上方伝統芸能ナイト『英語でスペシャル』を楽しむ!(レポーター:大宅和佳)

英語で伝統芸能…私にわかるかな……

山本能楽堂

 2012年3月18日(日),松村ゼミと新今宮TICスタッフの有志で,「初心者のための上方伝統芸能ナイト」『英語でスペシャル』編を観に行きました。会場は松村ゼミとも関わりの深い谷町四丁目の山本能楽堂。松村ゼミは第3回ゆめづくりまちづくり賞奨励賞を受賞しましたが,その際,奨励賞を同時受賞したのが山本能楽堂でした。松村先生によると,「阪南大学OBの桂あさ吉さんや国際観光学科OBの桂ちょうば君も出演するイベントやから,ぜひ観に行きたいと思っていたけど,チャンスがないままズルズルと時間が過ぎてしもうた…」とのこと。今回は「新世界・西成 食べ歩きMAP」で松村ゼミが大阪商工会議所に制作協力したので,その協働をねぎらう形で,上方伝統芸能ナイトを共催する大阪商工会議所からご招待いただきました。

 当初は松村ゼミの外国人向けまち歩きツアーと絡めようと,新今宮界隈のゲストハウスにて,実費負担で参加者を募ったのですが,この季節は外国人旅行者そのものが少なく,たとえいても非英語圏のアジアからの観光客が多い時期で,残念ながら,外国人の参加者は集まりませんでした。参加したのは,松村ゼミ9代目の小林志帆・井上咲季・高橋菜央・加藤宏実の4名,10代目の私・大宅和佳,新今宮TICスタッフで4月から2年生の津村明衣と酒井美依奈,7名の学生と松村先生の合計8名でした。

大衆演劇の劇場

 18日の新今宮TICの14時以降の運営は,ゼミOBの濱中勝司さんらに任せ,私たちは新今宮TICを出て,最寄りの地下鉄堺筋線動物園前駅から谷町四丁目へと向かいました。会場の場所を知らない私たちは,松村先生の後ろをついて歩きましたが,松村先生も久しぶりに来られたらしく,「ここ曲がるんやったかな??」と少し記憶が曖昧のご様子でしたが,開演する15時の少し前に無事,山本能楽堂に到着しました。
山本能楽堂のなかには,当然,立派な能舞台がドンとあり,100名くらいは座れるかな…というくらいの広さで,1階席と2階席に分かれていました。私たちが入った頃,1階席はもうほぼ満席で全員でかたまって座ることができなかったため,2階席へ向かいました。山本能楽堂へ入って,最初に印象に残ったのが,何とも言えない木の心地よい香りでした。

 さて,私たちが座って落ち着くと,それを待っていてくれたかのように,ショーが始まりました。この日は基本的に全て英語,上方伝統芸能ナイトのなかでも年に1,2度しかやらない外国人向けのプログラムでした。演目は上方芸能のアラカルトで,最初が桂あさ吉さんによる英語落語,続いて島之内たに川の芸者さんたちによるお座敷遊び,次がこの日の司会も務めた旭堂南陽による英語講談,最後は能楽師・林本大らによる能「田村」でした。

 司会も演目の紹介も,当然芸能も,英語で行われましたが,みなさんゆっくりと話され,事前に詳しい資料が配布され,字幕も映し出されたので,英語が得意でない私でも,充分理解できました。私の見たところ,プログラムのなかで最も外国人に受けたのは,お座敷遊びでした。

 落語や講談は言葉の意味を理解しなければなりませんが,お座敷遊びは,身振りや手振りと音楽で遊び楽しむものだから,外国人にも理解しやすかったと思います。紹介されたのは「とらとら」というお遊びで,ジェスチャーを使ったジャンケンのような遊びでした。登場するのは,お侍さん,お侍さんのお母さん,虎の3者で,お侍さんは虎には勝つがお母さんには負ける,お母さんはお侍さんには勝つが虎には負ける,虎はお母さんには勝つがお侍さんには負ける,という単純なものです。

お座敷遊びの様子

 屏風の片側に芸者さんが,その反対側にお座敷遊びするお客がスタンバイして,三味線の音色と歌に合わせて,踊りながら3者のどれかのジェスチャーで屏風から出て,勝敗を決めます。今回は会場から外国人3名が飛び入りで舞台にあがり,芸者さんと勝負しましたが,見事に3回とも芸者さんが勝ちました。

 全く理解できなかったのが能でした。能の言葉は私たち日本人でも分からないのですが,外国人の観客も,舞っている演者の動きを観ながら,やはりストーリーが気になるのか,チラチラと字幕を読むため目線を動かされていました。私たちも手元の資料をチラチラと読みながら,舞台を観ていたのですが,横におられた松村先生から,「そんなんわからんでええねん。そんなん気にせんと,役者やお囃子の動きをじっくりと観るか,ボーっとリラックスした方が気持ちいいで。」とのアドバイスをいただきました。

 全ての演目が終わって山本能楽堂を出ると,まだ外は明るかった。翌19日が卒業式だったので,さすがの松村先生も「今日は早く帰ろう」となり,早くに解散しました。

上方伝統芸能ナイトを観て(レポーター:津村明衣)

ゼミ生たち

 以前にテレビで能と落語は見たことがあり,大体のことは知っていましたが,お座敷遊びはそういうものがあるという程度しか知らず,始まる前からとてもわくわくしていました。

 まずは出演者による英語でのトーク。私は英語が苦手ですが,そんな私でもある程度分かるぐらいに簡単な言葉を使い,分かりやすく面白くトークしつつ,落語やお座敷遊びや能の解説をしてくれました。

 英語落語で桂あさ吉さんが舞台に出ると,いきなり笛の演奏から始まりました。話し始められると,最初は緊張されている様子が伝わりましたが,落語の話に入ると,しぐさも話の流れも分かり易く,次第に爆笑の連続となりました。

能舞台

 次に,お座敷遊び。芸者さんの舞はとても美しく,外国人の「とらとら」遊び体験は,観ている方も楽しめ,私も舞台にあがり,「とらとら」を体験してみたいと思いました。英語講談は,落語と同様に分かり易く面白い話でした。松村先生によると,落語のネタにもなっている「竹の水仙」というお話だったそうです。最後の能は分かり難かった。私が能のことを知らな過ぎるからだと思いますが,楽しむというよりは,目の前で何が演じられているのか理解しようと必死になってしまいました。

 私は先日,松村先生と大衆演劇も観ました。今回の上方伝統芸能は大衆演劇とは異なる芸能の世界でしたが,外国人の観客も充分に楽しまれている様子でした。入場料が3,500円で2時間弱の公演なので,大衆演劇と比べれば,少し高い気もしますが,色々な伝統芸能をダイジェストで観ることのできる数少ない貴重な機会なので,外国人に喜ばれるエンターテイメントだと思いました。

上方芸能に触れて(レポーター:酒井美依奈)

松村教授とゼミ生

 私はこの日たまたま,新今宮TICのスタッフに入っていて,松村先生から上方芸能を観に行かないかと誘われ参加しました。日本人ながら,落語や講談,能など,初めて見る芸能ばかりでした。山本能楽堂はまさに日本文化を感じさせる雰囲気を漂わせており,「英語でスペシャル」編ということで,想像していた以上に外国人で席が埋まっていました。

 ショーは全て英語で行われましたが,ほとんど上方伝統芸能の知識がない私でも,おおよそ内容がわかり楽しめました。日本のことをあまり理解していない外国人観光客も,私同様,楽しまれているようでした。私は個人的に,日本人の笑うツボと,外国人が笑うツボが,果たして同じなのか…と興味津々で観ていたのですが,基本的に笑うタイミングは同じでした。私から見て,外国人の反応が良かったのは,落語と講談でした。

 独特な声と和楽器の甲高い音色が耳に残る能では,無表情の仮面をつけた役者が,ゆっくりと舞台に入って来ては,足で地面を踏み鳴らし,機敏に動き回るのに圧倒されました。舞台で何をしているのか,それにどんな意味があるのか,それは日本人の私も分からなかったので,外国人にもおそらく伝わらなかったと思います。でも,あの能の独特の雰囲気というか,迫力というか,緊張感は,外国人にも伝わったのではないでしょうか。

やっと観に来られた上方伝統芸能ナイト(レポーター:松村嘉久)

山本能楽堂

 山本能楽堂の奥様とは色々な会合でお話する機会もあり,このイベントは,あさ吉さんやちょうば君ら阪南大OBが出演し,大阪を代表するエンターテイメントに育ちつつあるし…,ぜひ一度,行きたい,行かねば…とずっと思っていました。その想いがようやく実現しました。それも何と,この日は英語で上演するという特別な日でした。観客の入りは2階も含めてほぼ満席状態で,観客の7割程度が外国人という感じでした。

 落語も講談も,とても分かり易く,世界共通で笑えるネタを選ばれていて,外国人の受けも良かった。ベテランのあさ吉さんが,英語落語ということもあってか,最初とても緊張されていたのが印象に残りました。あと,学生たちもイマイチ理解していなかったので,外国人には,落語と講談の微妙な違いが,なかなか伝わらなかったのではないか,と感じました。


 お座敷遊びは,外国人を舞台にあげての動きのあるものだったので,学生の報告の通り大好評でした。能「田村」では,舞台を観て,字幕を読んで,舞台を観てと,外国人の目線が落ち着きなく動くのが気にかかりました。字幕を捨てて,舞台に集中できるよう,役者・謡・囃子の迫力を楽しめるよう,舞台を理解するのではなく想像力豊かに感じるよう,うまく誘導できれば,もっと楽しめるのではないでしょうか。このイベントは特に,色々な上方伝統芸能の良いところだけをつないで,アラカルト的に提供する場なので,司会進行の役割がとても重要です。今後は,外国人向け公演専門のプロの司会進行の養成が必要だと感じました。舞台上での芸能の質は高いので,司会が見せ方を工夫するだけで,観客の印象や理解度や満足度は大きく改善すると思います。

 さて,松村ゼミは5月19日(土)の上方芸能ナイト「五月晴れ」編のチケットも入手しました。この日の出番は,落語がOBの桂ちょうば君,浪曲が美人浪曲師の春野恵子さん,狂言は実力抜群の義竹隆司・隆平さんで,島之内たに川のお座敷遊びも楽しめます。5月19日は英語スペシャルではなく日本語での公演です。残念ながら,私はこの日,学務があってどうしても行けませんが,ゼミ生たちにぜひ体験してもらいたい,レポートしてもらいたいと思います。大衆演劇から上方伝統芸能,さらには能楽師・梅若玄祥先生の至高の芸能まで,松村ゼミでは,気軽に楽しめるような,何もかも忘れられるような,心が静まるような,胸がキュンとなるような,魂が揺さぶられるような,そんな色々な芸能を観て楽しみ,応援していきたいと思います。