経営情報学部・山内孝幸研究室が取り組んでいる大阪船場の活性化プロジェクト。その企画のひとつ「日本茶でおもてなし」プロジェクトが、今年も秋晴れの休日に開催されました。次々と企画を形にしていく山内ゼミのマーケティング活動。大きく前進を遂げる活動の様子をご紹介します。

今年も大盛況!日本茶でおもてなし

 朝10時。開店と同時に続々とお客様が入ってきます。赤い毛氈と番傘を設えたお茶席はアッという間に満席。15分もしないうちに行列ができました。お盆を器用に運ぶ男子。抹茶の泡立てを手ほどきする女子。誰もがひと息つく間もないほどの盛況ぶりです。

「いらっしゃいませ!どうぞおかけになってください」
「お茶は三種類ご用意しているんですよ」



 10月4日、5日の2日間、船場まつりが今年も行われました。会場は船場を東西に貫く長さ1キロの「船場センタービル」。船場のシンボルとも言えるこの場所で、山内ゼミは昨年に引き続き、「日本茶でおもてなし」イベントを開催。秋の恒例行事に大きな花を添えます。

商業の街・船場の活性化に取り組む

 マーケティングを専門とする山内ゼミでは、昨年から船場の商工会と連携。商都大阪の歴史拠点である船場の活性化プロジェクトに取り組んでいます。今回のイベント開催は、その数ある企画のひとつです。昨年1,000人もの来場者を数えたこの「日本茶でおもてなし」イベントは、古くから船場で重要なコミュニケーションの道具となってきた日本茶の良さをもう一度広く知ってもらおう。そんな主旨で企画されたものです。
 単にお茶を出すのではなく、参加者に自らお茶を淹れる体験をしていただく。お茶を通して会話を楽しみ交流を深め、憩いの時間を提供したい。そんなコンセプトで始まりました。昨年、活動の様子が新聞に取り上げられ、好評を博したこともあり、今年も船場商工会からの依頼で山内ゼミ2、3、4回生総出で開催することになったのです。

「お抹茶、煎茶、棒茶の三種類ありますが、どれになさいますか?」
「へぇー、棒茶ってどういうお茶なの?」
「石川県でよく飲まれるお茶なんですが、ほうじ茶の一種で、茶葉の茎の部分だけを使っているんです。普通のほうじ茶に比べて香ばしく甘味もあるんですよ」

 飲んでいただくのは、抹茶、煎茶、加賀棒茶の三種類。学生たちは、この日のために日本茶の専門家から事前講習を受け、三種の淹れ方を詳しく学んでいます。

「まず抹茶を少量の水で練ります。こうやってペースト状にしてからお湯を注ぐと、ダマが残らず、飲みやすくなるんですよ」
「えっ、そうなの? 私、茶道をやっていたけど、最初に水で粉を練るとは習わんかったわ!」
「正式なお点前とは違いますが、こうした方が家庭では美味しく飲めるんですよ。どうぞやってみてください」

 様々な年代の方が訪れる船場まつり。お茶を通して初めてのお客様とも会話が弾みます。

地元・松原の製茶メーカーとコラボレーション

 「お水で簡単にできる水出し番茶、いかがですか?」
 「暑い日なんか、スグに冷茶ができるので便利ですよ」
 「使っているのは、100パーセント国産の茶葉です」

 今年はお茶のサービスだけでなく、新たに販売にも挑戦しました。売るのは、大学がある松原市の製茶メーカー、株式会社宇治森徳の商品です。

「7月に研究室の活動が産経新聞に取り上げられたのですが、その記事をご覧になった宇治森徳さんが研究室を訪ねて来られたんです。近くの大学でこういったマーケティング活動をしているということを知り、何か共同でできないかと相談をいただきました」(山内教授)

 お茶が取りもつ縁で、またひとつ新たなプロジェクトが始まった山内ゼミ。手始めの活動として船場まつりで商品販売に挑戦することになったのです。2日間で水出し番茶100袋を売り切る。これが目標です。

 ところが開店早々、予想外の事態に……。
 行き交うお客様に元気よく声をかけますが、一向に足を止めてもらえない。ただ物を見せるだけでは、まったく興味を示してもらえません。学生たちはすぐに行動。急遽、近くの100円ショップへ走り、冷茶用のボトルを購入。水だし番茶を実際に作ります。それをカップに注いで試飲をしてもらうことにしました。

 試飲用のお茶を薦めてみると、足を止めてくれる方もチラホラ。素通りしていた人も次第に興味を持ってくださる。ようやくお茶が売れ始めたのです。

「実際に口にするものですから、味がわからないとまったく売れないと分かりました。スーパーでよく試食販売をしていますが、あの意味がようやくわかりました」(4回生 吉川祐生子さん)




 大半の学生にとって対面販売で物を売るのはこの日が初めてです。しかし、声をかけ、お客様と話しをしていくうちに、次第に打ち解けていく。だんだん接客のコツがわかってくる。

 何事も現場で実際にやってみる。失敗も恐れない。行動の中から智恵をつかんで血肉にしていく。山内ゼミがモットーとする「現場主義」がここにあります。

次なるステップは、オリジナル日本茶の開発

 実はこの宇治森徳さんとは、現在、商品開発のプロジェクトも進行中です。他のメーカーにはない独自のコンセプトを持ち、日本茶市場を拡大できるような商品を学生の手で生み出していきたい。そんな狙いで新たな共同作業が始動しています。

「紅茶は産地や種別、香り、味わいで細かく種類が分かれていますが、日本茶にもそういった手法が取り入れられないかと模索しています。コンセプトで味わう日本茶です。最初は農家との連携も考えていたのですが、地元の企業と連携できるのならそれに越したことはない。地域の活性化にも繋がりますし、松原発の新しいスタイルの日本茶を作っていきたいと考えています」(山内教授)

 2015年の商品化を目指して、こちらも学生主体のプロジェクトが同時に進行しています。

三休橋筋「まちなか楽校」の実現に向けて

 昨年から船場の商工会と連携して共同研究を進めている山内研究室では、この4月に新たな活性化策のプレゼンテーションを行いました。(記事はこちら)そこで動き出したのが、「まちなか楽校」というプラン。これは山形県で実際に行われている地域活性化策で、街の小売店、飲食店が店舗を学校に見立て、セミナーや講座を開催するものです。そのアイデアを船場にも応用ができないか。そう提案したところ、名乗りをあげたのが船場の一角にある三休橋筋でした。

 三休橋筋は、大阪のメインストリート御堂筋と堺筋のちょうど真ん中。近代建築が点在し、大阪でも歴史のある商店街のひとつです。昨年、電柱を地下に埋設し、この春にはガス燈を設置。おしゃれな街並みに生まれ変わった、この商店街を更に盛り上げようと、「まちなか楽校」のプロジェクトを山内研究室と一緒に進めていくことになりました。

「三休橋筋はレストランや老舗小売り店が多い場所です。それぞれの店でどういった講座が開催できるのか。学生にプランを考えさせ、企画書を作成してもらいます。その上で営業ツールを作って、実際に店へ営業に行かせる予定です。各グループには営業のノルマも設定します。プロの営業マンと同じように動いてもらいます」(山内教授)

 関西一円の様々な企業と活動を行ってきた山内研究室ですが、これまでは市場調査やマーケティングプランの提案が主体でした。しかし、いよいよ次のフェーズに入ります。企画を実行し、確固たる実績を出していく。それがこれからのミッションです。

 11月には3回生がチームを編成。「まちなか楽校」で成功を収めている宮城県仙台市でフィールドワークを行い、来年2月、三休橋筋で船場スタイルの新たな「まちなか楽校」を始める予定です。

昨年の1.5倍の来場者に満足

 船場まつりの「日本茶でおもてなし」イベント。初日は午後4時終了の予定でしたが、予想をはるかに上回る来場者に学生は大わらわ。3時にはすべての茶菓子、水が無くなるという予想外の事態に。

「おいしかったですと言っていただけると本当にうれしいです。立ちっぱなしでしたけど、疲れはないです」
「物を売るのは初めてでしたが、自分の言葉で買ってもらえた瞬間は、ヤッター!という感じで、気持ちよかったですね」

 朝からずっと立ちっぱなしで動き回ってきたゼミ生たちも、疲れた様子も見せずに後片付けに駆け回っていました。

 2日間で約1,500人の方に来場いただいた「日本茶でおもてなし」イベント。昨年の1.5倍の成果に学生も大満足です。これから佳境に入っていく山内ゼミと船場のコラボレーション。大きく花を咲かせるため、学生たちはこの秋、さらに忙しい日々を過ごすことになります。

学生の感想

子どもが夢中になってくれたのが何よりの喜びです

2回生 高井 優さん

 お茶を点てるのは生まれて初めての経験でした。事前講習会で学んだ情報をお客様との会話にさりげなく交えると、喜んでいただけました。例えば、煎茶は一杯目はストレス解消、二杯目は血流を良くする、というように効果が違うんです。そういったことをお話しすると、よく知っているなあ、と誉めてくださる。

 中でも一番嬉しかったのは、小さなお子さんが夢中になってお茶を点ててくれたことです。
抹茶を飲むのはまったく初めてというお子さんがほとんどでした。苦くてイヤかな、飲めないかなと思っていたのですが、みんな一生懸命になってくれる。親子でこういう体験をする場所ってあまりないように思うので、そういう機会を提供できたのは本当に良かったと思います。

 僕は実家が民宿を経営しています。子どもの頃から手伝っていたこともあり、接客は好きなんです。今回はいろんな年代の方とお話しすることができて、面白かったです。

 山内ゼミは学外に出ての現場実習が多くて退屈しません。学生の人気も高く、今年は60人が希望したのですが、実際にゼミに入れたのは30人だけです。自分たちで調査したりいろんな企画を立てて活動していく中で、自然と助け合っていく。そういう雰囲気も好きです。

どこかホッと和む、それが船場の街の良さです

3回生 壬生 茜さん

 普段、家でお茶を飲むときもティーバッグを使ってばかりで、急須でお茶を淹れることが新鮮でした。講習を受けて、お茶の種類の違いや、蒸らし方で味がまったく違うなど、いろんなことを習いました。その中で、ほうじ茶の美味しさに気づいたりと、自分自身でも発見がありました。
 私は奈良出身なので大阪のことはあまり知らなかったのですが、2回生の時に船場のフィールドワークに参加して、大阪の街にも古くて懐かしいエリアがあるのだと初めて知りました。松屋町にお菓子問屋があったり、船場にも老舗が多い。ホッとできる感じが良いですね。
 今回のイベントでは、普段あまり話す機会のない年配の方々とじっくりお話しできたのが、私としては収穫でした。以前、この船場センタービルに務めていたという方もいらして、船場の昔話を教えていただきました。

遊ぶ時には遊ぶ 勉強するときは徹底的に勉強する

4回生 吉川 祐生子さん

 船場は場所柄、年配のお客様が多く、大学では接することのできない方たちとお話しでき、大きな経験になったと思います。お茶を飲んだ後、満面の笑みで「ありがとう!」と言ってくださる方もいらして、あぁ、やって良かったなあと感じました。
 学生が地域の活性化に関わらせていただいているので、これからは、どんどん若い人にも船場に足を運んでもらえるイベントや企画を実現していければと思います。昨年、私たちのチームが山形でフィールドワークをして、プランとして提案した「まちなか楽校」の企画が、いま船場で進んでいます。4回生なので、これからの実行化に関われないのは少し残念ですが、後輩達が受け継いで、きっと面白いものを形にしてくれると楽しみにしています。

 山内ゼミは、遊ぶ時には遊ぶ 勉強するときは徹底的に勉強する。これがモットーです。メリハリがあります。こういうイベントなど、盛り上がるときはとことん盛り上がります。そこがいいところです。

提案が次々と形になっていく2014年  山内孝幸 教授

 これまで様々な企業や自治体と連携して、マーケティング活動を行ってきました。これまでは調査をした上での企画提案がメインでしたが、いよいよ次のフェーズに移ってきたと実感しています。
 この船場活性化プロジェクトでも、三休橋筋商工組合とのコラボレーションで、「まちなか楽校」の開催にこぎ着けたいですし、「まちの駅」のプランも進んでいます。これは街の案内拠点を置いて、観光案内や休憩、情報収集などの活動拠点を作る計画です。大阪府ではまだ一軒もないので、船場にできれば、大きな広報宣伝にもなると思っています。



 今まで提案してきたことが、ここへ来て一気に形になっている。そんな状態で、私も学生たちも毎日が大変ですが、ぜひとも実現にこぎ着けたい。学生は実際にこういった活動をすると成長の度合いが違います。現場主義を貫く山内ゼミ。これから来年にかけて、さらに忙しくなると思います。