【連載講座】日本の2大テーマパークのマーケティング戦略

その3 サービスマーケティング

 今回(その3)では、“マーケティング”というものについて考えたいと思います。“マーケティング”は、20世紀初頭にアメリカで生まれた学問で、英語で表せばMARKETINGとなります。実は、この単語はMARKET+INGとなって造語になります。MARKETは“市場(名詞)”“市場で売る(動詞)”という意味で、その中の“市場”とは顧客や消費者のことを指しています。そして、INGはその動詞を動名詞化したものと考えられますが、ここでは敢えて“活動”と訳しておきましょう。そうするとMARKET+INGは“市場で売る+活動”となります。つまり、“マーケティング”とは企業が市場である顧客や消費者に自分たちが作った製品を売るために何を考え、実行していけば良いのか、という売るために必要な総合的な企業の仕組みとなります。
 こうしたマーケティングが生まれた背景には、20世紀初頭のアメリカで巨大な市場が誕生したことがあります。コラム その2で話したように、アメリカは17世紀頃から20世紀にかけて多くの、多様な国の人々を受け入れ、その結果、爆発的に人口が増えました。それと同時に、モノを作る製造業(企業)が生産能力を増大させ、大量生産体制を確立させるようにもなりました。つまり、モノを買ってくれる人たちが増えたと同時に、モノが大量に生産され、街にモノが大量に出回るようになったのです。
 そうなってくると企業は2つの意味で大変になってきます。1つ目は、モノを買ってくれる人が沢山いるのだから、ドンドン作らなければいけません。2つ目は、モノを作っているのは自分の会社だけではないということ、つまりライバルが出現するのです。誰だってライバルが出現すれば、勝ちたいと思いますよね。企業の社長であれば、なおのこと「ライバル企業よりも良い製品を作って顧客に喜んでもらいたい」「ライバル企業と違う製品を作って、売り上げをもっと伸ばしたい」と思うでしょう。これらのように他(ライバル)と“違う”“良い”を作り出すことを“差別化”と言いますが、差別化を考え・実行するのがマーケティングだと言えます。

 さて、ここまで説明してきたマーケティングは、クルマやテレビといった形あるモノ(有形財)のマーケティングです。形があるモノだからこそ、“形を変える”“味を変える”“性能を良くする”といった方法で差別化をすることができます。しかし、世の中には形のないモノがあります。その代表が“サービス”です。例えば、タクシーが提供しているものは、お客さんをクルマに乗せて運ぶというサービスであって、クルマそのものではありません。ホテルも建物はありますが、提供しているものは宿泊というサービスです。そして、こうしたサービのような形の無いモノを無形財と言います。そこから言えば、このコラムのテーマであるTDRやUSJといったテーマパークについても、テーマパークという場所や建物はありますが、顧客に提供しているモノは楽しい体験という“サービス”ということになりますね。

 こうしたサービスといった無形財は、形のあるモノ(有形財)と何が違うのでしょうか?その特徴は、「無形性」「不可分性」「変動性」「消滅性」の4つあります。1つ目の「無形性」とは、サービスのように形が無いので購入する前に見ることも、味わうことも、触ることもできないということです。2つ目の「不可分性」とは、サービスを提供する人と受ける人の両方が同じ時・同じ場所に居ないと取引ができないことです。例えば、ホテルに宿泊するというサービスは、サービスを提供するホテルの部屋があって、そこに宿泊を希望するお客さんが居て初めて成立しますよね。3つ目の「変動性」とは、サービスの品質は“誰が”“いつ”“どこで”提供するかによって異なるということです。例えば、リッツカールトンホテルの同じフロント担当でもAさんから受けるサービスの品質とBさんから受けるサービスは全く同じではないということです。また、同じリッツカールトンホテルでも東京と大阪では、品質は同じように見えてやはり若干異なります。4つ目の「消滅性」とは、サービスは在庫しておくことができないということです。例えば、有形財であればたくさん作って在庫しておくことができますが、ホテルの部屋が月曜日の夜に2部屋空いているからといって、その2部屋分を在庫しておいて、お客さんが混む土曜日の夜に提供することは不可能ですよね。
 そして、これら4つの特徴をよく考えれば、一つのことが浮かび上がってきます。それは、『標準化が難しい』ということです。つまり、有形財であればその特性から全く同じ形や品質のモノを作ることは可能ですが、サービスの持つ4つの特徴を考えれば、サービスで全く同じ形や品質のモノを提供することは非常に難しいと言えるのです。確かに、サービス産業でも“マニュアル”があって、外資系のハンバーガーチェーン店等でも積極的に取り入れられています。しかし、これもサービスを提供するやり方のように形式的な部分を標準化することはできますが、“おもてなしの心”のように、サービスの本質的な部分は難しいと言えます。
 では、このように標準化が難しいサービスですが、ディズニーランドやユニバーサル・スタジオのようにアメリカからやってきたテーマパークでは、一体どうやって海外からサービスを持ってきて、どのように私たちに提供しているのでしょうか?次回からは、グローバルマーケティングという点について話したいと思います。