<半端ないプロローグ>

百貨店・ショッピングセンターについて研究を続ける池澤教授。EC販売が拡大する中で、モノを売るためのコツやネットに負けないために、店舗がするべき価値づくりなどをプロの目線で教えてもらった。

これからの店舗は、1点モノが鍵になる?

聞き手:前の記事ではブランド志向の方が増えているという話をお聞きしました。その他に、百貨店・小売業界の変化などあれば教えてもらえますか?

池澤:ECが発達した今、昔よりも百貨店やショッピングセンターでモノが確実に売れなくなってきています。その中で注目されている業種があるのですが、わかりますか?

聞き手:えぇ…なんでしょう。

池澤古着です。

聞き手:古着?

池澤:はい、古着店が躍進を遂げていますね。商業施設に店舗が増え、世界的にもマーケットが拡大傾向にあります。

聞き手:知りませんでした。

池澤:その裏には大量生産・大量消費の現代で「1点モノの価値」に魅力を感じる人が増えているからだと私は考えています。

聞き手:1点モノの魅力わかります!

池澤ほとんどのモノは時間が経つと価値は下がりますよね。けれど、ジーンズなどの古着は違います。逆にヴィンテージとして価値が跳ね上がる。わざと洗ったり、傷をつけたりした方が、高値で売れるなんて面白くないですか?

聞き手:言われてみれば…

池澤:私のゼミでも古着やジーンズなどを扱っていて、学生たちと「どんな服が」「どんな理由で」「高値で売られているのか」を繊維の産地に出向いたり、商業施設で実際にリサイクル雑貨を販売してみたりするなど現地調査も行っています。古着を通して学生たちには、商品価値とは何なのか、どんなところに人は価値を見出すのかを考え、実感してもらえたらと思っていますね。

言い訳があれば、モノは売れる。

聞き手:先ほどリサイクル雑貨の販売を学生たちとされているとお聞きしましたが、元百貨店業界にいた先生だからこそ知る、モノを売るコツなどあるのですか?

池澤:もちろん、ありますよ。

聞き手:教えてください!

池澤コツは「言い訳」です。

聞き手:言い訳?

池澤:どうしても高価なものを買うとき「買っていいのかな?どうしようかな?」と誰でも悩みますよね。そのときに、こういう商品だから買った!と言い訳を用意して上げることで、お客様は購入しやすくなります。

聞き手:購入を納得できる理由を、伝えてあげるということですか?

池澤:そういうことです。そのために必要なのがお客様から情報を聞き出す力です。今日はどうして買い物に来られたのか、どんな商品を探されているのか、一人ひとりバックボーンは異なりますからね。

聞き手:お客さんの状況を知らないとオススメもできない…

池澤:その通り。お客様との会話の中で、管理職就任の記念に来られたことがわかるとするでしょ、それだけでもトークの仕方、商品の薦め方は変わってきます。

聞き手:先生ならどんな話をされるのですか?

池澤:例えば、全国で20着しかないスーツを薦めるとして「20着しかないので商談先でも、話のネタとしてお話いただけると思いますよ」など相手の立場に立った接客を心掛けると思います。

聞き手:すごい、そう言われると買いたくなります!

池澤:あとは「希少な織機で織られた生地が使われている」や「この服のデザイナーは〇〇で…」など生産背景をしっかりと伝えてあげることで、商品の付加価値が高まり、購入につながったりもしますね。

これからの小売業が、生き残るために。

聞き手:これまで百貨店・小売業界の過去・現在をお聞きしました。ちなみに未来はどうなると思われますか?

池澤:これからはデジタルと闘わざるを得ません。そう考えたときにキーワードになるのが「体験」だと思います。

聞き手:リアル店舗だからこそできる体験ですか?

池澤:まさしくそうです。モノを買いに行くだけの百貨店・ショッピングセンターからの脱却が重要です。例えば、東京新宿にある東急歌舞伎町タワーではほとんど物販をしていません。館内には映画館、ゲームセンター、居酒屋横丁が広がり、体験がメインの商業施設です。フードホールは朝の5時まで営業しているので常に賑わっています。

聞き手:これまでの商業施設像とは異なりますね。

池澤:そうですね。あとは、ファンサイトマーケティングに特化した商業施設も増えると思われます。

聞き手:ファンサイトマーケティングに特化した商業施設?

池澤:一例を挙げるとすると、商業施設内に声優のライブが開催できるホールがあり、ライブ後には施設内で限定グッズの購入ができ、最後に今日の感想を友達と話し合いながらご飯を食べられるフードホールもあるなど、体験×物販が一体となった施設のことです。音楽、演劇、スポーツなど熱狂体験の中に大きな消費がうまれます。

聞き手:まさにデジタルではできない体験ですね。

池澤:デジタルと共存していくと同時に、デジタルではできない体験を提供しない限り、リアル店舗の未来はないのではないかと私は考えていますね。

聞き手:半端ないお話の数々、ありがとうございました。