この特別講義は、平成30年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)を受けた「世界史教育内容編成論の研究-ESDの視点に基づく「現代の諸課題」からの再構成-」に基づくものです。

この研究は、平成30年から32年の3年間で、ESD(持続可能な開発のための教育)の視点に基づく世界史教育内容編成のカリキュラムを明らかにするため、「現代の諸課題」に着目した単元開発と実践分析を行うものです。今年度は、新たに開発した単元の実践記録を分析するとともに、既に開発した単元の改善を図ることで、地球的な諸課題の探究学習から持続可能な社会を展望する、世界史教育内容編成の一方策を明らかにすることを目的としています。

研究では開発した単元の実践記録を得るため、世界史を学ぶ高等学校での授業実践が必要となります。そこで、開発中の単元の実践にご協力いただいたのが、奈良県立登美ヶ丘高等学校と、奈良県立法隆寺国際高等学校でした。

奈良県立登美ヶ丘高等学校 特別講義 6月12日(火)

 登美ヶ丘高校(新田泰三校長)は、昭和62(1987)年に開校し昨年30周年を迎えた普通科の高校です。クラブ活動も盛んですが、学習面では総合的な学習での取り組みが有名で、国際理解教育などESDに関わるグローバルな教育にも力を注がれています。
 今回は、世界史と日本史を並行して学習する第2学年3・4組80名の合併クラスで特別講義を実施させていただきました。登美ヶ丘高校では、この日が教育活動の一環として保護者や外部の方に授業を公開する行事日であり、私の講義は地理歴史科の公開授業の1つに位置付けられました。
 私の授業は主題を「近代日本の産業発展 -グローバルな視点から日本の産業革命を考える-」とし、グローバルな教育との関連性を示しました。授業の主な問いを「なぜ、資源・エネルギー問題は解決が難しいのだろう。」とし、現代の諸課題の一つである資源・エネルギー問題を歴史的な経緯から考察する授業を実施しました。
 本来であれば、6~8時間程度の単元を2時間に集約したため、内容の説明や生徒による議論に十分な時間を取ることができるか心配でしたが、登美ヶ丘高校の生徒の皆さんは、これまでの世界史や日本史の学習との関連性をふまえながら、授業に取り組んでくださいました。
 外部講師による講義の経験が少ない2年生での授業でしたが、私の説明に熱心に耳を傾け、発問にも一生懸命応えようとする姿勢からは、生徒の皆さんの真面目さを強く感じることができました。授業後に回収したレジュメの記述からも、精一杯授業に取り組んでもらえたことが確認できました。

奈良県立法隆寺国際高等学校 特別講義6月19日(火)

 法隆寺国際高校(松岡正晃校長)は、平成17(2005)年、斑鳩高等学校と片桐高等学校を前身として開校し、両校の特色であった歴史教育と英語教育を引き継いだ歴史文化科と総合英語科に、普通科を加えた3学科を設置する高校で、ESDを実践するユネスコスクールでもあります。
 今回は、第3学年の歴史文化科40名のクラスで特別講義を実施させていただきました。同校の歴史文化科では1年生から外部講師の講義を受ける機会が多く、私自身も前年度の3年生に特別講義を実施したこともあります。その意味では、特別講義に慣れた生徒であると言えます。
 授業の主題は「近代日本の産業発展 -資源・エネルギー問題から日本の産業革命を考える-」とし、主に歴史を学習する学科との関連性を意図しました。登美ヶ丘高校での実践を生かし、授業の主な問いは「資源・エネルギー問題は解決できるのだろうか。」に変更することで、歴史的探究活動として資源・エネルギー問題を考察する授業の実践を目指しました。
 登美ヶ丘高校同様、6~8時間程度の単元を2時間に集約したため、内容の説明や生徒による議論に十分な時間を取ることができるかが課題でしたが、前回の教訓を生かして説明を精選するとともに、40名で机を動かせる環境を生かし、生徒の意見交換に時間を取るようにしました。
 特別講義の経験が豊富な3年生での授業でもあることが幸いしたのか、講義に対しての応答もスムーズで、テンポよく授業を進めることができました。特に歴史文化科の生徒の皆さんからは、より歴史的な観点に基づく意見を多く得ることができ、それはレジュメの記述からも読み取れるものでした。
登美ヶ丘高校と法隆寺国際高校の特別講義では、貴重な実践記録を得ることができました。特に、普通科と歴史文化科の2学科の生徒を対象に授業ができたことは、研究に対して新たな知見が得られる可能性があります。今後は、実践記録を分析するとともに、その研究成果をお示しし、より良い単元開発につなげたいと考えています。

最後に、研究への協力をご快諾いただいた登美ヶ丘高等学校と法隆寺国際高等学校の先生方、そして、熱心に授業に取り組んでくださった両校の生徒の皆さんにお礼申し上げます。ご協力ありがとうございました。