第43回研究フォーラムを開催しました
5月17日、渡辺 考氏(日本放送協会大型企画センター)を阪南大学あべのハルカスキャンパスにお招きして、研究フォーラムを開催し、学内外からの参加者がありました。「ドキュメンタリーの役割—マスメディアの社会的責任」と題して、制作の現場からみえてくる課題についてご講演いただきました。渡辺氏はこれまで、ETV特集やNHKスペシャルで、田中正造、大西巨人、韓国・朝鮮人BC級戦犯、東京電力福島第一原発爆破事故後の放射能汚染などを取りあげた、すぐれたドキュメンタリー番組を手がけてこられました。
まず、渡辺氏が制作された、NHKスペシャル「従軍作家たちの戦争」(2013年8月14日放送) http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20130814 を試聴しましたが、これは戦時中に従軍するなかで「兵隊三部作」で知られる小説を書いた、火野葦平の軌跡を追った作品です。そこには作家を戦争へと動員する軍部の情報作戦と、批判力を失っていくメディアの姿が描かれており、メディアの社会的責任を歴史的に検証した内容でした。
取材を重ねるなかで、火野が20冊に及ぶ「従軍手帳」に書いた戦争の「現実」と、小説で描く兵隊の姿との落差が明らかになりますが、戦争の暗黒面を書いてはならないとして表現に規制がかけられ、軍部批判ができない言論弾圧がその背景にありました。敗戦後、火野は戦時中の責任を問われて悩み、健康上の理由も加味して自殺します。番組では、「従軍手帳」を手にした作家・浅田次郎氏が、「どんなときでも言論表現の自由は保証されていなければならない」と述べていたのが印象的でした。その一方で、戦時中に従軍作家として活躍しながら、戦後もそのまま文壇の重鎮として無反省に小説を書き続けた作家が少なくないのも事実です。
後半は、「今だからこそ、テレビで歴史を見つめる」として、ドキュメンタリーの役割についてお話をしていただきました。渡辺氏は、次回作として取り組んでいる政治思想史学者・丸山真男に引きつけて、語られました。
敗戦直後、丸山は、日本社会の持つ一局面を「無責任の体系」(『現代政治の思想と行動』)と呼びましたが、彼が一貫して民主主義の重要性を説いたことについて、現在進行中の取材で気づいたことがあるそうです。東京大学で教鞭を執る丸山が、地方の「庶民大学」でも講師を務め、横につながることの重要さを一般市民に教えるとともに、丸山もそこで学びながら、「生きたシステム」としての草の根の民主化に関わっていたのです。「無責任の体系」を放置することなく、民主主義を多数派の暴力にしないため少数者の声に耳を傾ける「他者感覚」を重視する議論も、そうした関わりのなかから生まれたといえるでしょう。
こうした、火野や丸山たちをめぐる歴史証言を通して、私たちは何を受け取っていくべきか。歴史を検証することで、現在の社会のあり方や未来へ向けて社会の進む方向を、制作者とともに視聴者もまた考える——社会の「現実」を捉えるドキュメンタリーが果たす重要な役割なのだと思いました。
(文責 国際コミュニケーション学部教授・守屋 友江)
まず、渡辺氏が制作された、NHKスペシャル「従軍作家たちの戦争」(2013年8月14日放送) http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20130814 を試聴しましたが、これは戦時中に従軍するなかで「兵隊三部作」で知られる小説を書いた、火野葦平の軌跡を追った作品です。そこには作家を戦争へと動員する軍部の情報作戦と、批判力を失っていくメディアの姿が描かれており、メディアの社会的責任を歴史的に検証した内容でした。
取材を重ねるなかで、火野が20冊に及ぶ「従軍手帳」に書いた戦争の「現実」と、小説で描く兵隊の姿との落差が明らかになりますが、戦争の暗黒面を書いてはならないとして表現に規制がかけられ、軍部批判ができない言論弾圧がその背景にありました。敗戦後、火野は戦時中の責任を問われて悩み、健康上の理由も加味して自殺します。番組では、「従軍手帳」を手にした作家・浅田次郎氏が、「どんなときでも言論表現の自由は保証されていなければならない」と述べていたのが印象的でした。その一方で、戦時中に従軍作家として活躍しながら、戦後もそのまま文壇の重鎮として無反省に小説を書き続けた作家が少なくないのも事実です。
後半は、「今だからこそ、テレビで歴史を見つめる」として、ドキュメンタリーの役割についてお話をしていただきました。渡辺氏は、次回作として取り組んでいる政治思想史学者・丸山真男に引きつけて、語られました。
敗戦直後、丸山は、日本社会の持つ一局面を「無責任の体系」(『現代政治の思想と行動』)と呼びましたが、彼が一貫して民主主義の重要性を説いたことについて、現在進行中の取材で気づいたことがあるそうです。東京大学で教鞭を執る丸山が、地方の「庶民大学」でも講師を務め、横につながることの重要さを一般市民に教えるとともに、丸山もそこで学びながら、「生きたシステム」としての草の根の民主化に関わっていたのです。「無責任の体系」を放置することなく、民主主義を多数派の暴力にしないため少数者の声に耳を傾ける「他者感覚」を重視する議論も、そうした関わりのなかから生まれたといえるでしょう。
こうした、火野や丸山たちをめぐる歴史証言を通して、私たちは何を受け取っていくべきか。歴史を検証することで、現在の社会のあり方や未来へ向けて社会の進む方向を、制作者とともに視聴者もまた考える——社会の「現実」を捉えるドキュメンタリーが果たす重要な役割なのだと思いました。
(文責 国際コミュニケーション学部教授・守屋 友江)