連載講座:グラフでみるビジネス情勢

短観:略称が超有名な統計
〜景気と経営の現状が簡単にわかる〜
             御園謙吉

 今回から始めるこのシリーズ「グラフでみるビジネス情勢」では、ニュース・新聞で報じられるビジネス関連データをグラフで示し、現在のビジネス状況や景気の現状をできるだけわかりやすく説明していきます。

カンタン タンカン

 ダジャレみたいな見出しですが、まず「短観」とは、日銀(日本銀行)が全国の企業1万社以上からアンケートをとって、3か月に1度発表している「全国企業  期経済  測調査」の略です。写真は日銀本館を真上から見たものです(日銀券=お札「円」の形)。これこそダジャレみたいな建物ですね。ただし、日銀の名誉のために補足しますと、この建物は横から見ると格調高く、国の重要文化財です。
  • Google Earth より(建物が南北方向ではないので20度回転して掲載)

 それはともかく、短観は、市場関係者−主に株などの取り引きを日々行うことを職業としている人−が非常に重視している統計です。また、調査開始も古いので、この略称が国際語になっているほど有名です。

 アンケート項目はいろいろあるのですが、重要なのが「業況判断」です。これは、「貴社の業況」−つまり、その企業の経営状況−が、「1.良い」か「2.さほど良くない」か「3.悪い」かの3択で答えるものです。そして、1と答えた会社の割合(%)から3と答えた会社の割合を引いたものを業況判断指数と言い、これが最も注目されています。(第2選択肢の割合は無視します)。例えば1が50%、2が30%、3が20%のとき、業況判断指数は50−20=30です。

 景気が良ければ、当然、1が多いですね。したがって業況判断指数は高くなります。図1は、この指数を企業規模別・業種別に示したものです。(企業規模別では、大企業と中小企業の中間である中堅企業という区分もあります。業種別では、より細かい区分もあります。)
 見られるように、2013年に上昇した後、2016年の12月頃からは再び好調です。最もよく取り上げられる大企業製造業の最新の結果は、「良い」と答えた企業割合が22%、「悪い」が5%で、業況判断指数は22−5=17です。このように、引き算という簡単な方法で景気・経営の状況がわかるのです。

深刻な人手不足と短観

 2013年からの上昇は、アベノミクスという経済政策の結果と考えられています。景気動向指数という毎月のデータなどから判断して、2012年12月に始まった景気回復は2017年3月までで52カ月となり、戦後3番目の長さになったと言われました。しかし、富裕層など一部を除いて好景気の実感がないともよく言われます。

 このような状況で、経済の基本である人々の労働に関して大きな問題が起こってきています。宅配便大手のクロネコヤマトは2017年3月17日、再配達時間帯の指定枠の変更などを発表しました。ネット通販が盛んになりすぎ、また、きめ細やかな配達指定が背景にあります。飲食業でもアルバイトの時給をかなり上げないと応募がない、などの報道がなされました。

このような人手、労働面のことも短観からわかります。アンケート項目に「貴社の雇用人員」というものがあり、その人数が「1.過剰」か「2.適正」か「3.不足」かを聞いています。そして、業況判断指数と同様に、第1選択肢の解答割合(%)から第3選択肢の解答割合(%)を引いた雇用人員判断指数を発表しています。つまり、マイナスが大きくなるほど、人手不足ということになります。図2は、これを大企業の業種別に示したものです。
 運輸・郵便業は2011年からマイナスになっています。建設業は2013年に大きく減少して14年に−40を下回り、宿泊・飲食サービス業も2014年以降、−30から−50にもなっています。つまり、人手が「不足」している企業が、「過剰」な企業より30〜50%も多いことがわかります。

 経営情報学部では、このような短観を紹介し、報道された最新のニュース・新聞記事を使って景気と経営の現状を解説する講義を行っています。