松村ゼミ生の感想

初めてのフィールドワーク(レポーター:1回生 福崎 美帆)

 私たちは国際観光学部の1年生で,松村先生の入門ゼミに所属しています。2012年5月12日(土),私たちにとって初めてのフィールドワークがありました。松村ゼミの先輩たちが,「新世界から西成の魅力発見」というテーマでフィールドワークを企画され,先輩方と一緒に参加させていただくことになりました。今回の松ゼミWalkerでは,私たち1年生の初フィールドワーク体験をリレー形式で報告していきます。

 フィールドワークの集合場所は松村ゼミが運営している新今宮観光インフォメーションセンター(新今宮TIC),集合時間は9時半。そこに現地集合です。迷わないでたどり着けるかどうか心配でしたが,無事に到着することができました。フィールドワークの参加者が揃うと,新今宮TICから人があふれてしまうほどの大人数になり,2年生の先輩方はホテルセレーネのロビーに移動されました。それでも新今宮TICのなかは,人でいっぱい。風が冷たく肌寒い日でしたが,人口密度で部屋のなかは暑いくらいでした。

 さて,この日の午前は,新今宮TIC周辺のことを知らない1年生と2年生が松村先生の案内で歩き,この地域がどのようなところなのか,現場を見ながら説明を聴くことになりました。

新今宮TICのなかの様子(レポーター:1回生 土居 立佳)

 まず,新今宮TICのなかの様子を簡単にレポートしたいと思います。新今宮TICには道路に面してカウンターがあり,外国人や日本人の利用者とはそのカウンターで話をします。カウンター横のドアを入ると,なかには白い長机が何台かレイアウトされていて,その上にパソコンやプリンターなどが置かれています。パイプ椅子,小さな冷蔵庫,ホワイトボード,本棚などもあります。阪南大学の経費で買ったものもあるそうですが,ゼミの先輩方や地域の方々に寄贈していただいたものも多いそうです。

 壁には松村ゼミが活動している写真や新聞記事などが貼り出されています。入口のドアにも,まち歩きの写真が張り出されていて,立ち止まってじっと見る通行人もおられます。新今宮TICのあちらこちらに,松村ゼミの活動に贈られた表彰状や盾などが飾られています。新今宮TICはむかしホテル中央のコインロッカー室だったそうで,よく見ると天井がところどころ破れていて,とても立派とは言えません。でも,ゼミの先輩方の手作り感あふれる飾り付けで,落ち着く雰囲気が出ていてとても素敵なところです。

新今宮TICからホテルオアシス屋上へ(レポーター:1回生 中川 光華)

 新今宮TICのなかでは,松村先生から新今宮TICでどのような活動を行っているのか,詳しく説明していただきました。新今宮TICの外へ出ると,道路のこちら側も向かい側もホテルでいっぱい。そこから見えているホテルだけで,年間7万人から10万人くらいの外国人旅行者が宿泊しているそうです。まずは地域全体を見わたせるところへ行こうと,30名を超える大人数だったので二手に分かれて,ホテル中央オアシス(以下,オアシス)に向かいました。

 オアシスのなかへ入りフロントの前を通り,奥の小さなエレベーターへ。人数が多かったので4,5回に分けて,オアシスの屋上に上がらせてもらいました。風が強く肌寒い曇りがちの天気でしたが,オアシス屋上からは,大阪市内が一望できました。屋上から北を見ると,すぐ目の前に格安のホテルが並び,もう少し先にスパワールドと解体中のフェスティバルゲートが見え,その奥に通天閣があります。

 そこから東の方へ目線をうつすと,緑いっぱいの天王寺動物園があり,建設中のあべのハルカスが見えます。松村先生は,そうした特徴的な風景や建物を指さしながら,阿倍野区・天王寺区・西成区・浪速区の境界について語られました。また,大阪城から住吉大社あたりまでは,大阪平野のなかで数メートルほど海抜の高い上町台地が続き,古代大阪は,上町台地以外は海だったと説明を受け,現在の姿からは全く想像できないので驚きました。

 続いて,松村先生は通天閣よりも西側あたりを指さし,「あのへんの風景をよく観察して。道頓堀と日本橋が見えてるはずや。」とおっしゃいました。よく見ると,道頓堀のドンキホーテの黄色い観覧車が見え,その手前には,日本橋デンデンタウンのJoshinの看板が見えました。京セラドームもよく見えました。

 阿倍野区のあべのハルカス,天王寺区の天王寺動物園,西成区の外国人向けの安いホテル街,浪速区の通天閣から日本橋デンデンタウン,中央区の道頓堀,西区の京セラドーム…,オアシスの屋上からはそれらが一望できました。若い外国人旅行者ならば,平気でこのくらいの距離は歩いて移動し,まち歩きを楽しむので,個別バラバラにではなく,区の境界を越えてひとつの大きな地域として,外国人旅行者にアピールし,まちづくりに取り組む必要がある,と松村先生は強調されていました。実際に歩くと,あべのハルカスから道頓堀まで,1時間から2時間くらい,その途中には面白いものがいっぱいあるそうです。

地域の期待の星・ホテル東洋(レポーター:1回生 上垣彩夏・1回生 橋本知明)

 次に,ホテル東洋を見学させていただきました。ホテル東洋は1泊1,500円の安さが魅力で,最近は外国人旅行者の宿泊が増えているところですが,まだ労働者の方も宿泊されています。ホテル東洋は5階建ての建物で,エレベーターはなく階段のみ。

 階段を上がるのが大変なので,上層階に行くにつれて宿泊料金は安く設定されているそうで,最上階には1泊1,000円の部屋もあるそうです。1階から3階は主に外国人や日本人の観光客,4階以上は労働者と,同じ建物のなかで上手く利用を分けておられます。

 私たちは2階の1泊1,500円の最も標準的な客室を見学させていただきました。部屋は3畳から4畳ほどの広さで畳敷き,小さな押入れがあって,そこに布団一式,小さなテーブル,歯磨きセットなどが置かれていました。布団を敷くと,畳のほとんどが隠れるくらいの狭さでしたが,予想以上に部屋は清潔で,寝るだけなら充分のスペースだと思いました。

 日本人はどちらかというと,ホテルには豪華さや快適さを求める人が多いですが,それは1度の旅行にかける時間が少ないからだと思います。それに対し外国人旅行者,特にバックパッカーは,より安く,より長期にわたって自由に観光するスタイルなので,激安のホテル東洋に何泊もされるそうです。

 ホテル東洋の1階ロビーには,宿泊客らが互い交流できるコミュニティスペースがあり,そこにネットフリーのパソコンや共有の冷蔵庫などが置かれていました。夕方から夜になると,外国人の宿泊客がここへ降りて来て,旅の情報を交換し合ったり,楽しく飲んで語り合うそうです。これは高級ホテルにはない,楽しみだと思いました。

 ホテル東洋は,設備などのハードは昔ながらの簡易宿所のままで,フロントや従業員などのソフト面の対応を変えて,外国人旅行者からも人気のホテルになったそうです。松村先生によると,「このホテルの成功は,あいりん地域の希望であり,期待の星や。」とのことでした。外国人旅行者の受入に積極的でないホテルも,ホテル東洋の成功から学べば,外国人向けのホテルに転換できるヒントがたくさんある,実際に現場を見て私もそう感じました。

地域で最高級のホテルセレーネ(レポーター:1回生 福崎美帆)

 最後にホテルセレーネを見学しました。宿泊料金は1泊3,500円,学生が早割で予約すると1泊3,100円で,ここセレーネがこの地域のホテルのなかで最高級なのだそうです。ロビーには大型の液晶テレビやゆったりとしたソファーやパソコンが置いてあり,宿泊客どうしがコミュニケーションをとれるようになっています。私たちがホテルセレーネに入ると,ちょうど外国人宿泊客が朝食を持って部屋に戻られるところでした。

 私たちは8階のシングルルームを見学させてもらいました。部屋の広さは15平米弱,一般的なビジネスホテルよりも,少し広いくらいだそうです。部屋にはユニットバスやインターネットが完備していて,エアコンや冷蔵庫もあり,普通のビジネスホテルと全く変わりませんでした。1泊3,500円で宿泊できるのは,とてもお得だと思いました。(写真はツインルーム,12日夜の松村ゼミのミーティング前の風景)

 部屋を見学した後は,8階から,普段は立ち入り禁止の非常階段を利用してロビーに戻りました。非常階段からは取り壊している最中のフェスティバルゲートを見ることができました。松村先生によると,膨大な負債を抱えて破たんしたフェスティバルゲートの土地は,パチンコチェーン大手のマルハンが14億2千万円で落札したそうです。この土地にはマルハンが複合レジャー施設「ツーテン・ゲート」を建設して,2013年6月にオープンすることになっているそうです。果たして,このペースで間に合うのか…??
わずか2時間弱のフィールドワーク,いくつものホテルは同じ西成区のなかにあり,その距離は歩いて数分くらい。そんな条件のなかでも,それぞれのホテルが特徴を活かして,宿泊客が自分に合ったホテルを選ぶことでたくさんホテルが共存している。普段は何も考えないで素通りしてしまいそうな街も,じっくりと説明を聴いて回ると,とても奥が深いなと思いました。

昼食の後は地域のエンターテイメント鑑賞!(レポーター:4回生 内田裕規)

 昼食の後は,三つのグループに分かれて,新世界のエンターテイメントを実際に鑑賞しに行きました。行ったのは,上方落語の動楽亭,大衆演劇の朝日劇場,松竹芸能の通天閣劇場でした。当初は大衆演劇の浪速クラブにも行く予定だったのですが,大入り満員で入れないとのことで断念しました。
 
 さて,私たちはただ単にエンターテイメントを鑑賞したのではなく,それぞれがテーマを持ち,見るべきところをしっかりと確認して,真剣に観察して記録しながら楽しみました。その様子を新入生たちのレポートでお届けします。

上方落語の寄席・動楽亭(レポーター:1回生 森本貴仁)

 上方落語の寄席・動楽亭は,2008年末に桂ざこば師匠が若手を鍛える場を作ろうと,席亭として私費を投じて開設されました。桂ざこば師匠のご実家はこの動楽亭のすぐ近くだそうです。

 動楽亭の場所はとてもわかりやすい。地下鉄動物園前駅の1番出口の階段を上がって外へ出ると,すぐ目の前にファミリーマートがあります。そのファミリーマートが入る建物の2階が動楽亭です。寄席のある日は,動楽亭を書かれたカラフルな幟が立つので,まず迷うことはありません。JR新今宮駅やチンチン電車の南霞町駅からなら歩いて3分,南海新今宮駅からでも10分,山王交差点の東北側を目指せば間違いなく到着します。

 2011年10月までは毎月1日から10日までの10日間公演でしたが,その後,1日から20日までの20日間公演になっています。入場料は2,000円で,午後2時開演で終演は午後5時くらい。毎日6名の落語家が出演されています。桂米朝師匠の弟子の桂ざこば師匠が席亭なので,出演される落語家は桂米朝一門が多いのですが,最近では,桂文枝一門,笑福亭松鶴一門,桂春團冶一門,林家染丸一門も出演されるようになり,落語好きの松村先生によると,寄席としての楽しみが断然高まったとのことです。

動楽亭のなか(レポーター:1回生 栃原智美)

 動楽亭の入り口は少し奥まっていて分かりにくいのですが,開場前になると落語ファンが行列をつくっているので,その後ろに並べば問題ありません。階段をのぼってファミリーマートの2階へあがると,普通のマンションのお宅のような入口があります。入口を入ると下駄箱があって,私たちはそこで靴を脱いで,まるで友達のお家へ遊びに行ったかのような感覚で,動楽亭のなかへ入りました。

 この日の動楽亭の客席は,座り心地のよい1人掛けのゆったりとした座椅子が横に6席,縦に6列並び,その後ろに3人掛けのベンチ型の椅子が4つ置いてありました。客席のさらに後ろには,落語会のパンフレットや落語関連グッズと並び,世界のカジノのチップも展示されていました。

 お客さんのほとんどは,男女とも40歳以上のご年配の方ばかりでした。この日のお客さんは私たちを含めて30数名くらい,外国人らしき方はひとりも見当たりませんでした。何より驚いたのは,舞台と客席の近さです。舞台は一段高くなっていましたが,客席最前列の人が立って手を伸ばすと,ちょうど落語家さんと握手できるくらいの近さでした。

この日の出演と演目(レポーター:1回生 谷口真帆・1回生 野崎楓)

 開演3分前になると,舞台に向かって左手の部屋から,笛や三味線や太鼓のお囃子が聞こえてきました。1回の公演で6名の落語家が出演,1人が20分から30分ほど落語をされます。この日の出演者は,桂優々さん,桂雀五郎さん,桂文太さん,桂坊枝さん,中入り休憩を挟んで,林家小染さん,林家染丸さんでした。トップバッターの若手の優々さんからは,落語に入る前に,携帯電話のマナーモードについてのお願いがありました。このただのマナーモードのお願いでさえ,お客さんから笑いをとっていました。

 後で松村先生から聞いたのですが,この日は桂米朝一門ほか,桂文枝一門と林家染丸一門が出演されていて,最後に落語をされた林家染丸さんが林家一門の大師匠と呼ばれる方なのだそうです。今回落語を聴いて思ったのですが,落語家さんのしゃべり方は,アナウンサーよりも早口で滑舌が良く,聴き取りやすかった。

 落語家さんはマイクを一切使わず,みんな地声でしゃべっておられました。動楽亭は決して小さくはないのですが,落語家さんの声はよく響き,小さな声でしゃべるようなシーンでも,不思議とよく聴こえました。落語家さんたちは,表情や視線,仕草に加え,小道具をうまく使って,頭のなかではっきりと光景が描けるような,非常にリアリティーの高い話を目の前で展開されました。

 落語の内容は,とても分かりやすいものと,ちゃんと聞いていないと,話が理解できないものがありました。大トリの林家染丸さんの落語は,何の予備知識もなく今日初めて聴いた私には,そのストーリがあまり理解できませんでした。しかし,周りにいたご年配のお客さんを見ると,染丸さんの落語を聴きながら涙を流されていて,ハンカチで目頭をおさえながら笑っておられました。笑いながら泣き,泣きながら笑える落語は,奥の深い芸能だと感じつつ,2時間半たっぷり楽しむことができました。

大衆演劇の晴れ舞台・朝日劇場(レポーター:4回生 内田裕規)

 新世界から西成にかけては大衆演劇の劇場が五つもあるのですが,朝日劇場はそのなかでも,最も歴史が古くステイタスの高い劇場です。新世界での朝日劇場の歴史は,何と明治43(1910)年までさかのぼれるそうで,今年100周年記念を迎える通天閣よりも古いそうです。ミヤコ蝶々や藤山寛美などの有名な俳優さんたちが,朝日劇場でお芝居をされていたそうです。

 現在でも,朝日劇場は大衆演劇のメッカとして,連日人気劇団が昼夜の2回公演でお客さんを楽しませています。入場料は1,700円。朝日劇場の隣には朝日劇場資料館(入館料300円)があり,こちらの展示も興行の街としての新世界を今に伝える貴重なものばかりです。

朝日劇場で大衆演劇を見る(レポーター:1回生 中井美菜子・1回生 竹村磨美・1回生 山下大貴)

 朝日劇場の入り口を入ると,まず小さなロビーがあり,そのロビーの壁には歴代の有名な大衆演劇の役者さんたちの写真が飾られていました。客席へ入るドアは三つあり,真ん中と右側のドアは椅子席へ,左側のドアは桟敷席への入り口で,ドアの横に靴箱が設置されていて,そこで靴を脱いであがるようになっていました。

 劇場のなかは舞台に向かって左側から右側へ,桟敷席,花道,椅子席(4席分),通路,椅子席(7席分)となっています。桟敷席と椅子席を合わせると200席を超え,大衆演劇の劇場のなかでは,「とても大きくて立派なところ」,と近くに座ったオバサマから教えていただきました。花道は舞台とつながっていて,芝居の時は役者さんが舞台のそでからではなく,花道から登場して来たり,花道から舞台裏へ出て行くこともありました。驚いたのは舞台と客席の近さです。特に,花道と客席の距離はとても近く,芝居やショーが始まると,役者さんとお客さんとの不思議な一体感を感じました。
 劇場のあちらこちらに照明装置やスピーカーがあったのですが,私たちが一番気になったのは天井からぶら下がる大きなミラーボールでした。さすがにこれは使わないだろう,と思っていたのですが,芝居が終わった後の舞踊ショーの際,ばっちり使われていました。朝日劇場の照明と音響の設備は,大衆演劇の劇場としては画期的に優れているそうです。
劇場内の壁には出演されている役者さんたちの垂れ幕が何枚もかかっていて,役者さんの写真と名前,垂れ幕を贈った人や団体の名前が書かれていました。私たちが見た5月は春陽(はるひ)座の公演,座長の澤村心,花形の滝川まこと,特別出演の沢田ひろし,など劇団員7名の垂れ幕がありました。

 公演の最初はお芝居,この日は「一本刀土俵入り」というお話で,主演は澤村かずまさんでした。お芝居はいわゆる時代劇で,言葉遣いは昔風でしたが,話の筋がとても分かりやすく引き込まれ,あっという間に時間が過ぎました。横綱を目指していた相撲取りが親方から破門され希望を失うなか,ある女性から恩を受け立ち直りかけるが,運命のいたずらでやはり挫折してヤクザになる。その後,家族持ちとなったその女性と再会するが,その女性の夫がまたヤクザで,違うヤクザから追われる身となっていた。その元相撲取りは,10年前の恩返しにと,その女性をかばってヤクザの追っ手をたたきのめして逃がしてやる,という筋でした。場面が変わるたびに幕がおりて,5分から10分くらいの休憩のような時間が挟まれるのですが,それで集中力が途切れることもなく,最後までじっくり観られました。

 前半のお芝居が終わると,役者の何名かがその衣装のまま会場に出て来て,お客さんに挨拶をしていました。それが終わると,次は春陽座のオールキャストで送る舞踊ショー「東京アンナ」が行われました。このショーでは激しい踊りから繊細で妖艶な踊りまで,多種多様な踊りが楽しめました。それが終わると,ゲスト出演していた沢田ひろしさんが,締めの挨拶と今後の舞台の宣伝をして,幕が閉まり終了しました。お芝居も踊りもクオリティが高く,心から楽しめました。

 朝日劇場の外へ出ると,さっきまで舞台で踊っていた役者さんたちが先回りして,ずらっと並んでお客さんたちをお見送りされていました。私たちは主演の澤村かずまを探して,一緒に記念撮影させていただきました。

松竹芸能の劇場・TENGEKIで漫才を見る(レポーター:1回生 田村侑平・1回生 竹中静・1回生 平山あかね)

 新世界のシンボルである通天閣の真下の地下に通天閣劇場はあります。2008年7月に開館したこの劇場は,通称TENGEKIと略して呼ばれています。TENGEKIは松竹芸能が運営する劇場で,毎週土日に漫才・コント・上方落語などのお笑いを楽しめる場所です。出演されるのは,基本的に松竹芸能に所属されている芸人さんです。

 1日2回公演で,1回目は13時から,2回目は15時から。入場料は2,000円ですが,私たちは学割の1,000円で入場できました。TENGEKIへは,王将の碑文のある通天閣の真下から,階段をおりて地下へ。普段ならとても分かりにくい入口でしょうが,土日の開演前には,看板が出て呼び込みしているので,迷うことはないと思います。

 客席は全て自由席で,固定の椅子ではなくパイプ椅子が左・真ん中・右と三つのブロック分かれて置かれていました。松竹芸能のウェブサイトでは196席と書かれていましたが,私たちが見た5月12日は,お客さんが少なかったので,後ろの席がカーテンで仕切られていました。

 客席に座ってみると,舞台と客席の距離の近さがとても印象的でした。舞台が始まるまではカーテンが閉まっていて,カーテンが開くとテレビ画面があり,そこに出演者の名前が映し出されるようになっていました。

 5月12日の出演者は漫才・コントの二人組ばかりが9組で,各組の持ち時間は10分から15分くらい。私たちが知っていたのは,最後に出てきた「酒井くにおとおる」だけでしたが,学割1,000円で約90分,楽しい時間が過ごせました。テレビで漫才やコントを見ることはあっても,目の前でしかも生ライブでそれを見られる機会は,都会でしかありません。生ライブはテレビで見るのとは違って,舞台と客席の間で独特の雰囲気と緊張感があります。舞台と客席が一体となると,面白さも倍増します。大トリの酒井くにおとおるさんの漫才では,確かに生ライブの楽しみが味わえました。通天閣のエレベーター待ちをしている人たちも,ぜひ一度,TENGEKIへ足を運び,都会でしか味わえない生ライブの魅力を体験していただきたいと思います。

フィールドワーク参加学生からの感想

大衆演劇の人気の秘密は演者と観客との近さ(レポーター:1回生 濱崎広大)

 私は新今宮がどんなところなのか,行ったこともないので全く分かりませんでした。事前学習で松村先生から話を聴いた限りだと,あまり行きたくないなあと感じていました。でも,実際に行ってみると,1,500円で宿泊できるホテルがありとても驚きました。失礼な話ですが,この値段でこの外観だと,どうせ部屋のなかはとても汚いんだろうなと思いましたが,実際に部屋やコミュニティスペースも見せてもらうと,1,500円なら泊まりたいと思うようになりました。

 昼からのエンターテイメント鑑賞では,朝日劇場で大衆演劇を見ました。女装した男性俳優の踊りが,女性よりも女性らしく,舞台をおりて普通に喋る時には男に戻り,そのギャップにとても驚きました。大衆演劇なんて興味以前の問題で,あることすら知りませんでしたが,あの日を境にインターネットでも調べるようになりました。

 観客は確かに年配の方が多かったのですが,なぜ客席が満員なるほどの人気があるのか,お芝居を見ながら疑問に思いました。お芝居は上手く,ショーも楽しい,でもそれだけでここまで人気が出るのだろうか,やはり疑問でした。ところが,終演後にそのヒントに気づきました。役者さんたちがお客さんを見送って写真を撮ったり,とても親しく会話をされていました。大衆演劇の人気の源は,こうした演者と観客の関係の近さにあるのでは,と思うようになりました。

同じ体験でも観点が違えば印象が異なる…(レポーター:福田千晴)

 フィールドワークが始まると,自分の周りを観察するので精一杯になり,メモをとるにしても何をメモすればいいのかも分かりませんでした。何より私にとって,今回のゼミ活動が,阪南大学国際観光学部に入学して最初のフィールドワークだったので,初めての経験ばかりで余裕がありませんでした。

 午前中は松村先生と先輩方の案内で集団行動,午後からはグループに分かれて,別々の飲食店で昼食を食べ,別々のエンターテイメントを鑑賞しました。各グループで見たもの体験したことが違うので,グループ間で感想や意見が違うのは当たり前です。ところが,私が面白いと感じたのは,同じグループで同じ体験をするなかでも,各個人が違う観点から観察することになっていたので,お互い意見を交換し合うと違った印象や見方があることに気付かされたことです。これもフィールドワークの面白いところなのだろうかと思いました。

 これからの大学生活で,フィールドワークを経験するチャンスは,まだたくさんあると思います。でも今回,松村ゼミのフィールドワークを最初に経験できたのは,私たち1回生のゼミ生にとって,とても良いスタートを切れたのではないかと思います。次からのゼミ活動でも,たくさんのことを吸収したいと思います。

フィールドワークに参加して(レポーター:1回生 井上文乃)

 私は松村ゼミではないのですが,松村ゼミがフィールドワークすると友達から聞いて知り,松村先生に直接お願いして,特別に参加させていただきました。参加して印象に残ったのは,松村先生やゼミの先輩方の行動の速さです。無駄な時間が全くなく,常にテキパキと動かれる姿に感動しました。

 新今宮TICから見えるだけでも,ホテルやアパートの数が驚くほど多く,あんな光景を見たのは初めてでした。ホテルの屋上や非常階段は,普通の一般人ならば立ち入り禁止のところ。宿泊客が入る前の客室を見学者に見せるのも,普通ではありえません。松村先生がフロントのスタッフにひと声かけるだけで,それらがすんなりと実現するのは,きっと普段からの連携がしっかりしているからなのだと思いました。

 昼から行ったTENGEKIも面白く,あんな近くで漫才をライブで見るのは初めての経験でした。お客さんの数は決して多いとは言えませんでしたが,毎週公演を楽しみに足を運んでいる人もいるようで,このような場所がいつまでも無くならないで欲しいと強く思いました。

松村先生からひと言

 最近,大衆演劇にハマっています。色々な意味でとても面白い。ローカルな芸能・文化としての興味は尽きないし,大衆演劇の劇場の立地展開,劇場と地域との関係性,全国各地を旅してまわる劇団のライフスタイルなどなど,研究という観点から面白いテーマもあります。何よりも,入場料が安くて,見ていて飽きないし楽しいのがいい。近い将来,大衆演劇と絡んで何か論文でも書きそうな勢いです。

 西成区あいりん地域で根を張り活動し始めて,早や7年ほどが過ぎようとしていますが,大衆演劇の魅力を知ったのは,ここほんの数か月のこと。地域で活動する先輩方に尋ねても,「オーエス劇場の前はいつも通るが,入ったことは無いなあ…」という人がほとんどでした。改めて,「何でもみてやろう」という好奇心の大切さを感じています。

 今回のフィールドワークは,新入生にとって初めての体験でしたが,みんなよく頑張っていました。ただ漫然と体験するのではなく,意識してちゃんと観て記録してやろうという姿勢をつくるのが,フィールドワークの基本です。世の中には視界のなかに入るという意味で「見ていても」,気が付かず認識していないことが多々あります。主体的に「見ようとする」ことで,初めて「見えてくる」ことばかりです。普段の授業でも,通学途上でも,「見ている」に留まらず,意識して「見ようとする」よう心がけてください。