職をやりながら将棋の成績が上がっていったのはなぜですか?」
今泉「めぐりめぐって人間力が付いたのだと思います.」
Q「羽生善治永世七冠は,『将棋は強くなるのに人生経験は関係ない、盤上技術がすべて』と言っておられますね.」
今泉「それは羽生先生が若い頃の言葉で,今は違う考えを持っておられると思います.私は,10代は技術,20代は技術・体力・人間力,40代は人間力と思います.」

 受講生からは,以下のような感想が寄せられました.
「初めて将棋をしたが,想像より本当におもしろいと思った.これからもしたいと思う.」
「今泉四段の,決して諦めない不屈の精神は自分も見習いたいと思う」
「今泉さんの話を聞き,『今を全力で生きる』という言葉の意味が良く伝わってきた.」
「現役のプロ棋士と対局できる機会があるなんて思ってもいなかったので,本当に貴重な体験が出来て感動しました」
「まさかこんな有名な方が来るとは思わなかったので嬉しかった」
「講演を聴いて,人生という点で学ぶことが多かったです.本当に基礎数学の授業なのかと良い意味で思いました.」

 なお,プロ棋士をお招きするにあたっては,阪南大学教育改革推進費から棋士派遣料の一部を補助していただいています.