流通学部 流通学科 片渕卓志
Ⅰ はじめに
今年度の専門演習(3年生ゼミ)では「気候変動(地球温暖化)がもたらす様々な問題の探究」と「それらの問題の解決策の1つである自然エネルギー発電所の実態調査」を研究テーマとしてゼミ活動をしております。ゼミ活動の提携団体として「自然エネルギー市民の会(Peaple’s Association for Renewable Energy Promotion,以下PARE)」様にご協力いただいております。PAREはこれまで5か所の太陽光発電所を建設することに成功しています。その一つが泉大津市汐見町にありますが、この発電所は、全国的にも珍しい「自治体と市民団体が共同」して設置したものです。この市民団体は和泉大津市の敷地を20年間好意で無償で借りることができています。以下、5月29日に行った下見の調査報告と重複するところがありますが、今回はPARE様の計らいで泉大津市の「カーボンニュートラル」に向けた先駆的な取り組みをお聞きすることができましたので、そこから得られた知見を参加学生の感想とあわせて報告いたします。
Ⅱ 日本の電力事業史略説と電力自由化がもつ意味について
この日は小雨交じりの天候でした。大阪公立大学の学生も参加しての視察です。施設の説明の前に場所を地図で確認しておきましょう。
泉大津市汐見下水処理場に赤いピン・マークがあるのが分かりますでしょうか。この敷地内に今回視察見学したPAREの発電施設があります。
この場所は南海線泉大津駅からタクシーで10分ほどです。このMAPに泉大津駅は写っておりませんが、代わりに地図の上部に「ソフトバンク泉大津ソーラーパーク」という灰色のピン・マークが見えます。同パークの出力は約19.6メガワット(モジュール容量)で、一般家庭約5,700世帯分の年間消費電力に相当する発電を行っているとのことです。相当に広い敷地であると想像できます。
日本の電力事業史を紐解くと、明治時代以降、東京や大阪などの大都市の繁華街などで次第に電灯を使うようになり、電力需要が急激に伸びる時期がやってきました。地方でも地域経済の発展のために電気の必要性が高まり、全国に中小の私企業である電力会社が設立されるようになりました。ところが第二次世界大戦の戦雲が高まり、1938年に国家総動員法が制定され、同法にもとづく配電統制令(1941年)により、電力会社は特殊法人の日本発送電と地域ブロックに分けられた9つの配電会社に統合されました。これが戦後の「9電力体制」の元となりました。
この体制は戦後に引き継がれます。小学館の『日本大百科全書(ニッポニカ)』の「公益事業」によれば、電力、ガスや水道、郵便、電信電話、放送などの事業は国民の日常生活にとって不可欠な用役(サービス)を供給する産業であり、これを「公益事業」と定義しています。公益事業とされる要件は、地域社会にとって必需の用役であること、独占的状態において供給されていること、独占権の付与に見合う国家の規制があることがあげられます。
以上のように国民の日常生活にとって「公益性」が高いという理由などにより、日本全国を9つのブロックに区分し(北海道、東北、東京、中部、北陸、関西、中国、四国、九州)、各地域で1社が独占的に電力を供給する体制が築かれました(沖縄電力を含めると10社)。
しかし、現在は電力自由化が実施され、そのような地域独占的な電力供給体制ではなくなり、また発電事業者、送配電事業者、小売事業者に分割されました。そのため、上記のソフトバンクのように、大型の発電施設をもち発電事業に参入した企業や自社に発電設備があるが、電気が余っているので売りたいという場合にも、電気を自由に売ることができるようになりました。市民の側からすると、自然エネルギーによる発電に力を入れている電力会社に契約を切り替えることができるようになりました。
民間企業や市民が発電事業に本格的に参入するきっかけとなったのは、2011年の福島原発事故にあります。事故後まもなく再エネ発電を促進するために、2012年に固定価格買取制度(FIT法)が施行されました。同法は太陽光発電の場合、設備容量10kW以上の産業用では20年間、決められた価格(固定価格)で送配電事業者(自由化前は関西電力、東京電力などの電力会社)が買い取ることを義務付けています。前述の「泉大津汐見市民共同発電所」も「ソフトバンク泉大津ソーラーパーク発電所」もFIT法に基づく発電所です。
Ⅲ 泉大津汐見市民共同発電所の概要
視察見学の様子に話を戻しましょう。上の図、右にあるのが太陽光パネル(ソーラーパネル)です。設計図面を見せて頂きましたが、横幅が50mほどあります。312枚のパネルが設置されており、各パネルから集められた電気は芝生の下に這わせたケーブルを通じて、パワーコンディショナー(電力調整器)に送られていきます。この泉大津市民共同発電所で発電されている電気は平均的な一般家庭の「18から20世帯が使用する電気」に相当します。
なかなか見ることのない太陽光パネルの下の部分です。
何枚かのパネルから発電した電気を集約する装置と思われます。クリーム色の箱から何か黒い、洗濯機の排水ホースのようなものが地面に向けて延びていますが、このホースは地面に埋められて、地面の下を通り、後で説明するパワーコンディショナーに接続されています。
この写真を見ると5つの黒いホースが地面の下から顔を出しているのが分かります。この建物は倉庫であり、中にパワーコンディショナー(パワコン)があります。
これは倉庫の中の様子の一部を写した写真とパワコンのモニター画面の写真です。この画面から太陽光発電の仕組みについて理解を深めることができるかと思います。
まずモニター左側上に「連系」とあります。黄色く照らされています。これは太陽光パネルで発電した電気を電線に連系して送電していることを示しています。一方、モニター左下の「自立」とは、電線に電気を送らずに運転している状態を意味します。例えば災害時にパワコンから電気を取り出し、スマホなどを充電することなどを想定しています。家庭の太陽光発電のパワコンにはほぼこの機能が備わっています。
真ん中の画面は現在の発電量をリアルタイムで表示しています。「0.66」と表示されています。この日は雨でした。そのため、発電量は多くありませんでした。汐見発電所の場合、160Wのパネルを312枚使っており、それを9区画に分けて、9台のパワコンで管理しています。この写真はそのうちの1台です。
表示画面の右側の上は「発電電力kW」、下は「積算電力量kWh」と書いてあります。この右側に「運転」ボタンと「表示」の切り替えスイッチが付いています。
このパワコンの大切な役割として、太陽光パネルが発電する電流が直流であるため、それを交流に変換してあげることと、電柱の電線に電気を送るために電圧を100V(ボルト)に昇圧することがあります。
電気を売るためには、パワコンで昇圧された電気を外部にある電線につなぐ必要があります。この写真にある電柱も自分たちで建てたそうです。電柱が路上ではなく、敷地内にあることが何よりの証明でしょう。この電柱にある電線から敷地外にある関西送配電の電線に電気が送られ、その販売した電気の量に応じて、この発電所に出資した市民は収入を得ることができます。いったんまとまったお金を出資する必要はありますが、配当率は1.2%/年、すなわち、10万円を出資した場合、1200円を受け取ることができます。以上が泉大津汐見市民共同発電所の概要です。
余談ですが、やや経営学的な話をすると、現在のソーラーパネル(モジュール装置)の世界シェアは、2022年で1位中国(45%)、2位台湾(15%)、3位日本(9%)となっており、メーカー別でもトップ5はすべて中国企業で、日本企業はトップ10にも1社も入っていません。かつて日本は50%以上の世界シェアがありましたが、急速にシェア落としました。しかし、京セラ、シャープ(SHARP)、パナソニックなどが今でも生産を続けています。
もう一つ余談ですが、太陽光発電は光エネルギーを電気エネルギーに転換させることですが、1960年代に無人灯台などでそれは実用化されていたとはいえ、この技術が社会に広く普及したのは、大阪に本社のあるシャープ(SHARP)によって、1976年に発売されたソーラー電卓においてでした。光のあるところであれば動くため、電池を必要とせず経済的でした。シャープは自然エネルギーによる発電技術を量産可能な形で実用化させたという功績によって持続可能な人間社会の構築を潜在的に可能にしたという側面で大きく貢献したと評価できると思います。
Ⅳ 泉大津市 都市政策部 環境課
ゼロカーボンシティ推進担当 鳥居義弘(とりい よしひろ)氏からの聞き取り
その後、私たちはタクシーに分乗し、泉大津市役所へ向かいました。泉大津市は人口が7万3千人の小さな自治体で、毛布の生産が盛んな都市として知られています。今回は泉大津市の2050年に向けたカーボンニュートラルへの取り組みを教えて頂きました。
その後、私たちはタクシーに分乗し、泉大津市役所へ向かいました。泉大津市は人口が7万3千人の小さな自治体で、毛布の生産が盛んな都市として知られています。今回は泉大津市の2050年に向けたカーボンニュートラルへの取り組みを教えて頂きました。
まず、2021年に「地域脱炭素ロードマップ」が国から示され、「2030年までに公共施設の50%以上に太陽光発電を設置する」という方針が示されました。現在は施設への導入可能性の調査を行っているところとのことでした。地震や台風等で太陽光パネルが飛ばされ、人がけがをするなどの危険性がないよう調査は必要と思います。
また泉大津市は2020年に「ゼロカーボンシティ」を表明し、2050年までにCO2排出量実質ゼロをめざすことを宣言しました。この「ゼロカーボンシティ」とは、市内のあらゆる建物、すなわち学校や公共施設だけでなく、工場やオフィス、コンビニやスーパーマーケットなどの店舗、そして一般家庭をも含めて、市内のCO2の排出をゼロにすることを市の政策として掲げたということを意味しています。現在全国でおよそ900の自治体が「ゼロカーボンシティ」を目指すことを表明しているそうです。日本の市町村は現在、1,718ありますから(北方領土を含めると1,724自治体)、半分の自治体が2050年にカーボンニュートラルを現実のものにするよう取り組みを進めているということです。そのようなことが本当にできるのだろうかと考えがちですが、国連で決めたことであり、日本政府の方針を各市町村はそれぞれの環境や条件のなかで具現化しなければ、地球の温暖化は止まらないのであって、色々な取り組みが泉大津市でなされていることが説明されました。
今回、泉大津市は森林の少ない地域であることもあって、2050年の温室効果ガス(CO2)の削減目標は本当の意味でのゼロにすることは難しく90%減を目標としていると説明されました。そして、残りの10%を「クレジット」で賄うというお話でした。環境省等の「J-クレジット」制度の説明から想像するところでは、この「クレジット」とは「CO2削減量に価格のついた信用取引」と言いかえることができるかもしれません。
温室効果ガス削減を行う人や自治体、具体的には農業者や森林所有者、森の多い地方自治体はCO2削減を「つくる人」(J-クレジット創出者)となり、その削減量に応じてクレジットを売却することができます。一方、大企業や人口の多い自治体など、完全にCO2をゼロにすることが困難であるという場合、そのJ-クレジット購入者となり、創出者へクレジットを売却します。そのことを通じて、農業者や森林所有者、森林の多い自治体はさらなるCO2削減量の増加のために再生可能エネルギーを導入する資金をえることができ、国全体としてより一層、CO2排出量を削減できるという制度です。この制度がうまく機能するかについては、これから見守っていく必要があります。
泉大津市が実際に行っているゼロカーボン化へ向けた取り組みの一例を取り上げましょう。泉大津市では一般家庭等から出される可燃性のごみに対し、市が指定した袋を使用することになっています。市は市民がそのごみ袋を購入した際の手数料収益を「地域環境基金」とし、ゼロカーボン化のために用います。たとえば市民が自宅に太陽光発電を設置する際、購入の補助として7万円を基金から補助してもらうことができます。この制度が導入されて以降、832件に補助し、CO2を削減させました。他にも蓄電池(バッテリー)、家庭用燃料電池、省エネ家電への買い換えなどにも補助金を出す事業を行っています。
また、学生が下にコメントを寄せていますが、「幼児を乗せる2人乗り電動自転車」の購入に対する補助も行っています。これは、むやみに乗用車を増やさないという作用を生む助成制度としての特徴を見出すことができるように思われました。担当の鳥居様には丁寧に、そして取り組みの全体像が分かる説明をしていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
説明会の様子。手前が環境課ゼロカーボンシティ推進担当鳥居義弘様、左側にキャリアゼミ連携団体スタッフ、右側は学生たち
参加学生のコメント
家次 一毅
泉大津汐見市民共同発電所ではソーラーパネルによる太陽光発電を行っていました。発電された電気はパワーコンディショナーという装置によって直流から交流に変換され、われわれの自宅に届けられます。今回、見学させていただいた発電所での発電量は一般住宅の15?20世代分になるとのことです。
また泉大津市の「ゼロカーボンシティ」の取り組みについても学ぶことができました。泉大津市では、2050年までにCO2の実質排出量をゼロにする取り組みを行っており、市民や市の事業者、公共施設などのすべてに再生可能エネルギーを導入してもらうことを目指し、太陽光発電の普及に力を入れているとのことでした。
加えて泉大津市の地理的な特徴として、標高差が最大18メートルしかなく、傾斜は1℃未満という具合のとても平坦な土地であるという点にも、私は同市が太陽光発電を普及させるポテンシャルが他の地域に比べ高いと感じました。また平坦な土地であることによって徒歩や自転車移動が行いやすく、CO2排出の原因の一つである自動車の排気ガスを減少させるための取り組みとして二人乗り(子どもを乗せる場合)の電動自転車に対して市は購入の支援を行っています。これらの取り組みをより多くの市民に知ってもらうことが「ゼロカーボンシティ」の実現につながると考えました。
山下 大地
今回、泉大津市にある市民共同発電所の見学と泉大津市市役所でのお話を聞いて、特に印象に残っているのが、パワーコンディショナー(パワコン)の役割と「ゼロカーボンシティ」です。 パワコンは、共同発電所の倉庫の中に9台設置されており、一台につき1.5kwの電力を取り出す事ができるようになっています。役割は、電圧を変える事と太陽光で発電した直流の電気を交流に変換することです。これは電線を通っている電気は交流であり、太陽光パネルによって発電された電気が直流になっているため、直流のままだと電線に発電した電気が流せなくなるためです。
泉大津市でお聞きした「ゼロカーボンシティ」とは、2050年までにCO2の排出量実質ゼロを目指している地域のことです。泉大津市では一日一人あたりのゴミの排出量を減らしたり、リサイクル率を増やしたりなど様々な環境に関する計画を定めています。
今回のキャリアゼミにより、太陽光発電を
間近で見ることができ、また市の環境への取り組みを聞くといった貴重な体験ができ、とても良かったです。
今川 斗碧
パワコンの役割は直流を交流に変えていることと電線に電力を流すことにあります。 泉大津市が取り組む「ゼロカーボンシティ」とは、2050年にその地域からCO2をゼロにする取り組みです。CO2の排出量は、泉大津市単独でどれだけ輩出したかを正確に割り出すことはできないため、大阪府で排出量を計測し、それを各自治体の住民や事業者の数から案分するということがわかりました。
世界の国々でCO2の排出制限の基準は違います。日本では2030年には排出量46%にし、50年には完璧にゼロにする取り組みが現在行われています。泉大津市は緑の少ない土地であるため、完全にゼロにすることはできず、90%減を目標とし、残りの10%を他の森林が多い地域との間でクレジットを使ってゼロにするよう計画されています。
いま電気自動車の普及が地球温暖化のために重要と言われています。そのためには、まず、石油や石炭、天然ガスなどのCO2を排出する発電ではなく、太陽光や風力などの自然のエネルギーにより発電した電気を使った自動車になる必要があります。完全な電気自動車は現在、アメリカのテスラ、日産のリーフが有名ですが、これから増えるとされています。電気自動車はバッテリーの耐久時間とスタンドでの充電に時間がかからないことが必要であるため、現状はまだ長距離移動には向かないとお聞きしました。したがって充電される車載用バッテリーのさらなる開発が必要であると分かりました。以上の結果、市民と自分たちの暮らしの意識を変えていかなければ地球温暖化は解決できないと分かりました。
石田 将暉
今回の視察見学会に参加できませんでしたが、参加したゼミの仲間や視察見学会で頂いてきてもらった資料を読みながら、私なりに考えてみました。まずは泉大津市にある汐見市民共同発電所は大阪府初の試みであったということです。太陽光発電の設備は市の汐見ポンプ場の空き地の埋立地にあり、市から20年借りているとのことです。それも無償で借りられているということで、市からの同意をしっかり受けられていて、行政と市民団体の双方の意見が合致して連携されていることがわかりました。
泉大津市は「ゼロカーボンシティ」といって、「2050年までにゼロカーボン(脱炭素)を目指す」と表明しています。市内で排出される二酸化炭素の量は大阪府の数値から割り出します。
ただ、完璧に0にすることはできないそうです。そこで、10%の二酸化炭素をクレジットと呼ばれる方法を使ってゼロにすることもわかりました。
CO2の排出量を抑えるためには、まずは発電所で石油、石炭、天然ガスなどを燃焼させて電気をつくることを止めることが重要になってきますが、まだまだ進んでいるとはいえません。市として平坦な土地ですから、CO2を排出する乗用車でなく自転車での移動を勧めていて、2人乗りの電動自転車の購入への支援も行っています。市民や個人の意識がCO2を減らすことへの1番の取り組みになると言うことが今回のお話からわかりました。
なお、本活動は阪南大学キャリアゼミ事業の助成を受けて行っております。