有料老人ホーム「たんぽぽ」と沖縄の介護の現状

 今回、西本ゼミでは沖縄県の中部地方にある有料老人ホーム「たんぽぽ」へ足を運び、聞き取り調査を行ってまいりました。以下で、調査によりわかったことや感じたことを報告したいと思います。

沖縄における介護施設の現状
3回生 井嶋黎温

 沖縄の介護施設では、デイサービスを行っている施設のほうが多いそうです。どうしてかというと、基本的にはデイサービスで営業するほうが利益を生みやすく、訪問看護をするよりも経営上良いのでデイサービスを行っている施設が多くなるのだそうです。
 また、有料老人ホームは届け出制となっており、指定を取らなければ入居者は介護保険を使えませんが、今回訪問させていただいた「たんぽぽ」は指定をとっていませんでした。そして65歳以上で要介護1〜5のあいだの人は特別養護老人ホームに入所することができますが、特別養護老人ホームでは入居者待ちがかなり多く、入居できるまでに10年かかることもあるそうです。どうしてかというと、症状が重い方が優先的に入れるようになっていることと、利用料金も低価格であるがために一度入ってしまえば有料老人ホームに戻ることはせずに亡くなるまで特別養護老人ホームを出ない人が多いので空きが出にくい状況となっているからです。
 また、有料老人ホームに入居する人にはさまざまな症状をもった人がいますが、特に認知症の場合、本人は来たくないところに来ていると感じているため、ストレスがかかってしまい、最初の1か月はそういった入居者の方のストレスへの対応という負担が施設側にかかってしまう場合が多いそうです。しかし、1か月を過ぎると入居者本人が施設に慣れてくるケースが多く、最初を乗り切れば苦になることはないということでした。

 そして、もし施設でけがをしてしまった場合、病院に入院することになるわけですが、その期間は有料老人ホームには入居していない状態になり、3か月もそういった状態が続くと有料老人ホーム側から退去をお願いする施設もあります。それは、入院の期間が長引けば施設に収入が入らないので、こういった措置をとる施設もあるようです。
 一方で、介護施設を運営するにはさまざまな法律をクリアする必要があり、それによって収入の増減が直接的に影響してくる場合があるので法律が改正される度に対応していかないと、利益を生むのが難しくなっていってしまうという現状があります。また、介護施設で働く人に関しては、若い人よりもある程度病院で経験を積んだ人が来てくれたほうがあらゆる状況に対応することができると施設側では考えているようです。さらに、初めの3年はなるべく現場で力をつけてから裏方へ回ったほうが施設の運営としてスムーズに立ち回ることができるともおっしゃっていました。
 沖縄の介護施設を訪問して、こういった介護施設が利益を生み出すにはさまざまなことを考えなくてはならないし、法律も数年に一度変わってしまうので、その都度対応していかなければならないことがわかりました。しかし、介護施設ではそうしたことに対応しつつも、入居者の方には満足してもらえるようにしていかないといけないという思いがあり、利益がメインというより、入居者のために尽くしているんだなあ、というのが今回訪問して感じたことです。

「たんぽぽ」独自の取り組みとこだわり
3回生 溝端峻

 今回、実際に「たんぽぽ」で働いている方に、その施設の独自の取り組みやレクリエーションについてお話を伺ったので、その点に関して述べたいと思います。
 まず初めに、「たんぽぽ」の取り組みについてですが、スタッフは何人体制ということではなく、基本的には誰が誰の介護の担当になるのかということを初めに決めているそうです。これには理由があり、担当を決めることでスタッフ一人一人に責任感を持たせるようにしているのだそうです。なぜなら、この方法をとることでスタッフが責任感を持つだけでなく仕事をすることに対してやりがいや充実感、次はこうすればいいとまた新しい取り組みやアイディアを見つけることができるからだそうです。
 次は、こだわりについてですが、「たんぽぽ」で働く人たちには入居者の方に言ってはならないNGワードというものが存在しています。それは、入居者の方が呼んでいる時に「ちょっと待ってね」と声をかけることです。それでは、とうして、それを言ってはいけないのでしょうか。理由は、お金を払っているのは入居者であるため、その人たちが呼んでいることに対して他の仕事を優先し、「待って」と声をかけるのはおかしいという考えからだそうです。
 さらに、もう一つの取り組みですが、これは、認知症の入居者に対する取り組みです。認知症の人というのは少し目を離してしまうと時に危険な行動をしてしまうことがあります。例えば、ベッドから勝手に起き上がりそのまま転倒して大けがをしてしまうこともあります。これは、スタッフの人がいくら気を付けていても起こってしまいます。そこで、考えた取り組みで、ベッドに拘束するのではなくベッドから起き上がるとアラームが鳴るマットを敷き、認知症の方に対応しています。

 こういった施設内だけの取り組みではなく、「たんぽぽ」では楽しい取り組み(レクリエーション)も行っています。入居者が海に行きたいといえば少人数で車に乗って海に行ったり、外食がしたいといえば、外へ出かけて食事をするなど、基本的には入居者の方の要望を叶えてあげるようにしているそうです。
 さらに、沖縄の北部にある「美ら海水族館」では移動水族館というサービスがあり、その移動水族館が「たんぽぽ」まで来てくれるそうです。移動水族館が来たときには、近隣の幼稚園の子どもたちも「たんぽぽ」にやって来て、一緒に楽しみます。水族館を楽しむだけでなく、子どもたちとのコミュニケーションも楽しむことができるイベントとなっています。
 これらの数々の取り組みは、そこのスタッフがやりやすいよう、そして働きやすいように実施されているのではなく、入居者の方の意見を第一に考えて行われていることから、こうした取り組みは入居者の方に愛され続けており、他の施設とは違った特色になっていると思いました。

沖縄の有料老人ホームの金銭的な現状
3回生 笠松祐樹

 事前に有料老人ホームの平均的な費用、価格を調べたところ、沖縄と大阪の有料老人ホームでは沖縄の方が平均的に価格が安いことがわかりました。なぜ、沖縄は安いのか疑問になり、今回、沖縄県中頭郡にある有料老人ホーム「たんぽぽ」に取材をさせていただきました。
 この老人ホームでは以前、月に入居者がどれぐらい支払うことができるのかのアンケートを取ったそうです。実際、11〜12万円は支払ってもらいたいというのが「たんぽぽ」側の本音ですが、年金生活をしている高齢者は10万円以上を支払うことができないというアンケート結果になったそうです。
 また、「たんぽぽ」ではデイサービスも行っており、このデイサービスでは黒字だということがわかりました。実際、沖縄では有料老人ホームを利用する人よりも、デイサービスを利用する人の方が多いことがわかりました。
 なぜ沖縄ではデイサービスが多いのでしょうか。その答えは介護保険のシステムにありました。デイサービスでは利用者は介護保険を使用することができるのですが、有料老人ホームでは施設が届け出を行い、有料老人ホームとしての指定を受けていないと利用者は介護保険を使用することができないそうです。よって、指定を受けていない有料老人ホームを利用するよりもデイサービスを利用する高齢者が多くなり、それに伴い沖縄ではデイサービスを設ける施設が多いということがわかりました。今回取材させて頂いた「たんぽぽ」も指定を受けていないそうです。

 有料老人ホーム以外に介護を受けられる施設には、特別養護老人ホームというものがあります。そこでは所得によって入所に際しての支払う金額が変わり、平均的にみると、5万円という安さで利用することができるそうです。よって、多くの高齢者が入所を希望しており、特別養護老人ホームでは長期間の入所待ちというところも多く、その人達が入所待ちの間、デイサービスを利用することが多いそうです。
 デイサービスが多い沖縄では、デイサービスを設けすぎだと指摘されることも多いそうですが、それでも実際、施設数が足りないくらいデイサービスを利用する高齢者が多いことを知りました。
 今回の取材で、沖縄では有料老人ホームにはデイサービスを併設している施設が多いが、その理由として、介護保険のシステムが背景にあり、デイサービスを利用する高齢者が多いことがわかりました。また、沖縄は大阪と比べると施設に支払う費用は安いのですが、このような施設で取り巻く金銭的な問題は非常に大きいものだと感じました。