ボードゲーム『カタン』でひらく経済学の扉
執筆者:細川 裕史

 Guten Tag(こんにちは)! 阪南大学でドイツ語を担当している細川裕史です。特集「実はゲームで学べる!“世の中”のこと」の第1弾として、この記事では、ドイツでは「経済学の教材」という評価のある大人気ゲーム『カタン』を紹介します。

『カタン』ってどんなゲーム?

 ドイツのゲーム作家クラウス・トイバーによって1995年に発表された『カタン』は、現在では世界大会が開かれるほど人気のボードゲームです。
 ゲームの舞台は、大航海時代の無人島。プレイヤーたちはその島に入植し、それぞれが選んだ土地を開拓していきます。そして、もっともはやく特定の規模まで開拓地を発展させたプレイヤーの勝ちです。
 開拓した土地から資源(木材や羊毛など)が得られるかどうかはサイコロの目次第ですが、それらをいつ、なんのために使うのかはプレイヤーの判断にまかされています。街道を整備して新たな開拓地を建設するのか、あるいは、すでにある開拓地を都市へと発展させるのか……。
 しかし、このゲームにはさらに重要な要素があります。それは、交渉をつうじてプレイヤーがおたがいの資源を交換できることです。たとえば、木材があまっている鈴木さんと羊毛があまっている佐藤くんが話し合い、木材と羊毛を交換して有利にゲームをすすめることができます。もちろん、競争相手と交渉するのですから、この取引がフェアである必要はありません。相手の弱みにつけこんで、相手からおおくの資源を巻きあげることもできます。
 このように、『カタン』には、運と戦略、さらにはコミュニケーション能力という3つの要素が複雑にからみあっているため、子供から大人まで楽しめるゲームになっているのです。

  • 『カタン』(日本語スタンダード版、ジーピー)

経済学の教材としての『カタン』

 さて、この『カタン』は、ほんとうに「経済学の教材」と呼べるのでしょうか?
 阪南大学経済学部には、入門科目として「基礎ミクロ経済学」という講義があります。その教科書である『経済学への招待』(岩田規久男著、新世社)を、ちょっと見てみましょう。
 この本ではまず、経済学における「財」について説明されています。それによれば、機械や工場など財を生産するための財を「資本財」と呼ぶそうです。『カタン』は資源を手に入れるための開拓地を発展させていくゲームですから、資本財を増やすゲームと言えますね。つづいて、「資源」について。ゲーム内で資源とされているのは、土地から得られるものだけで、経済学の分野では「天然資源」と呼ばれるそうです。しかし、経済学であつかう資源には、その他にも「労働」や「物的資本」(機械や工場など)があります。それから、「市場」(財とお金を交換する場)と「資源配分」(どの資源をどの財のために利用するのか)の話になりますが、これは——ゲーム内では物々交換ですが——まさに『カタン』の根幹をなすテーマですね。
 この教科書では、その他にも、「市場経済」や「需要と供給」といった『カタン』にとって重要なキーワードが、くわしく説明されています。
 なるほど、なるほど……。このゲームが経済学そのものを教えてくれるわけではありませんが、経済学があつかう事柄をゲームで体験していれば、こうした専門的なことばも理解しやすくなるでしょうね。
 そう考えると、たしかに『カタン』は、「経済学の教材」と呼べそうです。みなさんも、ぜひ、ゲームを楽しみながら経済学への扉を開いてみてください!