産学連携先:藤嶋陽子氏(株式会社ZOZOテクノロジーズ、東京大学大学院学際情報学府博士後期課程) 

 AI (人工知能、artificial intelligence)という言葉を日常よく耳にするようになった。「現在ある仕事の多くはAIに奪われる」という予言めいたフレーズなどは、これから就職活動を控えている学生の不安を煽ることだろう。

 しかし、上記のようなフレーズが独り歩きする一方で、私たちは、AIとはそもそもどのようなもので、実際のビジネスにどのような形で活用されているのか、正確に理解しているわけではない。よく分からないものに不安だけ覚えていてもどうしようもない。

 AI技術が切り開くファッションビジネスの未来について正しく理解するために、2021年度の安城ゼミでは、「キャリアゼミ」活動の一環として、ZOZO研究所リサーチサイエンティストの藤嶋陽子氏からお話をうかがい考察を深める機会を得た。特に、ゼミ生からの強い希望により、AI技術とSNSマーケティングの関係について通常より長めの質疑応答の時間を設けていただけたことは、ゼミ生にとって、普段あまり触れることのない分野について理解を深める大きな糧となったようである。

学生活動状況報告

 今まで、大学の授業に外部(企業)の方がいらっしゃる機会は何度かあったものの、AI技術の活用やSNSマーケティングといったファッションビジネスの最前線について詳しいお話をうかがうことができたのは今回が初めてで、大変勉強になった。特に、質疑応答の時間に、藤嶋さんが一つ一つの質問に丁寧に答えてくださったことで全く未知のAI技術について理解を深めることができたように思う。印象的だったのは、「AI技術を用いたトレンド予測にはどれくらい正確性があるのか」という質問に対し、藤嶋さんが、「予測の範囲をどれくらいに設定するかによって変わってくる」「全てをAI予測に依存するわけではなく、あくまで生産段階で参考にする資料の一つに過ぎない」という説明をしてくださったことだ。AI、AI、と言っていても、実際にそれがどのような仕組みで活用されているかはなかなか知ることができないので、非常に興味深かった。
流通学部 山本 翔

参加学生一覧

馬詰 怜那、佐竹 捺美、姫野 光太郎、金尾 玲、木村 涼太郎、坂上 拓真、菅根 野愛、垂口 蒼太、寺岡 晴哉、松平 凱斗、南野 嶺、宮武 美怜、山本 翔

連携団体担当者からのコメント

株式会社ZOZOテクノロジーズ
東京大学大学院学際情報学府博士後期課程
藤嶋 陽子 様

 様々な領域でデジタル化やAI活用が進められている現在、このような潮流は産業構造や文化にも大きな変化をもたらしています。みなさんがこういった潮流をどう捉えているのか、またどういったところに関心があるのか、ディスカッションを通して私自身も学ぶところが大きかったです。特にファッションという事例からみていくと、衣服の生産、流通、販売といった色々な場面で新たな取り組みが生まれ、すでに身近に普及しつつあるものから、まだSFのなかの世界のように思えるものまで。それが実際どのように進んでいくかは、私たち次第でもあるわけです。テクノロジーでできることはたくさんある一方で、それをどのように用いていくかは人間の想像力に委ねられています。

教員のコメント

流通学部
安城 寿子 准教授

 「Fashion Tech」という未知の領域について具体的な事例紹介を交えた藤嶋さんのお話は、ゼミ生の知的好奇心を大いに刺激したようで、質疑応答の時間には活発な質問と議論が行われた。特に、「AI技術によるトレンド予測や需要予測の精度が上がることで、ファッションが人間の個性の表現の場たりえなくなってしまうのではないか」というファッションの本質に迫る質問が出たのは印象的で、今年度の「キャリアゼミ」は、AI技術やSNSマーケティングにとどまらない「ファッション」や「ファッションビジネス」について考察を深める貴重な機会になった。さらに、藤嶋さんから、「トレンド予測・需要予測の精度が上がっていった時、ただ大量に生産して効率よく売り捌くことだけを志向することに問題はないか考えてみてほしい」という倫理的問いかけがなされたことは意義深かった。この問題提起が、ゼミ生にとって、倫理や持続可能性という課題に一過性の知的流行としてではなく向き合う契機になればと思う。

 末筆ながら、藤嶋さんには、コロナ禍の最中遠隔で当ゼミの「キャリアゼミ」活動にご協力くださったことに心から御礼申し上げたい。