2024年度より、阪南大学経済学部では在籍教員の研究教育活動のより一層の進展をはかることを目的として、教員同士での研究会を実施しています。2月に第5回目の研究会が開催されましたので、報告者の西洋教授(2025年度より他大学に異動予定)より、報告内容について紹介してもらいます。

2024年度 第5回経済学部研究会

執筆者 経済学部 西 洋

 マクロ経済学と日本経済論を担当している西洋です。阪南大学に15年務めさせていただきましたがこの3月末で本学を退職します。今回2024年度経済学部研究会にて研究報告を行う機会をもらいましたので最近取り組んでいるTwin capital accumulation in a two-sector Kaleckian growth model(カレツキアン2部門成長モデルにおける民間・公的資本の二重蓄積)についてお話しました。
 研究報告では研究の本質をしっかりと説明することはもちろんですが当該研究分野の研究者しか分からない説明をしてもあんまり面白くないと考えました。また今回が私にとっての阪南大学での最後の報告機会となります。そこで本学での研究教育の集大成として私が経済学研究に関心をもったいきさつや最近の経済学の在り方に関して思っていることなど普段学会報告ではできないような雑談・雑感をたっぷりと交えた報告を行いました。
市場も政府もどちらも大事
 資本主義経済では、家計や企業といった民間部門が市場において財サービスの取引から所得や富(豊かさ)を生み出します。しかしながら、経済は市場や民間部門だけではうまく動きません。あわせて、政府部門による下支えが大事です。こうした民間部門と政府部門から構成される経済は伝統的に混合経済と呼ばれてきました。
 
■ 政府の役割
 経済学では一般に、公共財(公的資本を含めみんなが使えるみんなのもの)の提供、所得再分配(税や社会保障)、景気の安定化(景気対策)を政府の役割とみなします。なかでも、政府による公的資本の整備は、みんなが使えるものを、税を財源として実現し、それによって景気を支えるという重要な役割をもっています。私は公的資本を、ひろくは宇沢弘文のいう社会的共通資本の一部として捉え、市場経済のエフィシエンシーだけでなく、そのレジリエンスを高める役割をもつもの、民の生活の質を維持するために不可欠なものとして注目してきました。
 
■ 経済成長モデルのなかで公的資本を考える
 公的資本の蓄積は学派を問わず従来の成長モデルで多くの研究がなされてきました。しかしながら、それらは一部門集計モデルという枠組みで研究されています。一部門集計モデルとは、本学の基礎マクロ経済学やマクロ経済学1、2でも学ぶモデルですが、すべての財サービスを完全に同質なものとして扱うモデルです。これによって分かることも多いのですが、例えば、民間企業が所有する工場も、国が整備する道路も全く同じように生産されて、使われているというやや乱暴なものです。一部門集計モデルでは、民間部門の物的資本と政府部門の公的資本の生産、支出、所得分配に関する特徴や、それぞれの相互補完的な蓄積過程を正確に区別できないのです。
 
■ 部門をわけて考えると見えてくるもの
 そこで本研究では、民間部門と政府部門を明確に分けた二部門カレツキアンモデルを構築しました。企業が有する生産設備と政府が整備するみんなが使う資本(公的資本)は異なる素材、異なる生産方法、異なる役割を担うものとして捉えるモデルです(例えば、民間企業が所有する工場と、国が整備する道路とは違うと考えてください)。ちなみに、カレツキアンモデルとは、カレツキという経済学者に着想を受け発展したモデルであり、有効需要の原理と所得分配をリンクさせて経済活動を説明する点に特徴があります。
 これを用いて、民間資本と公的資本の蓄積が各部門の生産や経済全体の成長に与える影響を、解析的(数学をつかって)に、かつ数値的(シミュレーションをつかって)に明らかにしました。この結果、公的資本の蓄積は経済成長を加速させることが分かりました。かといって、民間資本の蓄積(生産設備を整備していくこと)を抑えて、公的資本だけ整備していけばよいというわけではありません。どちらかに偏った蓄積は市場経済で取引される財と公的資本の生産の効率性を低下させ、数量調整の限界をもたらします。また、これらの資本は一度整備すると元に戻せない不可逆性があります。したがって、持続的な成長と安定を両立させるには、公的資本と民間資本のバランスのよい蓄積を計画的に実現する必要があることが判明します。
 
■ おわりに
 阪南大学で私が担当した経済学専門科目では、研究の成果をできるだけ教育に還元することを念頭に授業を行ってきました。受講生に少しでも経済学の面白さや大切さを伝えられるよう努力してきました。本学での授業経験を生かして新天地でも精進します。
 

阪南大学経済学部【阪南経済NOW】