文化遺産継承事業の「ガイド合戦」でゼミ生たちが大健闘
2017年度に藤井寺市は「地域文化遺産継承事業」において文科省の補助を受け、市内の文化財を次の世代に継承する事業を「まなりんく協議会」「藤井寺市観光ボランティアの会」などと共に展開しています。その一環として、12月2日(土)に「古市古墳群ガイド合戦—小学生vs大学生、審査員は外国人」を開催しました。来村ゼミは2009年から継続してきた地域連携事業の一環として活動を応援し、ゼミの3回生が中心となって、イベントを支援しました。ガイド合戦は小学生と大学生が古墳や社寺を英語で案内し、どちらが印象的で役に立つガイドを行なったかを、案内された外国人に判定していただくイベントです。審査員となった外国人は、中国・韓国・キルギス・ベトナム・ブルガリア・フィジーなどから日本文化を学びに来ている留学生9人、対戦相手の小学生は道明寺南小学校の6年生11人、そして大学生チームは来村ゼミ3回生の青木美月さん、岩田汐梨さん・吉良快君・黒岩未知也君・胡文啓君・坂本美紗さん・杉本祐也君・直井理津子さん・羽室美穂さん・森重貴哉君と2回生の仲村つづりさんの11人です。保護者・教員・市職員・スタッフを含めて、総勢50名あまりが参加するガイドイベントとなり、JCOMの記者も取材に来て下さいました。それでは、学生の報告文で詳細をお伝えしましょう。(来村)
朝から集まり、英語ガイドのリハーサル
国際観光学部3回生 直井理津子
ガイド合戦イベントは12月2日の土曜日に行なわれました。その日は晴、青空に白い雲が流れてゆく絶好のガイド日和です。冬ですので、寒いのは当然ですが、北風はそれほど気にならず、歩くには適当な気温でした。ガイドの本番は昼過ぎの12時半からですが、私たちはスタート地点となる近鉄土師ノ里駅に朝の9時に集まり、予定のコースを一周しました。2時間ばかりのリハーサルをしたのです。ガイドポイントは土師ノ里駅のすぐ近くにある方墳の鍋塚古墳、大型の前方後円墳である仲姫命陵、応神天皇をまつる古室八幡神社、墳丘に登れる古室山古墳、三つの方墳が並ぶ三ツ塚古墳、十一面観音菩薩像をまつる道明寺、そして、菅原道真がご祭神の道明寺天満宮などです。用意をした英語のボードを見せながらの案内を練習し、本番に臨みます。大勢の前で堂々と説明ができるのか、外国人に私たちの英語が通じるのか、小学生たちに負けないガイドができるのか、等々、考え始めると緊張してきます。リハーサル終了後、いったん藤井寺駅にもどって昼食をとり、土師ノ里駅で待っていると、スタッフの方々や子どもたちが続々と集まり、総勢は50人くらいになったでしょうか。想像していた以上に人が多く、さらに緊張がさらに高まります。開始直前に円陣を組んで気合を入れると、小学生たちも負けずに円陣を組みます。12時半になりました。いよいよガイド合戦が始まります。
古墳の形や被葬者の地位を伝える工夫
国際観光学部3回生 吉良 快
土師ノ里駅の近くにある鍋塚古墳は一辺60m、高さ7mの大型方墳です。4世紀の末に築かれたものと推定されています。ただ、このような説明をしても、外国人や若者が納得し、感動するとは思えません。そもそも古墳に興味をもつ人はどれほどいるのでしょうか。正直に言って、私自身も今回のガイド合戦がなければ、古墳と付き合うことは一生なかったかも知れません。文化財の価値を次世代に伝えてゆくには、まずは自分たちが価値を知り、感動をしなければ。そう思わせてくれたのが、このたびのイベントでした。鍋塚古墳は墳丘の上に登れます。ただ、登るだけでは、単なる土の丘と感じるだけでしょう。死者を葬った古代の墓であること、四角い人工的な形をしていること、そして、どれほどの身分の人が葬られているのかを、英語で外国人に伝えるには、言葉だけではなく、仕掛けが必要です。私たちはボードと紙型の人形とビニール紐を用意しました。リハーサルで墳頂の四隅を探しておき、そこに4人が立ってビニール紐を張れば、古墳が正方形をしていることがわかります。そして、中心に等身大の紙型の人形を敷けば、墓であることが実感できます。被葬者の身分はボードの模式図で示しました。少なくとも鍋塚がこの地域のボスの墓であることを知っていただけたと思います。その後、背の高い私はボードを掲げる役を買って出ました。
前方後円墳の意味を伝える難しさ
国際観光学部3回生 羽室美穂
私の番が回ってきたのは、鍋塚古墳から住宅地に入る道が仲姫命陵の土手に突き当る所でした。目の前に突如として巨大な古墳の森が現われ、壮大な景観に驚かされます。地面が一旦周濠でえぐれ、その中に大きな森が浮かび上がるので、余計に迫力があるのでしょう。しかも森の裾が美しく弧を描いています。前方後円墳の後円部なのです。その前方後円墳ですが、日本独自の形であることは、何となく習ったような記憶がありますが、鍵穴のような形の意味はわかりません。色々と説があるようですが、一番わかりやすいのは、前方部が「大地」、後円部が「大空」を表すという「天円地方」の思想です。被葬者は天に君臨するイメージで眠っています。そのことをボードに描き、英語で説明しました。はたして、私のつたない英語が通じるのかどうか、不安でしたが、理解してくれましたかと尋ねると、「yes」と応えて下さいました。審査結果の発表は道明寺天満宮の天寿殿で行なわれました。発表前に審査員の外国人たちや対戦相手の小学生たちとの交流があり 話ができました。私のテーブルには韓国人の方がいて、とても日本語が上手でした。聞けば、日本のドラマや映画が好きで、日本語の勉強を始めたとのこと。映画が外国語の学習になるのだと、聞いたことはありましたが、実際の経験談をお聞きすると、「私もやってみよう」という気になります。今日来てくださった外国人の方々は、ほとんどが私たちと同じ大学生であるとのこと。日本語が上手で、日本文化にすごく関心があります。外国の方と話をすると、自国の歴史や文化を知っておかなければ恥をかくこともわかります。ふだんは接することのない小学生たちとも交流ができて、またとない経験をさせていただきました。
日本の印象に「神社」や「古墳」を加えたい
国際観光学部3回生 岩田汐梨
仲姫命陵外堤の隅に古室八幡という神社が鎮座します。古市古墳群の中で一番規模の大きな誉田御廟山古墳に葬られていると言われる応神天皇がご祭神です。私はこの神社の説明を担当しました。小学生たちは日本語で説明し、それを通訳の方が英語に直すのですが、私たちは英語で説明しなければ、大学生としての立場がありません。かといって、言葉だけで納得してもらえるほど英語が流暢でもありませんので、ボードと身振り手振りが必要です。しかしながら、神社は日本独自の施設ですので、どう説明するか。せめて神をまつる施設であること、まつられているのがどのような神であるかを伝えなければなりません。ボードには「神は八幡神であること」「八幡神は応神天皇であること」だけを、単純な英語で表記しました。説明のあと、「Did you understand?」とお聞きして、全員にうなづいていただけました。手ごたえがあると嬉しく、充実感が味わえます。外国人に日本の印象を聞けば、「忍者」や「抹茶」などの言葉しか出てこないとよく聞きますが、日本独自のものは他にもたくさんあります。本日、私たちが案内した前方後円墳や神社も日本で生まれた文化です。そのような文化遺産をどんどん伝えて、日本の魅力を高めることがインバウンドにつながるのでは。そう感じました。対戦相手となった道明寺南小学校の6年生たちは、外国人や大勢の前でも堂々とガイドをしています。藤井寺市では小学校で古墳のことを特別に学ぶそうです。彼らが地域の誇りとして古墳の魅力を世界に発信すれば、古市古墳群が世界遺産に登録される日がきっとやってくるでしょう。
文化遺産への敬意につながる礼儀作法の学習
国際観光学部3回生 胡文啓
「古市古墳群ガイド合戦」は、歴史や文化に関心が低いと言われる若年層に働きかけて、藤井寺市の文化遺産の価値を知ってもらい、次代に継承してもらおう、という事業の一環として行なわれました。また、多くの外国人たちが藤井寺市に足を運ぶようになるには、どのように情報を発信すればよいかを模索する活動でもありました。私自身も留学生ですので、外国人の視点からアイデアを出すことができます。外国人が興味をもつ日本文化に「礼儀作法」があります。茶道の礼儀がそのひとつです。また、神社やお寺を参拝するときに、それぞれの礼儀があって、これが外国人にはわかりづらい。それは日本の若者も同じことです。難しそうな礼儀作法は神社やお寺を敬遠する原因となります。そこで、私はマナーを解説しました。神社では、鳥居で1礼、拝殿では脱帽2礼2拍手1礼、お寺では、仏殿の前で脱帽、合掌です。また、陵墓の拝所では脱帽、1礼が作法です。同じようでいて違いがあり、お寺でも陵墓でも手を打たないことを説明しなければなりません。話だけでは伝わりませんので、ボードに図解し、同期の黒岩未知也君が私の解説に合わせて参拝の方法を実演してくれました。これは審査員たちからいい反応をいただきました。神社やお寺の建物も外国人を惹きつける要素ではありますが、こういう作法の習得が深く文化を味わう入口になること実感しました。もちろん、宗教上の制約などに配慮する必要はあるでしょうが、礼儀作法の体験学習が若者に文化遺産への敬意を抱かせる手法になるのでは、と思いました。古墳の森で「かんれんぼ」をする子どもを見かけたことがあります。彼らはそこが古代の墓とも知らず、無邪気に遊んでいるのです。もし彼らが人の墓であることを知り、それを築いた人々にも敬意をもつならば、「守らなければならない」という感情も出てくるでしょう。文化遺産を保護して次世代に伝えることの第一歩は、敬意をもつことにある。本日のガイド合戦を通じて、そのような結論を得るに至りました。
嬉しかった先輩のフォロー
国際観光学部2回生 仲村つづり
対戦相手の子どもたちは、それぞれの見学地で立派にガイドを務めてゆきます。その姿を見ていると、大学生の私は彼ら以上に頑張らなければと、肩に力が入ってゆきます。コース後半の道明寺でついに私の番がやってきました。このお寺に十一面観音菩薩像がおまつりされていることを説明する役です。そもそも観音が11の頭を持つことの意味が難しく、どう説明していいのやら。観音は菩薩と呼ばれ、一般の人たちに比べると、はるかに道理のわかった人なのですが、完全に悟りを開ききっておらず、まだ修行中の身であるそうです。11面は修行のステップを示し、階段を登りつめて悟りを開く過程を示す表現であるらしいのです。それを2枚のボードで説明しましたが、英語ですので、やはり難しい。途中で間違い、詰まってしまいました。ところが、そこにすかさず先輩のフォローが。結局は無事にガイドの務めを果たし、審査員の外国人たちにも十一面観音の意味を理解していただけたようです。本当にありがたいフォローでした。とはいえ、ガイドは続きます。最終見学地となったのは、道明寺天満宮です。3回生の坂本美紗さんが天満宮の神使が牛であることを説明し、黒岩未知也さんがお参りの作法を再び実演して、すべての予定を終えました。あとは境内の天寿殿で審査結果の報告が行なわれました。審査員を務めた留学生たちが判定の理由を説明しながら、掲示された小学生と大学生の枠内に色紙の花を貼ってゆきます。9人ですので、引き分けはありません。一喜一憂するなか、花の数が4つずつとなり、いよいよ最後はブルガリアの男性となりました。彼は日本語が堪能で、私たちが頑張って英語でガイドをしたことを褒めてくれましたが、悩んだ末、小学生チームに花をもたせました。その気配りに出席者の全員が大きな拍手。実に気持ちのよいフィナーレでした。
ガイド合戦の成果
小学生と大学生のチームが現地で外国人に対してガイドの技を競うという、おそらくは前代未聞のイベントが無事に終了し、大きな成果を生みました。その最大の成果は、年齢が異なり、国籍が異なる青少年が共に文化遺産を学び、楽しめたことでしょう。保護者や教員、市職員やスタッフも同行しましたので、年齢層はすべてに及びました。多世代交流の必要性が唱えられるなか、そのモデルとなる活動事例に加えられることでしょう。文化遺産を大切にする心を次世代に継承してゆくには、「知ること」だけでは不十分です。個人の満足で完結し、継承ができません。知って「伝えること」に重きを置き、そのための努力をしてゆかねばなりません。ガイド合戦の狙いはその点にありました。小学生やゼミ生には、人に伝えて、納得させることの楽しさを味わってもらえたようです。「伝えることが楽しい」と思わせることが、文化遺産を次世代に継承してもらうための仕掛けになる。そのことを確認できた活動でした。