2023年11月3日(金)大阪府庁新別館南館8階の大研修室において、公開講座フェスタの講義として、「世界遺産から考える文化と社会」と題した講演をしました。公開講座フェスタについては、以下の記事ご参照ください。

 私の研究分野の一つに「世界遺産教育」があります。世界遺産の歴史や文化的背景を踏まえ、その価値や意義をより良い未来社会の実現を目指すESD(持続可能な開発のための教育)の視点から、教育に生かすことを研究しているのです。この講演はそのような観点から、以下の構成でお話をしました。

主題:世界遺産から考える文化と社会

  -世界遺産は何を語りかけてくるのか-

  1.なぜ人は世界遺産に惹きつけられるのか
   ① 私の場合(自己紹介を兼ねる)
   ② 世界遺産の魅力
  2.世界遺産は私たちに何を語りかけてくるのか
   ① 世界遺産と文化
   ② 世界遺産と社会
 1①では、自己紹介を兼ね、私が生まれ育った奈良の「ならまち」が世界遺産「古都奈良の文化財」の構成資産である興福寺と元興寺に囲まれた場所であることや、私が前職で勤めた奈良県立法隆寺国際高等学校が斑鳩三塔(法隆寺・法輪寺・法起寺)を遠望できる恵まれた環境にあり世界遺産を学ぶ授業を私が担当したことから世界遺産の研究に取り組んだことなど、私の経歴と著作等についてお話をしました。

 1②では、世界遺産とESDの関係についてお話をする中で、私が取り組む世界遺産教育の位置付けやその展開、また世界遺産の「顕著な普遍的価値」に着目して世界遺産がもつ魅力についてお伝えしました。

 2①では、私が開発した世界遺産教育の教材「石の文化」と「木の文化」を用いながら、石の文化の象徴であるパルテノン神殿と木の文化の象徴として法隆寺を対比させながら、世界遺産と文化についてお話をしました。

  2②でも私が開発した「危機遺産」の教材を一部用い、パレスチナの世界遺産「エルサレム旧市街」が1982年から現在まで危機遺産リストに登録され続けていることから、パレスチナ問題との関連に言及するとともに、現在の危機遺産の分布図(赤いが文化遺産、青いが自然遺産)から中東や東欧に文化遺産の危機遺産が多く、アフリカに自然遺産の危機遺産が多いことを、世界遺産と社会の観点から説明しました。この危機遺産の現状から、現在のパレスチナではガザ地区での戦闘や、東欧ではウクライナへのロシアの軍事侵攻が世界遺産に危機をもたらしていることが想起されます。

 また、最後に「世界の世界遺産」として、近年私が現地を訪れたことで知ることができた世界遺産にまつわるお話をしました。

 天候が良い祝日であったことも幸いしたのか、40名弱の一般の方が参加してくださいました。また、その評価は概ね満足がいくものであったようで、安心しました。これまで、主に高校生や大学生に向けた話が中心でしたが、一般の方を中心とした講演でしたので、そのご感想も幅広いものがありました。
 ご質問いただいた、今後登録が見込まれる日本の世界遺産に関しては、世界遺産候補の直近の申請見込みではありませんが、個人的には長期にわたり暫定リストに登録されている「彦根城」が登録されることを期待している一方で、講演でお話した「顕著な普遍的価値」と関連させて、すでに世界遺産に登録されている「姫路城」との違いを日本の城郭建築物として示すことの難しさについて話をしました。
 また、私の話を「熱弁で良い」とおっしゃった方もおられた反面、「思い入れが強すぎる」とのご意見もありました。多少、気持ちが入りすぎたことは反省していますが、私は教育者として自分が面白いと思ったことを伝えようとしていますので、ご容赦いただければと思います。
 私の講演を参考に「奈良を訪れたくなった」や、「法隆寺をもう一度見てみたくなった」などのご意見をいただけたことは、私としては大変有難いご感想です。他にも、多くのご感想をありがとうございました。今後も、世界遺産教育に携わる者として、さらに研鑽に励みたいと考えています。