活動の目的及び取り組む課題

 松原市における65歳以上の高齢者の割合は2040年に人口全体の37%(現在28%)を占めることが予測されており、通院や入院に掛かる医療費の高騰を防ぐ上で、その対抗策を考えることは急務課題といえる。また松原市の健康寿命(健康上の問題の無い状態で日常生活を送れる期間)は大阪府の平均を下回っており、自治体の中でも下位に位置する。このような社会的背景の中、これから高齢者層の仲間入りをする中年層にとって、現在の体力状態を知り、それを維持していくために運動習慣を作ることは予防医学の観点から必要不可欠なことである。また未来の労働力を支える子ども達の体力から、学校教育において運動をする機会をどう作っていくかを提案することも今後必要な取り組みである。そこで今回の連携事業では中年世代と中学生の子ども達の体力を多角的に測定することで市民の運動や健康への意識を高め、さらには運動をする場として市の体育施設や運動教室の利用機会を増やすことを目的としている。

活動内容

 松原市民の健康・体力増進の施策として黒部ゼミと早乙女ゼミの4年生が中心となり、若年者から中年者を対象に体力と身体組成の測定を一年間かけて行ってきた。集客のための事前活動として松原市の広報への掲載、松原市民体育館へのポスターの掲示、チラシの配布などの広報活動から参加者を広く募った。参加者には得られたデータを即時にフィードバックし、体力を維持、向上するための手段や方法について情報提供した。
 20〜60歳までの男女に体力指標として握力、立ち幅跳び、ロコモ度テスト(立ち上がりテスト、2ステップテスト)を、身体組成として皮下脂肪厚、筋厚の測定を実施した。得られたデータの特徴として、立ち幅跳びは年齢と共に低下する傾向が見られたが、握力については加齢に伴う変化はみられなかった。ロコモは加齢とともに該当する人が増える傾向にあった。また各年代の腕と脚の筋厚をみてみると、年代間で大きな違いは見られなかった。したがって、加齢による立ち幅跳びの低下には筋肉の量とは違う要因が考えられる。身体活動量は年々低下することから、身体を動かす機会を減らさない仕組みを作ることが連携事業としてこれから重点的に取り組むべき課題であろう。
 今回のキャリアゼミでは20〜60歳まで幅広い年代に自らの体力や健康度をフィードバックできたが、スケジュール的に中学生の測定まで行えなかったことは反省材料であった。また一番参加してもらいたかった中年の参加者を集めることは予想通り苦労した。年齢的に仕事と家庭の両方に多くの時間が取られる世代ともいえ、自らの健康に対して後回しになっているような印象を受けた。早い時期から運動習慣を作ることは将来的な疾患への罹患率を下げることからも、こういったイベントに参加することで市民が恩恵を受けられるような仕組みを作ることも長期的な課題であると感じた。松原市と阪南大学が連携した健康増進活動はまだ始まったばかりで、健康を楽しむまちづくりを具現化できるように活動を継続的に行っていきたいと考えている。

代表学生の感想

 松原市民の健康増進活動の一環として黒部ゼミの学生と一緒に年代別体力特性の調査を実施してきました。私は大学生を中心に測定を行いましたが、若い大学生であっても普段の生活で運動を行う習慣を持っている人は高い体力を維持しているが、運動を行わなくなっている人は体力が低下し、大きく差が開いていることを実感しました。若いときの運動習慣は高齢者になった時の体力や寿命とも関係してくるため、学生に授業やサークルなどで運動を継続的に実施していけるような仕組みを作っていく必要があると感じました。測定を行う中ではこれまで経験のあったもの以外にも今回の測定で初めて扱う実験装置もあり、事前に準備を周到にしておく必要がありました。一度に扱う人数も多かったため、段取りよく人を循環させる方法も身に付けることができました。今後この活動を続けていく学生には子ども達のデータも積み重ねながら様々な世代に運動の重要性を伝えていってもらいたいと思います。

流通学部 4年生 中條 暁(早乙女ゼミ)

 中年者を対象とした体力測定を松原市と協力し、3回の測定会を開催しました。様々な方に筋力の現状を知ってもらいアドバイスをすることで、お客様に喜んでもらうことを目的に行いました。7月、10月に松原市民体育館の協力のもと、握力や立ち幅跳び、超音波法による筋厚の計測などを行いました。自ら積極的に働きかけ、松原市の広報にイベント内容を掲載してもらったり、事前に体育館のスタッフと何度も打ち合わせを行った結果、約60名の市民に参加していただきました。11月には松原マラソン実行委員のご協力のもと松原マラソンのゴール地点に測定ブースを作り、ランナーの方々にも測定を行いました。疲労が溜まる中、約20人のランナーが参加してくれました。
 3回の測定会で約80名の方に測定や筋力についてのワンポイントアドバイスを行うなかで多くの方に感謝の言葉をいただき、今後社会人となる上で素晴らしい経験をすることができました。

流通学部 4年生 長町 洸樹(黒部ゼミ)

参加学生一覧

安積 つかさ、有川 征希、石井 友和、板本 一真、伊藤 美奈、岡本 理沙、小川 司、開野 優香、岸本 真輝、小六 雄樹、阪口 笑里、中條 暁、中島 悠吾、中田 一輝、西野 祐司、藤井 一圭、藤原 史也、松井 結芽、三木 春佳、村中 美月、山本 将行、横山 祐登、和田 智樹、室 勇介、東 由太朗、五十嵐 達哉、岡本 大志、奥地 司、北川 元之、椚座 香里、河野 巧実、中辻 良児、長町 洸樹、東 陽平、藤井 義教、松本 主税、八木 健祐、矢野 駿人、山本 雅之

連携団体担当者からのコメント

松原市民体育館 岡村 幸司氏

 一年間、松原市民の健康増進活動の一環として体力測定会を実施していただきました。学生達は参加者を募るためにポスターの作成や来場者へ事前告知を行うなど、精力的に参加者の確保に注力してくれました。最初の測定会では中年男性に絞って募集をしたため参加者が予想よりも少なかったですが、対象者を広げて2回目以降を実施した結果、たくさんの参加者を集めることができたと思います。当日、測定会を目的に来た人以外に参加された方も多く、楽しんでいただけたようです。今後も継続的に松原市民の健康増進活動に協力していただければと思います。

教員のコメント

流通学部 黒部 一道 准教授

 一年間の活動を通じて学生達は自ら考えて行動する力が日増しに身についたように感じます。今回の活動に関しては大きく二つの課題があり、測定技術の習得と多くの参加者を募ることでした。測定技術を習得することは一日で出来るものではなく、当日のシミュレーションを含め事前に何度も確認作業を行わせました。周到な準備をすることでミスを減らせ、参加した人たちに満足した表情で帰ってもらえることもキャリアゼミを通じて学んでくれたのではないでしょうか。
 参加者への周知と勧誘に関しては学生達が一番苦しんだ部分であると思います。特に働き盛りの中年世代は平日は仕事に追われ、休日は子供の世話などに時間を使うことになり、人生でも多忙な時期になります。そのためこのような機会に時間を作って体力測定を…とはならず、当初はあまり多くの人を集めることができませんでした。しかし学生も体育館内へのポスター掲示やチラシ配布など地道な活動を行い、徐々に人数を増やすことができました。学生にとって大変な活動であったと思いますが、小さなこともコツコツ続けることで成果が出ることを身をもって体験できたのではないかと思います。

流通学部 早乙女 誉 准教授

 昨年度に引き続き、「やりたいことをやる!」というテーマのもとに、学生が自分自身の興味・関心に合わせて各々の課題を設定し、その解決に取り組みました。その中で最も重要視したことは、「常に目標を意識してPDCAサイクルを回す」です。
 例えば、子ども達への運動指導を担当した学生には、事前に練習計画を入念に準備することを求めました。3時間のバスケットボール教室を開催する場合は、まずはそのイベントの目標を設定し、その後、それに合わせて参加者の人数や学年、時間配分を考慮しながら、子どもたちが飽きないようなメニューを組みます。この準備を疎かにすると必ずと言ってよいほど指導は失敗します。また、入念な計画を立てたとしても実際にその通りに進まないことも多々あり、臨機応変な対応が必要となります。そうやって、計画力と対応力を駆使して運動指導を実施した後は、学生自身に良かった点や改善点を振り返ってもらいました。これが次の指導を成功させるために不可欠な作業となります。
 今回、スポーツ場面で培ったPDCAサイクルは、学業や卒業後の仕事にも必ず役に立つスキルですので、残りの大学生活でも意識しながら実践していってもらいたいです。

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