世界中の僻地(へきち)を愛した男。

聞き手:先生はこれまで、多くの国を放浪されてきたとお聞きました。海外に興味を持ったきっかけは何だったのですか?

重谷:海外に興味を持ったのは高校生のとき、修学旅行が中国だったのです。1980年代の中国はまさにワンダーランド。まず北京に行くでしょ、すごい荷物を抱えたロバが街を歩いていて、日本とは違う異世界感に魅了されましたね。

聞き手:今では想像できない光景ですね。

重谷:首都でこの異世界感なら、さらに奥地に行くとどんな世界が待っているのか、想像するだけでワクワクして、そこから海外に大ハマり。大学生になり一人旅をスタートさせたのですが、念願の中国の奥地や農村などいろいろな場所を放浪しました。

聞き手:一人旅をする中で苦労も多かったのではないですか?

重谷:聞いてくれますか。中国の西北部の農村は面白くて、まず、朝起きたら何をすると思います?

聞き手:え、朝起きたら?

重谷:靴をポンポンと地面に叩きつけないといけない。

聞き手:どうしてですか?

重谷:靴の中にサソリが入っていて、足を刺される可能性があるので。

聞き手:えぇー!

重谷:あと、私は僻地が趣味で…

聞き手:僻地が趣味?どういうことですか?

重谷:中国の奥地に興味を持ったのもそうですが「世界の端っこ」、つまり人があまり踏み入れていない”未開の地”に心がそそられるのです。どんな文化や生活がそこには広がっているのか、知りたい欲が昔からありまして。

聞き手:マニアックですね。これまでどんな僻地に行かれたのですか?

重谷:北極圏やアイスランド、バルト三国にも行きました。まだ見ぬ地がまだ見ぬ人生観を教えてくれると思っていますね。多分ですが、旅に夢中になっていなければ、阪南大学で観光について教えている未来は1000%なかったと断言できます。

聞き手:1000%!旅が先生の未来を変えたのですね。

重谷:まさしくその通りです。

他人とは違う経験が、個性となり、魅力となる。

聞き手:大学卒業後は大手総合商社に入社されたとか?

重谷:はい、3年で辞めましたけどね。

聞き手:なぜですか?

重谷:中国で働いた方が面白いかなと思って。

聞き手:フットワークが軽いですね(笑)。

重谷人生なんてフットワークが軽い方が良くないですか。
いちいち考えすぎると、自分の人生の幅を狭めてしまう。
私はどんなときも今の気持ちに従って生きてきました。


聞き手:確かに…。
重谷:他にもフットワークが軽い話でいうと中国の会社で働いた後、その経験を研究に活かせたら面白いと思い、次はロンドンの大学に進学しました。1年間修士課程に通い、イギリスで研究者になる未来もありだなと本気で考えていたのですが、まだまだ北欧や台湾など、世界中を旅したい気持ちが捨てきれず…。
そこで、どんな人生になったとしても生きていける資格を取ろうと一念発起。イギリスでビジネススクールに通い、MBAを取得しました。

聞き手:半端ない行動力!

重谷:私はね、他人とは違う経験が、自分の個性や魅力になると考えています。

聞き手:他人とは違う経験?

重谷:そうです。
「僻地を旅した経験」や「中国で住んでいた経験」「阪南大学に来るまでにいろんな職種を渡り歩いた経験」など、その全てが今の私を形づくっていると思っています。
だからゼミ生たちには、常に「できるだけ様々な経験に挑戦しなさい。失敗してもいいから」と伝えています。
その方が人生はいい方向に進みますからね。
まぁ、私の持論ですが(笑)。

この世に無理なことはない、挑戦したことがないだけ。

聞き手:これまで人生を好奇心で駆け抜けてきた先生にとって、今の学生たちはどう映っていますか?

重谷:宝の持ち腐れですね。

聞き手:どういう意味ですか?

重谷:すぐに「無理です」「できません」「わかりません」と諦めてしまう学生たちと最近よく出会います。私から言わせると、それは挑戦したことがないだけだと感じます。そりゃ、最初はみんなやったことないですよ。私だって初めて一人で海外を放浪したときは不安だらけでした。実際に「もう無理かも…」と思う事件だって何度もありました。中国で猟銃を突きつけられたことや内モンゴルで氷点下40度の中、車のエンジンが急に止まり、一晩そこで過ごさないといけなかったことなど。

聞き手:半端ない体験ですね。

重谷:けれど、人生は挑戦するからこそ「学べる」ことの方が遥かに多いと思っています。

聞き手:挑戦からどんなことが学べると考えていますか?

重谷:挑戦することで「ここまではできる」と限界値を突破する機会になります。
例えばですよ、先日、韓国で学会がありました。学生たちには観光MaaSの発表を英語でするよう課題を与えたのですが「英語で発表なんて絶対に無理です」、と弱気な発言が多かったですね。私は決して完璧を求めているわけではありません。大事なのは自分の限界を勝手に決めないことです。挑戦してみて、英語が不得意なら英語翻訳アプリを使ってもいい。英語の発音が苦手とわかったのなら、英語が得意な友達にカタカナを振ってもらえばいい。英語が得意な友達がいないのなら、英語の得意な人を探して友達になればいい。要は「できるか否か?」を考える暇があれば、「どうやればできるか?」を考えるべきだと思います。

聞き手:今の時代、便利なアプリやツールがたくさんありますもんね。

重谷:そうなのです。一度やってみるからこそ成功する可能性がある。苦手を乗り越えるための戦略を立てることもできると考えています。

聞き手:なるほど。

重谷:しかもですよ。あんなに弱気だったゼミ生たちなのに、本番では上手に英語で発表をやり遂げていました。ポテンシャルはみんな持っているのです。ほんの少しの勇気がないだけ。これまでの人生で私が様々な場所に行き、様々な挑戦をしてきたように、学生たちには挑戦することは怖くない。むしろ当たり前であるということを、ゼミを通して届けていきたいですね。