法律学と経済学の『二刀流』を考えている皆さんへ(その2)

1 法律学と経済学の『二刀流』は可能?

 一般に『二刀流』に対しては、憧れはあるものの虻蜂(あぶはち)取らずになりかねないため、一つに専念した方が良い結果が出やすいと考えられています。となると、経済学部で法律学というのは一見良さげに見えるものの、見せかけだけではないか、という疑念が湧いてきます。
 阪南大学には法学部はないものの、経済学部には法律学を専攻する専任教員が4名おり(本稿執筆段階)、経済学部で法律学を学べるということが一つの特徴ともいえました。さらに本年度から始まった新カリキュラムでは、それをさらに発展させて「ビジネス法パッケージ」というコースが設置され、経済学部でありながらこれまで以上に体系性を重視したカリキュラム内容となりました。
 でも現実に教壇に立って講義をしたり高等学校に模擬講義に行きますと、なんと言いますか、しらけた空気が漂うことがありました。おそらく、学部生や高校生の皆さんの頭の中には、次のような真っ当かつ素朴な疑問が湧いていたのでしょう。「おまけで法律の授業があるだけでしょ?」「法律を学びたいならば法学部に行けばいい。」「どっち付かずになるだけ。」

2 「『二刀流』への道(1)−急がば回れ−」

 こうした疑問は口にはしないものの、私のゼミ生の中にもあったと思います。そこで次のことを繰り返し述べてゼミを進めました。「わが国には法律だけでも1,800本程度ある。法学部でもそんなに勉強することはできない。でも基本となる科目をしっかり学修すると、その応用で知らない法律の解釈も出来るようになる。だから急がば回れで、基礎的なものをしっかりやって行こう。」
 ところで、わが国の最難関の国家資格といえる司法試験では六法(憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法)に加えて、行政法がしっかりと出来なければなりません(他にも選択科目はありますが)。その中でも事例分析力を鍛える上でまずは最初に取り組む必要がある科目が民法となります。
 私のゼミ生たちは、六法全書の引き方という初歩の初歩から、民法を学び始めました。専門ゼミは2年生の4月から始まります。しかし松村ゼミでは、1年生の1月段階ではすでに所属する専門ゼミが決まっていることから、1月末の定期試験が終わった直後の春休みから自主的な勉強会を始めました。その結果、2年生の4月の段階では、松村ゼミの学生たちは全員、六法全書を引けるようになっていました。
 4月以降は、定評あるテキストを読み込みながら六法を確認したうえで質疑応答を繰り返すという決して派手ではないけれども本格的な法律学の学修を地道に続けて行きました。

3 「『二刀流』への道(2)—ゼミ生たちの成長—」

 こうした一つ一つの取り組みは「これで完璧!」というものではないものの、毎回のゼミで繰り返し取り組んで行くと、ゼミ生それぞれに変化が生じてきました。「やらされている」状態を脱して、主体的に法律学の学修に取り組むようになってきたのです。こうした通常のゼミ活動に加えて、PBL(Project-Based Learning、課題解決型授業)の専門家(長島賢講師)にゼミに参加してもらうこともありました(これは植村ゼミ有志との合同ゼミでした)。すると7月頃、ゼミ生たちから自発的に、当初の目標だった法学検定試験ベーシックコース(標準的な法学部2年生程度の学力測定試験)からスタンダードコース(標準的な法学部3年生程度の学力測定試験)へと、さらに一段、ハードルを高くしたいとの申し出がありました。正直なところ、これには私も驚きました。
 11月末の法学検定試験の直前には、検定試験対策を兼ねた合宿(鹿児島)を10月に実施しました。日中は裁判傍聴、夜は各自で学修というものでしたがそれによりさらに意識が高まってくると、ゼミ生達は2時間でも3時間でも六法を片手にテキストを読み込み、受検勉強をするようになりました。
  • 長島賢講師によるPBLの法律学学修への応用のための勉強会

  • 松村ゼミ合宿(鹿児島)

4 「『二刀流』への道(3)—先輩の応援—」

 とは言え、2年生のゼミ生にとっては未知の試験であるため、勉強すればする程不安が大きくなった様です。
 そうした中で有り難かったのが昨年度法学検定試験に合格していた4年生のゼミ生有志の存在です。就職活動も終了し、単位もしっかり取っているので別に私の授業を受講する必要も無い中で、私の授業を受講しながら自分自身の経験を踏まえて2年生のゼミ生達に勉強方法をアドバイスしたり、時には雑談に応じて不安を取り除いてくれました。そうした中で2年生は先輩から安心や刺激を受けたように見受けられました。松村ゼミは経済学部といえども通常の法学部以上に法律学の学修に打ち込むゼミですが、ゼミ自体にはそれほど歴史があるわけではありません。でもここにきて先輩の経験が後輩にも引き継がれつつある段階にまで到達したということで嬉しく思いました。
 あと特筆すべきこととして、スタンダード試験の科目の中には実は本学部では科目がないものがあります。その科目は、ゼミ生達が自習して試験に臨みました。つまり、ゼミ生達はある範囲では独学で法律学を勉強できる段階に近づいた訳です。今回残念ながら合格には至らなかったゼミ生たちも、何らかの手応えはつかんだようですし、それを踏まえて私もさらに指導していきます。

5 最後に

 何かのご縁があってこの文章を読んで下さっている方の中には、受験生の方や高校生の方もいらっしゃるかも知れません。人生にとって大学受験は重大事ですが、自分自身の経験からすると、重大なことほど意外と偶然に左右されることが多かったように思います。
 今回の法学検定試験の結果によって、経済学部で法律学をしっかり学べるといってもあながち嘘ではないということ位は言えるようになったのではないか、と思います。経済学部で経済学と法律学を同時に使える『二刀流』を目指す、意外と悪くないのでは、と思っていただけましたか?
 ビジネス法パッケージと言っても、私のように通常の法学部の基礎科目をひたすら勉強するゼミもあれば、海外への留学を意識したゼミ、公務員試験を意識したゼミと多様な担当教員によって構成されています。これも実は法学部っぽいところかな、と思っています。いずれにしても常に他流試合で勝つ(=社会で通用する)ことを意識した教育を目指していますし、さらにそれを進めて行きます。

 合格したゼミ生のコメントは、後日アップする予定です。ご期待ください。