私たちは、身の回りの工業製品や構造物が、安心安全に使用できることを当然のことと思いがちですが、これらの安全・安心は、長年積み重ねられてきた高度な工業生産技術やそれを支える学術的な理論によって維持管理されています。これらの中心的な学問に信頼性工学の概念があります。信頼性工学の概念は、機械構造物に限らず、土木・建築構造物、電気製品などあらゆる工業製品や構造物の設計・維持管理に取り込まれています。工学領域での信頼性とは、様々な状況に含まれる不確定事象を確率モデルで表現し、故障や破壊といった限界状態を確率で表して適切な設計、維持管理を行うという概念です。

 第9回構造物の安全性・信頼性に関する国内シンポジウム(JCOSSAR2019)は,日本学術会議が主催し,関連8学会が企画・運営するシンポジウムです。機械構造物、土木建築構造物、材料に関する信頼性、安全性を保証、確立するための理論や技術についての研究発表と議論を通じて、当該技術の向上や学術領域の発展を目指す国内シンポジムとして開催されています。研究発表は、種々の学術領域で対象となる構造物の信頼性・安全性に関する内容を含む研究が発表されました。今回は特にAI,IOTなどを活用した信頼性・安全性確保をテーマにした参加学会横断的なオーガナイズセッションが組まれ、多数の研究が発表されました。

 総合司会を務めたパネルディスカッションでは、安心安全な国民の生活を確保するために規定されている基規準の制定プロセスや普及するための工夫や仕組みについて、学会間で情報共有するとともに、課題点を整理し、今後の方向性についての意見交換を行いました。また、基調講演に、「はやぶさ2」の運用とこれまでの探査結果というタイトルで、JAXA、はやぶさ2プロジェクトマネージャーの吉川真様にご講演をいただきました。種々の手法を活用して不確定な状況の中で信頼性の高い方法を選択してプロジェクトミションをマネージメントされている話を興味深く拝聴いたしました。
 近年、猛威を振るう自然災害に対する準備の重要性が強調されています。これまで起きた災害の最大の状況を想定して事前に対応したとしても、それを超える災害が起きる可能性は0%にはなりません。防災の観点から状況が許す範囲の最大限の対策をするとしても、想定を超える事象の発生に備えて、減災、縮災の観点からの準備を進める必要性があります。近年の自然災害の巨大化とそれに伴う被害の甚大化する状況に接すると事前準備の重要性を認識することが肝要であると本会議に参加して改めて認識しました。