生産工程のフラグメンテーションと付加価値貿易統計

「iPhoneを作っているのは、どこの国?」

 こう質問されたら、皆さんは何と答えますか?「iPhoneはアメリカのApple社の製品だから、アメリカ?」と思っている人もいるかもしれませんね。少し詳しい人は、「iPhoneは中国の工場で組み立てられているから、中国!」と答えるかもしれません。実際には、iPhoneの生産に携わっている工場は、世界31カ国に812あり、そのうち東アジアには670(中国に349、日本にも139)あると報じられています(ちなみに裏表2つのカメラはSONYが生産しているとのことです)1)。最終的な組み立ては中国にある工場で行われますが、その段階に到達する前に、いくつもの国にあるたくさんの工場が、部品を作ったりして、iPhoneの生産に参加しているのです。このように一つの製品ができあがるまでに多くの国を移動しながら細分化された生産工程が進められていくことを、生産工程の「フラグメンテーション(fragmentation、分割)」といいます。

フラグメンテーションが生じる理由

 わざわざいくつもの国にまたがって生産が進められる理由の一つは、各生産工程を、それを得意とする国の工場にまかせることで、全体的な生産の費用を安くすることにあります。もちろん、国から国への輸送費用など、さまざまな条件を考えて工場の場所は選ばれます。中国がiPhoneの最終的な組み立ての場所に選ばれたのは、組み立て作業に必要な大勢の人手を安く、しかも(たとえば、急に製造スケジュールが変更になったりしても)迅速に確保することが可能だから、といわれています(巨大な中国の工場敷地内には、工場で働く人たちの宿舎も作られていて、24時間体制で工場を動かすことができるのです)。

1990年代以降、フラグメンテーションは急速に進展

 フラグメンテーションの進行は現代経済の大きな特徴の一つです。フラグメンテーションの進行の度合いを示す指標として注目されているのが、輸出額に含まれる輸出国の「付加価値(ふかかち)」の割合です。
 上のiPhone生産の例で考えてみましょう。上でお話ししたとおり、中国はiPhoneをゼロから作り出したわけではありません。多くの外国の工場でiPhoneのために作られてきた部品などを輸入し、中国で生産された部品と合わせて完成品にする工程を受け持っています。ですから、中国から外国に輸出されるiPhone(完成品)の金額の中には、以前に中国以外の国で作られた部品などの価値も含まれています。したがって、「iPhone(完成品)の輸出額」から「iPhone組み立てのために外国から輸入した部品などの金額」を差し引いた額が、「中国国内の生産活動によって新しく生み出された価値」ということになります。これを、iPhone生産において中国が生み出した「付加価値」といいます。
 グラフ1は、世界の輸出額に含まれる、輸出国の付加価値の割合を示しています2)。フラグメンテーションが進むと、一つの製品を作るのに多くの国が参加しますから、輸出額に含まれる輸出国自身の付加価値の割合は小さくなっていくと考えられます。つまり、このグラフの値が小さいほど、フラグメンテーションが進んでいることになります。グラフ1を見ると、1990年代以降、フラグメンテーションはそれ以前と比較しておよそ3倍のスピードで急速に進行してきたことがわかります。

各国の付加価値に注目して貿易の流れを見直す

 このように、フラグメンテーションが進行すると、各国の輸出額と、輸出品に込められた各国の生産活動の大きさ(=付加価値)との間には大きなズレが生じることになります。たとえば、輸出額で比べると、世界のトップ4は中国、アメリカ、ドイツ、日本、の順ですが、輸出に向けてどれだけ大きな付加価値を生み出したか、で比べると、アメリカが中国に逆転して1位になります(グラフ2参照)3)。これは、輸出額のうち自国自身で生み出した価値の割合が、アメリカは約84パーセントであるのに対して、中国は約68パーセントになっているためです。中国の輸出額の残り32パーセントは、日本、アメリカ、韓国、台湾、ドイツを初めとする、たくさんの国によって生み出されています(グラフ3参照)4)
 こうしたことから、フラグメンテーションが進行している現代においては、各国の輸出額を、多い、少ない、と単純に比較することには注意が必要です。また、輸出を急拡大させている国ほど、(部品などの)他国からの輸入に支えられていることが多いことも、見落としてはならないのです。

1) iPhone 6の場合の数値。
Hillsberg, A. (2014, September 17). How & where iPhone is made: Comparison of Apple’s manufacturing process. CompareCamp.com. Retrieved from http://comparecamp.com/how-where-iphone-is-made-comparison-of-apples-manufacturing-process.
2) Johnson & Noguera (2012)、表6より作成(58ページ)。
Johnson, R.C., & Noguera, G. (2012). Fragmentation and trade in value added over four decades(Working Paper No. 18186). Retrieved from National Bureau of Economic Research website: http://www.nber.org/papers/w18186
3) OECDデータベースより作成。
OECD. Trade in Value Added (TiVA) – June 2015. Retrieved from http://stats.oecd.org.
4) OECDデータベースより作成。
OECD. Trade in Value Added (TiVA): Origin of Value Added in Gross Exports. Retrieved from http://stats.oecd.org.