特別授業の背景

 奈良県教育委員会は毎年11月1日を「奈良県教育の日」と定め、それにふさわしい活動を重点的に実施する期間として11月1日からの1週間(令和元年度は11月1日~11月7日)を「奈良県教育週間」とし、各学校がその趣旨を踏まえて記念行事や授業公開の取組を行います。
 奈良県立登美ケ丘高等学校(新田泰三校長)では11月7日(木)に授業公開を行い、保護者や地域の方々に向けて、学校が取り組んでいる「主体的・対話的で深い学び」を目標とした、ICTを用いた授業を公開されました。この特別授業はその公開授業の一つとして第2学年(1クラス)日本史Bで行ったものです。

特別授業の概要

 授業のテーマは「グローバルな視点から日本の鎌倉時代を考える」とし、日本史Bで鎌倉時代を学ぶ前の生徒に、地球的な規模を視点とした世界史的な観点から日本史の鎌倉時代を概観させるものです。授業公開の目標である「主体的・対話的で深い学び」とICTの活用を意図し、生徒同士が自分の考えを他の生徒と交換する方法を用い、プロジェクターで地図やグラフなどの資料を提示する形式で行いました。その内容構成は次のとおりです。
  1. なぜ、グローバルな視点で学ぶのか?⇒グローバルな視点とは何か
  2. なぜ、日本史で鎌倉時代を学ぶのか?⇒鎌倉時代とはどんな時代か
  3. 世界史から見た鎌倉時代⇒鎌倉時代(12世紀後半から14世紀前半)の世界はどうなっていたのか
  4. 歴史的出来事(事象)から当時の社会を考える⇒歴史を探究してみる
  5. まとめ(今日の感想と学びたいと思ったこと)
 この授業のねらいは「視点を変えると歴史はどう見えるのか」を明らかにすることであり、グローバルな視点としては、12世紀から13世紀は「中世の温暖期」であることから遊牧民族(モンゴル)の活動が活発化し、14世紀からは気候が寒冷化する「14世紀の危機」が起こったことを日本史に取り込むことと、マルコポーロの『世界の記述』(『東方見聞録』)の記述と世界遺産「中尊寺金色堂」を関連付けながら、人やモノの交流によってモンゴルや奥州藤原氏の繁栄があったことを生徒に示しました。そして、その後の蒙古襲来(文永・弘安の役)も世界史的には、モンゴルの襲来を受けたのは日本だけではないこと、モンゴルの侵攻を退けたのも日本だけではないことを学ぶことから、改めて日本の鎌倉時代について生徒が考えたことを意見交換させる構成で進めました。
 50分間の授業で世界史的な観点から鎌倉時代を概観し、なおかつ自分が持っていた鎌倉時代の認識を生徒が問いなおす対話の場を設けたことで、駆け足の授業になってしまい主体的な考察を深める時間が限られたことが課題です。しかし、生徒の皆さんは、これまでに学んだ知識を総動員して、自分なりの鎌倉時代の見方を記述しようと努めてくれました。また、慣れない対話式の授業に最初は様子を見ていた生徒も、他の生徒の考えを聞くことで新たな見方に気づき、笑顔で意見交換をする様子が印象に残りました。
 この特別授業を行ったことで、「主体的・対話的」な授業を行うことと、学びを深める手立てには方法面だけでなく内容面にも課題があることが分かりました。しかし、新学習指導要領が目指す探究的な学習を試行的に取り入れたことで、この授業実践は日本史と世界史を融合した「歴史総合」だけでなく、「日本史探究」や「世界史探究」への試案としての可能性も秘めていることを実感しました。その課題と成果は、今後時間をいただいて、生徒の皆さんのワークシートへの記述を分析・評価することで、より具体的に明らかにしたいと考えます。
 このように、今後の地理歴史科の教育の研究につながる、貴重な機会をいただいたことにお礼を申し上げます。そして、先進的な取組を行っておられる登美ケ丘高等学校の先生方と生徒の皆さんの学びがさらに広がることを応援いたします。