今回は、今年度のオープンキャンパスで実施された「ビジネス経済学」パッケージの模擬講義の内容の一つをご紹介したいと思います。
他人の買い物が自分の買い物に影響する?
皆さんが買い物をするとき、他人が何を買っているか、どれを選んでいるか、気にすることがありますよね。
インターネットの、いわゆる「口コミ」情報を確認してから評判のいい商品を買うのが習慣になっているという人も多いのではないでしょうか。でも、あまりにもいい口コミばかりだと、逆に信じてはいけないような気がしたりして・・・。このような口コミ情報目当てのケースでは、他人の買い物を気にすると言っても、あくまでも、商品についてできるだけ正しい情報を得ることが目的だといえるでしょう。
しかし、他人の買い物が気になる別のケースも考えられます。その商品を使っている人が沢山いるのか、いないのか、そのこと自体が気になるケースです。「気になる」方向性は正反対の2種類あります。
一つは、みんなが使っている流行の商品を自分も使いたい、という場合です。これは、沢山の人が使っている(=流行している)ということそれ自体が、あなたにとってのその商品の魅力を高める効果をもっていることを意味しており、このような効果のことを「バンドワゴン効果」と呼びます。バンドワゴン(bandwagon)とは、パレードの先頭を行く、音楽隊を乗せた馬車のことですが、英語で「バンドワゴンに飛び乗る(上る、乗る)」(jump/climb/get on the bandwagon)という表現は、流行に乗る、時流に乗る、というような意味になります。
インターネットの、いわゆる「口コミ」情報を確認してから評判のいい商品を買うのが習慣になっているという人も多いのではないでしょうか。でも、あまりにもいい口コミばかりだと、逆に信じてはいけないような気がしたりして・・・。このような口コミ情報目当てのケースでは、他人の買い物を気にすると言っても、あくまでも、商品についてできるだけ正しい情報を得ることが目的だといえるでしょう。
しかし、他人の買い物が気になる別のケースも考えられます。その商品を使っている人が沢山いるのか、いないのか、そのこと自体が気になるケースです。「気になる」方向性は正反対の2種類あります。
一つは、みんなが使っている流行の商品を自分も使いたい、という場合です。これは、沢山の人が使っている(=流行している)ということそれ自体が、あなたにとってのその商品の魅力を高める効果をもっていることを意味しており、このような効果のことを「バンドワゴン効果」と呼びます。バンドワゴン(bandwagon)とは、パレードの先頭を行く、音楽隊を乗せた馬車のことですが、英語で「バンドワゴンに飛び乗る(上る、乗る)」(jump/climb/get on the bandwagon)という表現は、流行に乗る、時流に乗る、というような意味になります。
もう一つは、できるだけみんなと同じ物は使いたくない、という場合です。こちらは反対に、めったに他人が使っていないということそれ自体が、あなたにとってのその商品の魅力を高める効果をもっていることを意味しており、このような効果を「スノッブ効果」と呼びます。スノッブ(snob)は、お高くとまった人、とか、上流気取りの人、などの意味ですから、「自分が使っているものは、一般人が使うものとは違う」ということを鼻にかけるイメージが浮かんできます。ただし、経済学用語としては善悪の判断は含んでいません。
ほとんどの皆さんは、どちらの効果にも心当たりがあるのではないかと思います。2つの効果のうち、「バンドワゴン効果」の方は、使う人が増えるほど商品の魅力が増す→商品の魅力が増すのでより多くの人が使うようになる→使う人がさらに増えるので商品の魅力がさらに増す→商品の魅力がさらに・・・とグルグル続く関係を生じさせ、大ヒット商品を誕生させるような働きをすると考えられています。このグルグル続く関係は、「ポジティブ・フィードバック・ループ(positive feedback loop)」と呼ばれます。
ほとんどの皆さんは、どちらの効果にも心当たりがあるのではないかと思います。2つの効果のうち、「バンドワゴン効果」の方は、使う人が増えるほど商品の魅力が増す→商品の魅力が増すのでより多くの人が使うようになる→使う人がさらに増えるので商品の魅力がさらに増す→商品の魅力がさらに・・・とグルグル続く関係を生じさせ、大ヒット商品を誕生させるような働きをすると考えられています。このグルグル続く関係は、「ポジティブ・フィードバック・ループ(positive feedback loop)」と呼ばれます。
「直接的ネットワーク効果」※注ⅰ
上の「バンドワゴン効果」の説明では、「沢山の人が使っているほど、その商品が魅力的になる」理由を、「流行に乗りたい」という人々の心理から説明しました。しかし、商品やサービスによっては、「沢山の人が使っているほど魅力的になる」ことを説明する、もっと客観的な理由をもつものがあります。
例えば、スマホの無料通話アプリ(例えば、LINE)について考えてみましょう。このアプリの魅力は、同じアプリを使っている人となら、追加料金なしでいつでも簡単に通信できることです。ですから、もしこのアプリの利用者があなた一人しかいなかったら、このアプリには何の魅力もありません。でも、利用者が増え、あなたが連絡を取りたい相手がこのアプリを使うようになればなるほど、このアプリの魅力は増していきます。たとえアプリそのものの機能には何ら変化がなくても、このアプリを利用する人が増えれば、あなたはより多くの人と追加料金なしで簡単に通信できるようになり、それだけであなたにとってのこのアプリの魅力は増していきます。このような、利用者が増えることによってその商品やサービスを利用する魅力が直接的に高められるような効果を「直接的ネットワーク効果」と呼びます。この場合も、利用者が増える→魅力が増す→ますます利用者が増える→ますます魅力が・・・というポジティブ・フィードバック・ループを生み出します。
例えば、スマホの無料通話アプリ(例えば、LINE)について考えてみましょう。このアプリの魅力は、同じアプリを使っている人となら、追加料金なしでいつでも簡単に通信できることです。ですから、もしこのアプリの利用者があなた一人しかいなかったら、このアプリには何の魅力もありません。でも、利用者が増え、あなたが連絡を取りたい相手がこのアプリを使うようになればなるほど、このアプリの魅力は増していきます。たとえアプリそのものの機能には何ら変化がなくても、このアプリを利用する人が増えれば、あなたはより多くの人と追加料金なしで簡単に通信できるようになり、それだけであなたにとってのこのアプリの魅力は増していきます。このような、利用者が増えることによってその商品やサービスを利用する魅力が直接的に高められるような効果を「直接的ネットワーク効果」と呼びます。この場合も、利用者が増える→魅力が増す→ますます利用者が増える→ますます魅力が・・・というポジティブ・フィードバック・ループを生み出します。
「間接的ネットワーク効果」
利用者が増えることによってその商品やサービスを利用する魅力が高まる、もう一つの例を見てみましょう。
スマホにはOS(operating system、基本ソフト)の違いによっていくつかの種類があるのはご存じでしょう。世界で最も売れているスマホはAndroid OSを搭載したスマホで、世界のスマホ販売台数の85パーセント前後を占めています。iOSを搭載したiPhoneは、日本では沢山売れているようですが、世界の販売台数では約15パーセント程度となっています。ただし、低価格機種も多いAndroid に対して、iPhoneは高価格帯の機種に集中していることに注意が必要です。一方、パソコン用OSの世界では「世界標準」となっているWindowsですが、スマホ用OSであるWindows 10 Mobileなどを搭載したWindows Phoneは世界のスマホ販売台数の1パーセントにも達していません※注ⅱ。
Android OSやiOSとWindows Phoneとのこの違いが生まれた大きな原因の一つは、各スマホOSで利用できるアプリの数の違いだと言われています。少し前の2014年9月のデータですが、Android OSで利用可能なアプリの数は約135万、iOS用が約130万であるのに対して、Windows Phone用は約30万にすぎませんでした※注ⅲ。アプリを開発するプログラマーは、利用者が沢山いて、沢山アプリを買ってくれそうなスマホ向けのアプリを作りたいと考えるに違いありません。一方、スマホ利用者の方は、より多くのアプリが利用できるスマホに魅力を感じると考えられます。そうすると、あるスマホの利用者が増える→そのスマホ向けにアプリが開発される→そのスマホの魅力が増すという効果が生じます。このように、利用者の多い商品やサービス向けに、それらと一緒に用いる商品やサービス※注ⅳがより多く提供されることによって、元々の商品やサービスを利用する魅力が高められる効果を「間接的ネットワーク効果」と呼びます。Windows Phoneは間接的ネットワーク効果が働くのに必要な規模の利用者を適切な時期に獲得することに失敗したため、アプリの数が増えない→魅力がなく利用者が増えないor減る→ますますアプリの数が減る・・・という悪循環に陥ってしまったと考えられます。反対に、Android OSやiOSには、「間接的ネットワーク効果」によるポジティブ・フィードバック・ループで、ますます利用者が増えていったのです。
スマホにはOS(operating system、基本ソフト)の違いによっていくつかの種類があるのはご存じでしょう。世界で最も売れているスマホはAndroid OSを搭載したスマホで、世界のスマホ販売台数の85パーセント前後を占めています。iOSを搭載したiPhoneは、日本では沢山売れているようですが、世界の販売台数では約15パーセント程度となっています。ただし、低価格機種も多いAndroid に対して、iPhoneは高価格帯の機種に集中していることに注意が必要です。一方、パソコン用OSの世界では「世界標準」となっているWindowsですが、スマホ用OSであるWindows 10 Mobileなどを搭載したWindows Phoneは世界のスマホ販売台数の1パーセントにも達していません※注ⅱ。
Android OSやiOSとWindows Phoneとのこの違いが生まれた大きな原因の一つは、各スマホOSで利用できるアプリの数の違いだと言われています。少し前の2014年9月のデータですが、Android OSで利用可能なアプリの数は約135万、iOS用が約130万であるのに対して、Windows Phone用は約30万にすぎませんでした※注ⅲ。アプリを開発するプログラマーは、利用者が沢山いて、沢山アプリを買ってくれそうなスマホ向けのアプリを作りたいと考えるに違いありません。一方、スマホ利用者の方は、より多くのアプリが利用できるスマホに魅力を感じると考えられます。そうすると、あるスマホの利用者が増える→そのスマホ向けにアプリが開発される→そのスマホの魅力が増すという効果が生じます。このように、利用者の多い商品やサービス向けに、それらと一緒に用いる商品やサービス※注ⅳがより多く提供されることによって、元々の商品やサービスを利用する魅力が高められる効果を「間接的ネットワーク効果」と呼びます。Windows Phoneは間接的ネットワーク効果が働くのに必要な規模の利用者を適切な時期に獲得することに失敗したため、アプリの数が増えない→魅力がなく利用者が増えないor減る→ますますアプリの数が減る・・・という悪循環に陥ってしまったと考えられます。反対に、Android OSやiOSには、「間接的ネットワーク効果」によるポジティブ・フィードバック・ループで、ますます利用者が増えていったのです。
「ネットワーク効果」が生み出す「一人勝ち」現象
このように、「直接的ネットワーク効果」や「間接的ネットワーク効果」が働く場合には、多くの利用者を獲得した商品、サービスがより魅力的になり、ますます多くの利用者を惹きつけるポジティブ・フィードバック・ループが生じます。そして、利用者数が一定の規模に達して「誰でもみんな利用している」状態になると、他の、競争相手の商品やサービスに勝ち目がなくなる「一人勝ち(winner-take-all、勝者による総取り)」状態が生じると考えられています。
ひとたび「一人勝ち」状態の商品やサービスが誕生すると、その状態は打ち破られにくく、一種の「慣性」が働くようになると考えられます。例えば、もし皆さんがよく利用している無料通話アプリより、さらに魅力的な機能をもった、別の全く新しい無料通話アプリが登場したら、どうしますか。ただし、これまで使っていたアプリと新しいアプリとの間では、通信はできないとします。新しいアプリの機能は使って見たいけど、これまで通話していた人たちと通話できなくなるのでは意味がないので、新しいアプリの利用は諦める、ということになりそうですよね。このように、すでに大勢の利用者がいる商品やサービスから離れようとすると、大きな犠牲を払わなければならなくなり、結局はこれまでのネットワークにとどまる方を選択する、という「ロックイン効果」が働くと考えられるのです。
「一人勝ち」状態が将来にわたって永遠に続くと決まっているわけではありませんが、「一人勝ち」状態の商品やサービスに挑戦して利用者を奪い取るためには、画期的な技術革新や、極端な低価格化などの戦略が求められると考えられます。
「一人勝ち」現象は、商品やサービスの市場以外でも生じます。世界の共通語としての英語の「一人勝ち」や、国際通貨としてのアメリカ・ドルの「一人勝ち」などが有名です。「直接的ネットワーク効果」や「間接的ネットワーク効果」の考え方を使ってこれらをどう説明できるか、皆さんも考えてみてください。
ひとたび「一人勝ち」状態の商品やサービスが誕生すると、その状態は打ち破られにくく、一種の「慣性」が働くようになると考えられます。例えば、もし皆さんがよく利用している無料通話アプリより、さらに魅力的な機能をもった、別の全く新しい無料通話アプリが登場したら、どうしますか。ただし、これまで使っていたアプリと新しいアプリとの間では、通信はできないとします。新しいアプリの機能は使って見たいけど、これまで通話していた人たちと通話できなくなるのでは意味がないので、新しいアプリの利用は諦める、ということになりそうですよね。このように、すでに大勢の利用者がいる商品やサービスから離れようとすると、大きな犠牲を払わなければならなくなり、結局はこれまでのネットワークにとどまる方を選択する、という「ロックイン効果」が働くと考えられるのです。
「一人勝ち」状態が将来にわたって永遠に続くと決まっているわけではありませんが、「一人勝ち」状態の商品やサービスに挑戦して利用者を奪い取るためには、画期的な技術革新や、極端な低価格化などの戦略が求められると考えられます。
「一人勝ち」現象は、商品やサービスの市場以外でも生じます。世界の共通語としての英語の「一人勝ち」や、国際通貨としてのアメリカ・ドルの「一人勝ち」などが有名です。「直接的ネットワーク効果」や「間接的ネットワーク効果」の考え方を使ってこれらをどう説明できるか、皆さんも考えてみてください。
参考文献
依田高典『ネットワーク・エコノミクス』(日本評論社、2001年)
Shy , O. 2001. The Economics of Network Industries. Cambridge: Cambridge University Press.
- (ⅰ)「ネットワーク効果(network effect)」は、「ネットワーク外部性(network externality)」ともいいます。様々な「外部性」については、大学のミクロ経済学などで学びます。
- (ⅱ)OS別のスマホ販売台数は、次のサイトを参照しました。IDC, “Worldwide Smartphone OS Market Share (Share in Unit Shipments)”
- (ⅲ)OS別の利用可能なアプリの数は、次のサイトを参照しました。Pure Oxygen Labs, “Research: How Many Apps Are in Each App Store?”
- (ⅳ)このように他の商品やサービスと一緒に消費される商品やサービスを経済学用語では「補完財(complements)」といいます。