ゼミ3年生が日本観光研究学会ポスターセッションで発表

 11月28日、29日に群馬県の高崎経済大学において開催された日本観光研究学会研究大会において、塩路研究室の3年生2チームがポスターセッション発表を行いました。9月に実施したイギリスとオーストラリアへの調査旅行の成果をまとめたものです。それぞれ「イギリスの観光資源について:都市とカントリーサイド」と「オーストラリア観光における自然と文化:クィーンズランド州ケアンズの事例から」というタイトルで発表しました。今回は、その発表内容を学生が報告します。

コンテンツツーリズム 映画「ハリーポッター」
3年生 室島 奈央

 私たちは、9月にイギリスに行き、映画「ハリーポッター」の世界を体験できるワーナーブラザーズスタジオ・メイキングオブハリーポッターを訪れました。これはコンテンツツーリズムにあたります。コンテンツツーリズムとは、文化・芸術にまつわる土地を訪れる旅行を意味し、映画・小説・テレビ・漫画・アニメなどの舞台を巡る旅行の総称とされています。今回は、このイギリスのおけるコンテンツツーリズムについて、11月29日に日本観光研究学会でポスター発表した内容を報告します。
 映画「ハリーポッター」は、2001年から8本のシリーズで公開され、ロンドンをはじめ、イギリス各地にロケ地があります。例えば、オックスフォード大学のクライストチャーチ内の食堂、グロースターにある大聖堂、スコットランドのグレンフィナン高架橋などが有名です。それらのロケ地の観光収入は50%以上と言われています。「ハリーポッター」のロケ地は最近イギリスのガイドブックに必ずと言っていいほど掲載されていることからもイギリスの代表的な観光資源になっていることが分かります。
 ワーナーブラザーズスタジオ・メイキングオブハリーポッターは、ロンドン郊外に2012年3月31日にオープンしました。スタジオ内には実際に使われたあり、衣装、小道具、セット展示他にも体験コーナーやイートインコーナー、グッズ販売もありました。とくに印象に残っているのは、センサーのあるところに手をかざすと、台所の包丁が勝手に動いたり、洋服が揺れたりする仕組みになっているコーナーがあったり、有名な魔法学校への列車のホーム9と4分の3にカートが半分入っているセットと一緒に写真撮影も行えるところです。スタジオまではハリーポッターのラッピングバスが送迎してくれるので、ロンドンからバスに乗り込むだけでハリーポッターの世界まで行くことができます。スタジオ入り口すぐには主役3人の手形が展示されており、壁一面に多くの写真が飾られていました。
 最後に、ロンドンのスタジオやロケ地となった建物、駅はイギリスの都市の観光資源になっています。イギリスにおいて映画のロケ地をめぐるコンテンツツーリズムは、旅行目的の1つになっています。ハリーポッターは、シリーズが終わった今もなお人気があり、イギリス全土のロケ地は観光スポットとして定番化していることから、ハリーポッターのコンテンツは、イギリスにおいて重要な新しい観光資源になっていることがわかりました。

パブリック・フットパスについて 
3年生 元塚 友美

 11月29日に群馬県の高崎経済大学で開催された日本観光研究学会で、私たちは「イギリスの観光資源」について発表しました。私はその中でもパブリック・フットパス(フットパス)に焦点をあて、実際に歩いた経験をもとに説明しました。
 パブリック・フットパスとは、市民の公共の道の事です。イギリスは、ロンドンなどの都会のイメージが強く、常に急ぎ足で人が通り過ぎていくスピードのある生活をしています。しかし、人々にはその反対で昔から変わらないイギリスの景色が残るカントリーサイドでゆっくり時間を過ごす事を好む傾向があります。そのカントリーサイドの文化の1つとしてフットパスがあげられます。
 イギリスには、「コモンズ」と呼ばれるルールを定めて住民達が共同して使用する場所が存在していました。しかし、産業革命囲い込みにより、カントリーサイドで住民達が以前のように自由に歩き回る事が出来なくなりました。この事に疑問を抱いた住民達が反対運動を起こし、この運動が認められ、1932年に「歩く権利」が制定されたのです。この「歩く権利」制定後、国が定めた長距離のウォークングコースである「ナショナル・トレイル」だけで、イギリスには現在16本あり、その距離は4,000kmにもなります。 
 私達は、南西部のコッツウォルズのチッピング・カムデンと中部の湖水地方のウィンダミアの2ヵ所のフットパスを歩きました。コッツウォルズ地域の町チッピング・カムデンでは、このナショナル・トレイルの1つである「コッツウォルズ・ウェイ」の一部を歩きました。はちみつ色の屋根を通りすぎて、教会のところで脇からフットパスに入れます。見渡す限り続く広大な牧草地で、牛や羊も放牧されています。民家がすぐそばにあるために、犬の散歩など、地元住民の方が利用している事が多い印象でした。
 一方で、湖水地方の町ウィンダミアで歩いたフットパスは、ナショナル・トレイルではなく、一般のフットパスでした。入口は、駅の近くの道路に面した分かりやすい場所でした。フットパスだけでなく、山頂へと続く道もあり、入ってすぐに2つに分かれ道がありました。観光客は、ほとんど山頂へと向かう傾向がみられました。フットパスは、どちらかというと犬の散歩やジョギングなど地元住民が多く、観光客でもリピーターの人やフットパス目的できているような人が多いことが印象的でした。周りを美しい森に囲まれ、差し込む日光がとても気持ちよかったです。こちらは、コッツウォルズ地域と違い、道が狭く一本道となっていました。そのために、人とすれ違う頻度も多く、すれ違う度にお互い譲り合ったり、挨拶しあったりと人との交流ができる機会がありました。
 実際にフットパスを歩いてみると、ゆっくりと時間が過ぎていき、都会の生活とは違うイギリスの昔の街並みや景色を楽しむ事ができました。都会との最大の違いは、やはり人と接する機会が多いところであると思いました。日本では、人の畑や家の脇道を歩く事は少ないので、イギリスではとても緊張しながら、でもそこから見える普通の道から見えない景色を見る事ができました。カントリーサイドでは、中世には住民達が共同で生活する事が普通で、その共用地を通して住民同士の交流もしていただろうと思います。しかし、産業革命の囲い込みにより、今までの生活や交流、そして自由に歩き回る事ができなくなりました。実際に自分自身がフットパスを歩いてみて、美しいカントリーサイドの景色や住民の方達の人柄に触れてみて、その当時住民達が反対し、「歩く権利」を主張し続けた気持ちを理解する事ができました。

イギリスの食文化:伝統と革新
3年生 道江 樹里

 私たちは、9月にイギリスに調査旅行に行った成果として、11月末の日本観光研究学会で「イギリスの観光資源」についてポスターセッション発表を行いました。私は、その中でも、イギリスの食文化についてまとめました。今回は、その内容を報告します。
 イギリスの伝統的な朝食として知られているイングリッシュ・ブレックファーストは、卵料理やベーコン、ソーセージを乗せたトースト、ソーセージを挟んだトースト、焼きトマトにマッシュルームなどが、どの宿泊先の朝食にも出されていました。食事の時の飲み物は、紅茶やコーヒー、ホットチョコレートがありました。また、イギリスはサンドウィッチ発祥の地で、スーパーやコンビニでさまざまな種類のサンドウィッチと多くの量が置かれている印象がありました。日本のコンビニにたくさんのおにぎりが売ってあるのと同じように、イギリス人も昼食にサンドウィッチをよく食べるようです。
 昼食と夕食の間には、伝統的なアフタヌーンティーの時間があります。アフタヌーンティーには、紅茶とともにスコーンやケーキを食べます。イギリス人は1日に5回以上、紅茶を飲んでいるそうです。
 イギリスの有名な食事には、フィッシュアンドチップスやローストビーフがあります。フィッシュアンドチップスは、塩を軽くふり、モルトビネガーを多くかけるのが、イギリス流です。
 イギリスにも、日本でいう居酒屋、パブリック・ハウス(通称パブ)でアルコールや食事を楽しむ習慣があります。パブでは、アルコールや食事だけではなく、家族や親しい友人同士でフットボール観戦や音楽、ダーツなどのゲームなども楽しむことができます。人気のお酒は、地ビールやワイン、リンゴ酒です。最近、イギリスでは、国を代表するお酒として、リンゴ酒をアピールしているという印象を受けました。
 このような伝統的なイギリス料理に加えて、1990年代の「クール・ブリテン」の影響で、現代的で新しいイギリス料理も生まれました。それは、イギリスの食材を使いながら、イタリアやスペインなどの異国の要素を取り入れた洗練されていて独創的な料理「モダン・ブリティッシュ」です。モダン・ブリティッシュの料理は少々高いので、学生の私たちには食べることができませんでしたが、観光資源としてイギリスの食文化は伝統と革新の両方を備えているため、人々を惹きつけるのではないかと思いました。

オーストラリアの観光における先住民文化
3年生 宇根田 涼加

 私は、9月にオーストラリア・クィーンズランド州ケアンズの「ジャブカイ・アボリジニ・カルチャーパーク」を訪れ、今から5〜6万年前最初にオーストラリアに住み着いたといわれるアボリジニについて研究してきました。日本観光研究学会ではその成果をポスターセッションで発表したので報告します。
 アボリジニには、400〜500の部族があり、一夫多妻制で暮らしています。いまだに、すべてが解明されてはいないアボリジニですが、オーストラリアへやってきた説は、2つあります。1つめは、トレス海峡からアラフラ海(アジア方面)、オーストラリアへ渡ってきた説です。しかし、これは専門家によるといくら昔であっても海を渡るための船をつくる技術を持っていないアボリジニ達には困難であるという意見もあります。2つめは、人類がオーストラリアで発生した説です。ホモ・サピエンスではないのかという説もあるそうです。
 次に、アボリジニアートと音楽について説明します。アボリジニは、文字文化を持たない民族なので、陶器や石、壁に絵を描いて意思疎通を図っていました。それらの絵は、鮮やかなドット(点描)と記号のような幾何学的文様で描かれたものなどがあります。色は、黒、白、黄色、赤の4色があり土壌から採取していました。物々交換されることもあったそうです。音楽は、デジュリデューと呼ばれるアボリジニ独自の楽器や、鈴のようなものを用いて歌ったり踊ったりします。デジュリデューを演奏する際は、鼻から息を吸い、連続的に息を出し続ける呼吸法を使っていました。
 アボリジニの生活・狩り・食についても説明していきたいと思います。アボリジニ達は、30〜50の集団をつくり狩猟採集を行っており、農耕はまだ行われていませんでした。食料を求め放浪していました。狩りは、男性がブーメランなどでカンガルーその他の野生の動物を捕まえ、女性が小さくて捕らえるのが簡単な動物や魚、貝をとり、植物を採集するという役割分担がされていたそうです。
 最後に、私はこのカルチャーパークへ訪れてアボリジニボディーペイントや、ブーメランや火おこし体験をし、ダンスや演奏を聴きました。それらは私たちが想像した通りのステレオタイプ的な昔ながらのアボリジニの文化や生活、姿でした。昔のアボリジニ達を現代人(アボリジニではないようなスタッフ)が再現しているものであり、現在問題となっているアボリジニの減少、失われていく自然や変容している彼らの文化については触れられていませんでした。その意味で、このカルチャーパークの事例からは、オーストラリア観光におけるアボリジニ文化の提示には問題があり、カルチャーパークという観光施設に集客することで、単なる現金生成活動となっていることが分かりました。これらを改善し、現在、オーストラリアにおいてアボリジニが直面している問題をパークでも説明し、彼らの立場を守っていく取組みが必要だと思いました。