一般社団法人まつばら阪南大学スポーツクラブの概要と特徴:前半

クラブのフィロソフィー

クラブの育成計画

 次に重要になるのが、中長期的な視点に立ってアスリートやスポーツ愛好者を育てるための育成計画です(資料2)。これは、2005年にカナダで刊行された「Canadian Sports for Life」に掲載されている「Long-Term Athlete Development」(以下、LTAD)を参考にして作成しました(資料3)。
 我々の育成計画はLTADと同様に7つのステージで構成されています。ステージ1では0歳から小学校に入学する前の子どもを対象にして、さまざまな運動遊びをする機会を提供します。ステージ2の対象は小学校の低学年で、ステージ1と同様に運動遊びも楽しみながら、各種スポーツで求められる多様な動作スキルの獲得を目指します。この時期にいろいろな運動経験を積んでおくと、ステージ3以降で複数のスポーツを楽しめる子どもに成長している可能性が高くなります。

本学で毎年開催している「まつばら阪南のびのびあそびフェスティバル」では、この世代の子どもたちが自由に遊びを楽しめる機会を提供してきました(資料4)。なかでも是非紹介しておきたいのが「コマなし自転車教室」です(大阪では補助輪なし自転車のことを「コマなし自転車」と呼びます!)。この教室では、『へんしんバイク』(販売:株式会社ビタミンファクトリー)を使って、まずはペダルをつけずキックだけで進みながら、自転車に乗るためのバランス感覚を掴んでもらいます(資料5)。それから、バイクにペダルをつけてコマなし自転車に変身させて、ペダルをこぐ練習をして足の動かし方を学びます(資料6)。

ペダルに慣れてきた頃合いで自走してもらうと、(個人差はありますが)だいたい10分から20分程度でコマなし自転車に乗れるようになります(資料7)。2022年11月には、69名の子どもが参加してくれました。6, 7割がコマなし自転車に乗れない子どもでしたが、そのうちの8割程度が自転車に乗れるようになり、子どもも保護者も手伝った学生もみんなで喜びを共有できる教室になりました。

フィジカルリテラシーの醸成

 このように、子どもたちの「できた!」が成功体験となって、その後の運動継続に大きな影響を与える有能感や自信、動機付けが高まります。自転車に乗るという身体的なスキルの獲得と合わせて心理面の成長にも着目しているのがカナダのLTADの特徴のひとつで、この重要性をフィジカルリテラシーという概念を使って説明しています。定義を日本語で簡潔に訳すと「生涯を通じて運動・スポーツを楽しむための身体的・心理的な素養」となります。

 カナダでは、はじめの3つのステージでフィジカルリテラシーを養うことに重点が置かれていますが、その後も継続的にリテラシーを向上させることが競技スポーツの発展と生涯スポーツの普及につながると考えられています。

 本クラブでも、小学生高学年を対象としたステージ3までは、このフィジカルリテラシーの醸成を最重要課題のひとつとして、子どもの年齢や成熟度に合わせた運動機会の提供およびコーチングをしていきます。特に小学校4年生くらいからはひとつの競技に専門化するのではなく、1年を通してさまざまなスポーツが経験できる仕組みを構築して、子どもにたくさんの「できた!」を経験してもらいたいと考えています。