宿泊客の増加に向け、出雲でフィールドワークを行いました(1)

松江市と比較して、出雲市の魅力や課題を探りました

 今年度の森重ゼミ3回生は、島根県出雲市を調査場所に選定しました。出雲市といえば「出雲大社」で知られていますが、昨年度は60年に一度の遷宮ということもあり、約800万人が出雲大社を訪れました。出雲市は県庁所在地の松江市に比べ、観光入込客数が多いにもかかわらず、宿泊客数は松江市よりも少ないという状況にあります。
 前期授業では、出雲市の宿泊客数を増やすにはどのような取り組みが必要であるかについて、主に文献資料などで調査を進めてきました。これらをもとに現状を視察するため、9月16日(火)から4日間、出雲市や松江市をフィールドワークしました。これから3回に分けて、フィールドワークで得たことを学生がレポートします。1回目の今回は、松江市内の観光資源の調査結果を中心に報告します。(森重昌之)

フィールドワークの様子

  • 美保神社でガイドさんと

  • 八重垣神社・鏡の池の良縁占いの様子

  • 宍道湖畔にて

参加したゼミ生の報告

美保関の観光まちづくりと新しい提案
 国際観光学部3年 谷口真帆

 私たちのゼミでは、出雲市の宿泊客数を増やすための解決方法について考えています。なぜこの研究テーマにしたのかというと、出雲市には出雲大社というとても有名な観光資源があります。しかし、現在の観光客の動向は、昼間に出雲大社を参拝し、夜は玉造温泉のある松江市に宿泊してしまうという現状です。出雲市にも民宿やホテルがあるのに、なぜ宿泊客が少ないのか、出雲市には出雲大社しか観光資源がないのかなど、出雲市の現状を知り、新しい観光資源を見つけるため、今回私たちは9月16日〜19日まで、3泊4日の現地調査を行いました。
 9月16日に島根県に現地入りし、私たちが最初に向かったのが、「出雲神話語り部の里」です。ここは島根半島の突端の松江市美保関町にあります。美保関は出雲國風土記の冒頭に「国の大体は震を首とし(文明は東から始まった)」と書かれる東の地であり、国引き、国造り、国譲りのさまざまな神話の舞台となった地です。その美保関の神話を、語り部の方が映像を交えた解説と神社などのガイドをしてくださるのが、出雲神話語り部の里です。
 初級と中級、上級があり、私たちは初級コースを受講しました。まず座学で、出雲神話とは何か、出雲神話と美保関についての解説を30分ほど室内で聞き、その後語り部とともに美保神社を参拝しました。鳥居の真ん中は神様の通り道だから端の方をくぐることや、正しいお清めの方法、祀られている神様の性別の見分け方についてなど、初歩的ですが、私たちが知らないことを教えていただきました。
 次に、美保神社のすぐそばにある青石畳通りを散策しました。青石畳は水を吸うと青みを帯びる石で、狭い道幅の長さ250メートルほどの通りですが、完成まで100年もかかったそうです。風情ある建物が並んでおり、建物と建物の間の漁師たちが利用する細い通路(あまのみち)から海が見えたりするなど、落ち着きのあるとてもステキな通りでした。2006年2月には、未来に残したい漁港漁村の歴史文化財産百選に認定されたそうです。
 また、住民の方に聞いたところ、美保神社には観光客が来るが、青石畳通りまではなかなか足を運んでもらえないそうです。出雲市の宿泊客数を増やすという私たちの研究テーマからは外れますが、美保関町の観光まちづくりもおもしろそうだと思いました。
 ちなみに、昼食をいただいたお店が私たちのOBの方の実家だったそうで、初日から「ご縁」を感じました。今回のフィールドワークで出雲神話についてたくさん学んできたので、神話とつなげた提案をこれから考えていきたいと思います。

出雲市内で宿泊数を伸ばしていくためには
 国際観光学部3年 谷下一史

 私たちは島根でフィールドワークを行いましたが、私は出雲市と松江市の周辺について報告します。まず、私たちが松江市や出雲市をフィールドワークした理由は、出雲大社が観光地として有名ですが、宿泊数が少ないので、出雲市や松江市では現状どのようになっているのかを調べたかったからです。
 まず、松江市は駅の周りにビジネスホテルがたくさんありました。観光客が泊まるというより、ビジネスマンが泊まるような印象を受けました。しかし、ビジネスホテルが多いだけで、他は特に何も感じませんでした。一方、松江城には観光客が結構来ていました。最初に思っていたイメージよりも、観光客が多かったです。また、若い観光客よりも年配の方々が多く訪れていました。どこから松江城がきれいに見えるかといったマップも用意されていて、観光客にも優しい配慮がなされていました。遊覧船も観光客で賑わっており、こちらも年配の方々が多く利用されていました。
 出雲市内は、ビジネスホテルよりも旅館が多いように思いました。松江市とはまた違った雰囲気がしました。出雲市内を歩いていて、宿泊施設はある程度整っていると思いました。しかし、観光客に出雲市で泊まっていただけるような宣伝は不十分なように感じました。
 2つの都市をフィールドワークして私が思ったことは、観光客に対してうまくPRできていないようにおもいました。私は今回、玉造温泉など温泉街の調査には参加していませんが、観光客は出雲市内で泊まるより、温泉街の方に流れているのではないかと感じました。松江市には松江城があるのだから、松江城と一緒にもっと観光客に魅力のある松江市をPRすることが大事だと思います。出雲市も同様で、出雲大社という立派な観光客を引きつける資源があるので、積極的に利用できるようにしていくべきだと思います。出雲観光協会の聞き取り調査によると、「旅館の方々があまり観光客を自分たちの旅館に引きつけようとしていない」ということでしたので、旅館自身ももっと観光客を呼ぶためにPRしていくことが大事だと思いました。
 また、インバウンドも増やしていくことも重要です。私が訪れた印象では、まだまだ足りていないと思いました。出雲観光協会の方は、まだそこまで力に入れていないとおっしゃっていましたが、私はグローバルに考えていくべきだと思います。すぐに今までのやり方から変えることは難しいですが、観光資源を活かし、観光客に出雲市内で泊まっていただけるようにしていくことが、このフィールドワークを通して考えていかなければならないことと、改めて思いました。

魅力あるまちをより良くしていくには
 国際観光学部3年 菅野樹彦

 今回、なぜ玉造温泉と宍道湖を訪れるきっかけになったのかというと、島根県は神話のまちとして有名で、玉造温泉は今から約1300年前に発見された出湯が、神話の時代に大国主命とともに国造りをした少彦名命が見つけた神話に馴染みのある温泉であるからです。また、宍道湖は国引き神話ゆかりの地の中に含まれており、夕日のスポット、シジミなど松江を代表する食、そして観光地として有名であるからです。
 実際に玉造温泉と宍道湖を訪れてみて、良い点から言うと、玉造温泉は足湯が無料で入ることができる場所があり、観光者向けに駐車場やトイレなどが完備されていました。一方、宍道湖は夕日スポット周辺に無料で自動車を停めることができる駐車場が完備され、宍道湖周辺の公園で写真の撮影ができる点もありました。逆に悪い点を述べると、玉造温泉に行くまで自動車でアクセスする際に、標識が少なくてわかりくにい、お土産店などお金を落とす施設が少ない、観光客数が少なく温泉地としての活気にやや欠けるなどが見られました。一方、宍道湖は夕日のイメージが強く、昼間のイベントに何があるのかが足を運んだだけではわからない点があげられます。
 これらの問題点を踏まえて、玉造温泉周辺の課題は観光客をもっと誘致する取り組みを今までに以上にすべきではないかと思いました。旅行会社では、玉造温泉を入れたツアーなどが販売されているのをよく見かけますが、実際のところ時期にもよるかもしれませんが、閑散期に観光客を集めるイベント企画を考えていく点が課題の1つになるのではないかと思います。宍道湖周辺は施設整備や維持が課題になるのではないかと思います。また、宍道湖は夕日が見られる確率がとても低く、空気が綺麗で、そして天候が良い時にしか見られないので、夕日の貴重さをうまく取り入れたPR戦略を考えることなどがあげられます。これらの課題を解決していくには、観光協会や地域の人びと、旅行会社や観光を学んでいる学生など、さまざまな意見が必要となってくるのではないかと思います。
 今回の島根フィールドワークの中で、玉造温泉と宍道湖に焦点を置いて調べた結果、島根県全土の中でもこの2つの場所が観光客を今まで以上に集客する見込みがあると感じました。島根県に観光客を集客するには旅行会社にはない学生目線で考えた旅のプランを考えて、島根県に学生などの若年層を呼び込みたいと思います。そして、フェイスブック、ツイッターなどのSNSで情報配信などを、ゼミ生でページをつくって運営していくなどの取り組みができたらよいと考えます。それらを行うことにより、地域の活性化につながるのではないかと思います。

出雲の滞在時間増加につなげるために、勾玉づくり体験を新たな魅力へ
 国際観光学部3年 田頭慶祐

 9月16日から9月19日の4日間、島根県出雲市でフィールドワークを行ってきました。今回出雲市でフィールドワークを行った理由は、出雲市には出雲大社や須佐神社などの多くの観光名所があり、多くの観光客が訪れます。しかし、観光客は出雲市に宿泊せず、玉造温泉や松江市に宿泊する人が多いことが事前調査でわかりました。そこで、出雲市に宿泊してもらうための朝や夜の魅力、昼間の魅力、ホテル、旅館の現状を調査することになりました。
 その中で、私は出雲と勾玉の関係について注目しました。勾玉は古来より魔除けや不思議な力が宿るとされ、出雲大社や宮中に献上されてきました。古事記では、三種の神器の1つに勾玉が存在しています。このような神秘的なものがあると知り、出雲の観光資源になると考えました。そこで、「いずもまがたまの里伝承館」に行ってきました。
 ここでは勾玉づくり体験、アクセサリーづくり体験、宝探し体験などができます。私は今回、勾玉づくり体験の60分コースを体験しました。この体験は30分、45分、60分、90分のコースがあり、どのコースも800円で体験することができます。時間が短いコースほど、あらかじめ形が整っているものが用意され、やすりで削りやすくなっています。宍道湖が見える静かな工房で景色を見ながら体験でき、集中しやすく、満足な出来の勾玉をつくることができました。無事に終了すると、「勾玉づくり体験修了証書」と店内で使うことのできる割引券をいただくことができました。
 「いずもまがたまの里伝承館」に行って感じたことは、島根県には勾玉づくりを体験できるところが他にもありますが、数が少なく、それほどPRをしなくても観光客に来てもらえるので、あまりPRに力を入れてないように感じました。また、体験できる工房が出雲ではなく、松江の宍道湖や玉造温泉の近くにあり、夕方で営業が終了してしまうので、夜の魅力にもつながらず、出雲市内の宿泊客の増加にはならないと感じました。出雲市内にも勾玉づくり体験があれば、出雲大社と三種の神器の勾玉を結びつけることでより神秘的なものになり、十分な観光資源となり、出雲市の滞在時間の増加が期待できると考えられます。
 出雲大社以外の観光資源の魅力を高め、1日中出雲市内を観光でき、楽しめるようになれば、滞在時間も増え、宿泊客の増加につながると考えられます。そのために、勾玉と出雲の関係をより明確にして、出雲の1つの魅力として取り上げられるような形を発見していきたいと考えています。