ゼミと授業の紹介 — 青木博明の場合 —

 これまで青木ゼミでは実際の販売データを扱ってきました。企業から販売データの提供を受け、Excelを使ってその分析集計を行うのです。商品としては、これまでケーキやシュークリーム、スーパー・マーケットの商品を扱ってきました。
 データの提供をお願いするために、実際にゼミ生と店を訪問して交渉することもしました。今年度は「フローレンス」という大阪の「あびこ」に本店を持つケーキ屋さんにお願いして、販売データを頂いてその分析をしました(大学のキャリアゼミ活動に参加)。またフローレンスのケーキの試食を大学のそばの喫茶店ビーボで行い、同時にアンケートをとりました。
 これらのデータを統計学と在庫の理論を使って分析し、それを報告書にまとめてフローレンスさんに提出しました。また社長さんを大学にお呼びして報告書の内容をプレゼンしました。

 これらの分析集計にはExcelを使いましたが、Excelは入口が広くかつ奥が深く、その点で理想的なソフトだといえます。入口が広いというのは、初心者にも分かり安いということで、奥が深いというのは、統計学をはじめ各種の専門的分析が可能ということです。またExcel はVBA(Visual Basic of Applications)というプログラミング機能も持っています。これはボタン一つで、データの加工やファイルの処理など様々な計算処理をしてくれる機能です。
 プログラミングは計算や処理などの命令を書き込んで組み合わせていきます。一つ一つ命令した通りに忠実にVBAは動いてくれるのですが、全体として自分の目的通りのプログラムにするには苦労があります。しかし“あーでもない、こーでもない”と、壁にぶつかりながらも、自分の思っている通りのプログラムに近づけることには、それ自体ゲームのような楽しさがあります(ゲームそのものを作ることも可能です)。作成中に浮かんだ自分の発想も組み込むこともでき、まだ形の決まっていない、画面上で動くプラモデルを作るような楽しさがあります。ただし、そのためにはプログラムの構文を理解する必要があり、また粘り強く考え抜く力が必要です。
 Excelは表の形式でデータが保存されているので、データ処理がしやすく、膨大なまた同様の計算を繰返し行うときには、大きな力を発揮します。その意味でExcel VBAは実用的ですが、コンピュータに関する工学的知識がなくても始められ、入門者向けといえます。今年度ゼミ生がExcel VBAの利用の卒業研究を提出しましたが、彼にとって卒業後の有力なツールとなると思います。
 その他Excelにはソルバーという機能があり、授業で教えています。これはいろんな問題を解いてくれます(万能ではないですが)。Excel上で最大化・最小化の問題を定式化さえすれば、Excelがその解を計算して教えてくれます。方程式を解く機能もあります。人間が解を考える必要がないのです。
 経済・経営の多くの問題にも応用することができます。例えば、生産費用や輸送費の最小化、利益や満足度(効用)の最大化、在庫の最適化などです。大学生にとって身近な例としてアルバイトのスタッフのシフト問題なども解いてくれます。ただ解くのではなく、例えばよりスタッフの満足度を上げるといった付加価値を付けて解いてくれます。
 このソルバーが今後ますますビジネスの現場で利用されるようになるのではないかと思っています。ただし、そのためには問題を把握し数学的に定式化するだけの数学の基礎学力が必要です。

 最初の統計学や在庫の理論の話に戻りますが、私のゼミではこの2つを中心に学んでいます。役に立ち意味のあるデータ分析をするためには統計学を学ぶ必要があります。統計学はデータを扱うほとんどの分野で応用できる、とても汎用性が高いものです。当然社会に出ても役に立つし、また統計学を学ぶ過程で数学の力が身につきます。また在庫理論はほとんどの企業で経営戦略上重要なテーマです。しかし、これらを理解するためには机の上での勉強がどうしても必要で、さけて通ることはできません。
 残念ながら、学生の中には、なるべく楽に勉強をして楽に卒業すれば良いと考えて、自分を高めようという思いが希薄な人がいるように思います。しかし、だれもが簡単に理解できることだけを学んでいても、自分自身の中に確かな価値を作り出すことができません。なぜなら、当然ですが、それはだれもが簡単にまねすることができるからです。
 そして学ぶことの楽しさも知らず、なによりも自分が内に持つ潜在能力を形にすることができないまま終ってしまいます。大学に来たことの意味を考え直す必要があると思います。学ぶことには苦しみが伴います。しかし、その入口が荊に囲まれているように見えても、覚悟と勇気を持って“思索の林”に分け入っていくと、やがて不思議に学ぶことの楽しみが湧いてきます。皆さんにとって大学生活は二度とないでしょうし、勉学において自分の可能性を試す機会も二度とこないでしょう。大学時代は長いようでも、ふり返ってみれば意外と短いものです。学ぶ楽しみを知らないまま終わらないようにしてほしいと思います。
 昨今ビッグデータやデータマイニングという言葉をよく耳にするようになりましたが、IT(情報処理技術)の進歩に伴って統計計算をするソフトが普及し、またデータが手に入り易くなりました。今後ますます、データ分析、統計学の知識や技能が重要になります。それらの有用性と知識と、それらを学ぶ楽しさを見つけてほしいと思います。
以上