2024年度第1回経済学部研究会

執筆者 経済学部 橋爪 亮

経済学部研究会について

 2024年度より、阪南大学経済学部では教員同士の研究会がスタートしました。この研究会では、報告者が自身の研究について発表し、その内容に関して皆で意見交換を行います。阪南大学経済学部には、経済学に限らず、法学、言語学、教育学など多様な専門性を有する教員が在籍しており、様々な視点から意見が交わされます。これにより、報告者の研究がより一層進展することが期待されています。加えて、研究が進む過程で蓄積された知識が教員の授業を通じて学生に還元されることも期待できます。
 本研究会が各教員の研究活動を推進する場となり、より良い教育の提供に繋がることを目指しながら、今後も研究会を開催していこうと思います。

2024年度第1回経済学部研究会の報告内容

 タイトルは「第三級価格差別(独占と継起的独占)」で、私が報告しました。
 この研究では、企業の価格戦略のひとつである価格差別に焦点を当てています。差別と聞くと良くないイメージを持ってしまいがちですが、価格差別は人種や性別などを要因とする正当な理由無き差別行為ではありません。商品を買い手に応じて別々の価格で販売するという価格差別が利潤(=収入-費用)の増加をもたらすという経済的合理性があるために、企業は価格差別を実施します。
 なお、価格差別はしばしば3つの種類に大別されます。そのひとつが第三級価格差別であり、グループ・プライシングとも呼ばれます。これは、企業が識別可能な消費者の特性(年齢、学生か否かなど)に基づいて、市場を細分化して、グループごとに価格を設定するというものです。例としては、鉄道運賃の大人向けと子ども向けや、映画料金の一般向け、学生向け、シニア向けといったものが挙げられます。第三級価格差別という専門用語を聞くと小難しそうに聞こえるかもしれませんが、例を見ると身近な経済現象だと理解してもらえるのではないでしょうか。
 ここで、タイトルにつけた独占と継起的独占についても説明しておきましょう。これらは市場の構造を表すものです。独占は、ただ1つの企業しか存在せず競争相手がいない状況を指します。このとき、独占企業は商品の生産と販売の両方を自社で行っていると考えます。継起的独占は、上流と下流という垂直的な取引関係がある構造で、上流と下流のどちらにも1つの企業しか存在しない状況を指します。これは、上流企業が作った製品を下流企業が仕入れて加工したうえで販売する状況、あるいは上流企業が商品を生産する製造業者であり下流企業がその商品を仕入れて販売する小売業者という状況になります。なお、上流企業が下流企業と取引するときの仕入価格については、上流企業が決めると想定します。この際、下流企業がたくさん売ることができると見込めるならば仕入価格は高めに設定され、あまり売ることができないと予想されるならば仕入価格は低めに付けられます。
 それでは、研究の要点に入る前に、第三級価格差別がなぜ企業の利潤を増やすのかを独占の場合で見てみましょう。周辺に競合のいない映画館を例に説明します。
 まず、第三級価格差別ができず、全員に同じ価格(単一価格)しか設定できない場合を考えます。このとき、映画館の利潤を最大にする最適価格が存在します。ここでは、それを1,500円と仮定します。
 次に、第三級価格差別が可能で、一般向け価格と学生向け価格を設定できる場合を考えます。一般向けと学生向けの両方を1,500円に設定すれば、単一価格の場合と同じ利潤を得ることができます。しかし、いまや異なる価格を設定できるため、利潤を最大化するにあたって、一般向けには1,500円より高い価格を、学生向けには1,500円より低い価格を設定します。たいていの場合、一般の方は価格変化に対する反応が小さいため高い価格を設定し、学生は価格に敏感なため低い価格を設定するのが効果的です。
 このように第三級価格差別をすることで、独占企業は単一価格を設定する場合よりも価格設定に自由が生まれて利潤を増やすことができます。すなわち、可能な限り市場を細かなグループに分けて、別々の価格を付けることが独占者にとって得策といえます。
 しかしながら、現実には企業はそこまで細かくグループ分けして別々の価格をつけることはしていません。実際、多くの映画館が55歳あるいは60歳以上向けにシニア割引として一般料金より低い価格を設定していますが、60~69歳、70~79歳向け、80~89歳向け、90歳以上向けのような料金体系は設定していません。では、この理由は何でしょうか?これが本研究のリサーチ・クエスチョンであり、経済学的分析に基づいて解明したい対象になります。
 本研究で導き出した結果は、継起的独占の場合、消費者が商品を購入する最終財市場において下流独占企業が市場細分化を進めて第三級価格差別を実施すると、下流独占企業の利潤が実施前より小さくなる場合があるというものです。分析においては、数式を用いて結果を導いていますが、ここでは直観的説明のみを示します。
 単一価格を設定する状況から第三級価格差別できる場合に移ると、下流企業の利潤に2つの効果が発生します。1つ目は上で説明したものであり、価格設定の自由が生まれるという下流企業の利潤に対するプラスの効果です。2つ目は、上流企業からの仕入価格が上昇するという下流企業の利潤に対するマイナスの効果です。この効果が発生する理由は次の通りです。単一価格の場合、仕入価格が高いときには、下流企業はたくさん売ろうとするのではなく高くても買ってくれる購入層に絞って販売します。しかし、第三級価格差別が可能な場合、高くても買ってくれる購入層には高い価格、安くないと買わない人々には低い価格で販売するため、販売量は単一価格のときよりも多くなります。その結果、下流企業が第三級価格差別できる場合の方が単一価格しか設定できないときよりも、上流企業が設定する仕入れ価格が高くなります。
 上記の2つの効果の大きさに着目すれば、プラスの効果をマイナスの効果が上回ることによって、下流企業の利潤が第三級価格差別を実施することで小さくなると説明できます。
 以上のように説明される本研究の結果は、最終財市場における独占企業であっても、垂直的な取引関係がある場合には可能な限り市場を細分化し異なる価格付けを行うインセンティブを常に持つわけではないということを示しており、リサーチ・クエスチョンに対する回答となりえます。
 本研究に限らず、経済学では身の回りの様々な経済現象を理論的に解き明かすための分析が行われています。この紹介記事を通じて、皆さんが経済学に対してより関心を持っていただけることを願っています。
 最後になりますが、研究会にご参加いただいた先生方に心より感謝申し上げます。また、いただいたコメントをもとに研究を進め知見を積み、それを教育にも還元して参りたいと存じます。

阪南大学経済学部【阪南経済NOW】