7月3日に約20年ぶりに新札が発行されました。
この機に、私の研究分野の産業論の観点から新札についてのあれこれをお伝えします。

なぜお札はモデルチェンジをするのか?

一番大きい要因はニセ札防止のためです。
今回の新札にもホログラムや微細な印刷技術、色変化インクなど最新の偽造防止技術が多く採用されています。これらの技術は、通貨の偽造を難しくし、流通する紙幣の安全性を高めます。
また、副次的な効果として、「タンス預金」が表に出回るといった効果が想定されています。
現在、タンス預金は60兆円ほどあると試算されており、この紙幣刷新のタイミングで10%ほどタンス預金が減ると想定されています。やはり、持っているお札が古くなるとわかると、心配になる心理が働くためです。実際には、日本の場合、これまで発行されたほとんどの旧札は現在でも使うことができます(注1)。
 
注1 (1)関東大震災後の焼失兌換券の整理(1927年<昭和2年>)、(2)終戦直後のインフレ進行を阻止するためのいわゆる新円切り替え(1946年<昭和21年>)、(3)1円未満の小額通貨の整理(1953年<昭和28年>)の3度の特別措置時に発行されたお札は通用力が失われ、現在は銀行券として使えません。(出典:日本銀行公式Webサイト)

 

ちなみに…

紙幣の刷新は世界の多くの国で行われており、変更する理由も同じく、偽造防止のためです。日本では20年~30年のスパンで変更されており、歴史や文化において重要な役割を果たした偉人たちの肖像が採用されています。 イギリスのポンド紙幣は現君主の肖像画が用いられています。2022年にエリザベス女王が逝去されたので、現君主のチャールズ国王の肖像画があしらわれた新たなデザインのお札が今年6月から発行されました。新たなデザインのお札が今年6月から発行されました。

新札発行による経済効果は?

最近ではスマホ等による電子マネー決済も増えてきましたが、日常生活で現金を使用する場面はまだまだ多くあります。
スーパーやコンビニでの支払いを始め、電車の切符販売機、バスの運賃箱、ラーメン屋さんの券売機、両替機、自動販売機、ATM… 
例を挙げてみると、まだまだ日常においてお札を使う機会は多く、お札を扱うレジや機器は新札に対応したものを用意する必要があります。これらの機器を更新することで、新しいテクノロジーが導入され、経済に刺激を与える効果が期待されます。
また、新札発行を記念した百貨店でのセールや、新札に新たに採用された偉人の出身地やゆかりの地域では観光客が増えることが期待されています。観光客が増えればその地域に対するプラスの経済効果も生まれるでしょう。
これらのハード面ソフト面を総合的に考慮した新札発行による経済効果は、約1兆6300億円と試算されています。
 
ちなみに…
今回、レジや券売機を新札に対応させるにあたって紙幣やコインを処理する貨幣処理機が重要になります。実は貨幣処理機では、兵庫県姫路市に本社を構える企業が国内シェアの7割を握っています。同社は海外売上比率も6割あり、貨幣処理機では世界的もに大きなシェアをもっています。6月末時点でスーパー等のレジの8~9割が新札に対応済ですが、自販機の新札対応は2~3割程度にとどまっています。これからしばらく自販機では新札は使えないことがあることを覚えておくとよいでしょう。
 

キャッシュレスはどこまで進むのか?

今回、新札への対応でレジや機器を更新するわけですが、これを機にキャッシュレス対応のレジや機器を導入することが増えると思われます。これによりキャッシュレス化は今より更に進むでしょう。現在の日本のキャッシュレス決済比率は約4割程度です(アメリカで53%、イギリスで64%程度)。実は先進国ではキャッシュレスが進んでいるはずなのに現金の発行量が増えている事実があります(「銀行券のパラドックス」先進国は高齢化率が高いので現金を好むから等の説がありますが、これらの要因はまだ特定されてはいません。)。
今後キャッシュレス決済が増えていくことは確かですが、この先現金がなくなることは無いのも確かです。災害時などにはやはり現金が必要です。電気回線のトラブルで電子マネーが使えなかったり、改札から出れず閉じ込められたといったニュースを聞いたことがある方もいるでしょう。日本は災害大国でもあるので、普段は電子マネーで決済していたとしても、イザというときのためにある程度の現金を持っておくことが必要と思われます。

ちなみに…

キャッシュレス先進国であるアメリカでは25セントコインが日頃からよく利用されており(日本での100円玉のような存在)、コインパーキングやコインランドリー、切符の券売機、自動販売機等で使われます。クレジットカード対応の券売機やコインパーキングも増えつつありますが、コイン専用機もまだ多く現地ではコインを持っていないと不便な生活を強いられます。