国際観光学部教員 渡辺和之
渡辺ゼミでは、摂津市鳥飼地区(とりかいちく)にある渡邊勝彦さんのご協力のもとで、鳥飼なすの栽培を1年間見せてもらうことになりました。
鳥飼なすとは、なにわの伝統野菜の1つで、大阪府摂津市の鳥飼地区に伝わるなすのことです。改良品種が普及する以前に各地で栽培されていた野菜を伝統野菜といいます。今ではなすというと、スーパーで売っているなす(千両なす)が一般的ですが、昔はさまざまな形のなすが全国各地にありました。そうしたなすの多くは、スーパーが普及して改良品種の千両なすに置き換わってゆきました。
摂津市では、鳥飼なすを復活・普及させる試みが古くからおこなわれております。渡辺ゼミでは、2022年に摂津市役所を訪れ、鳥飼なすの普及活動についてお話を伺いました。また、農家の方々を訪れ、生産事情や流通に関して聞き取りをしました。その過程で農家の渡邊さんからポツリと一言。「まあ、話だけ聞いてもわからんやろ」。「よかったら来年うちに来て見ていかんか?」とのお誘いを受けました。
農業の話には実際に体験してみないとわからないことがたくさんあります。鳥飼なすの一年を観察し、それを写真や動画に残せば、学生だけでなく、一般の人にも理解しやすくなるはずです。何よりも、学生は自分で見聞きしたことでレポートが書けるのですから、これは願ってもない機会です。
こうした事情から、渡辺ゼミでは、2022年12月から鳥飼なすの1年を観察することにしました。私たちは鳥飼なすを地域の貴重な観光資源と考えております。鳥飼なすに関心を持った人がなすを求めてやってくるようになれば、このなすを栽培する農家の方々もきっと増え、次世代に継承されてゆくことでしょう。
このブログでは、私たちが観察し、体験したことを順次紹介してゆきます。農業の研究は種から胃袋までといいます。これは食べ物の研究でも一緒です。食べ物を育てて、食べるまでがフードシステムの研究です。鳥飼なすをどんな人たちがどうやって栽培し、どこに出荷して誰が買ってゆくのか。また、鳥飼なすをどうやって調理して食べるとおいしいのか。鳥飼なすを食べられる店はどこにあるのかなども紹介してゆきたいと思います。
はじめのうちは農作業の記事が多くなると思います。それらを経てゆきながら、鳥飼なすを支える人たちの姿を伝えてゆきたいと考えております。
鳥飼なすとは、なにわの伝統野菜の1つで、大阪府摂津市の鳥飼地区に伝わるなすのことです。改良品種が普及する以前に各地で栽培されていた野菜を伝統野菜といいます。今ではなすというと、スーパーで売っているなす(千両なす)が一般的ですが、昔はさまざまな形のなすが全国各地にありました。そうしたなすの多くは、スーパーが普及して改良品種の千両なすに置き換わってゆきました。
摂津市では、鳥飼なすを復活・普及させる試みが古くからおこなわれております。渡辺ゼミでは、2022年に摂津市役所を訪れ、鳥飼なすの普及活動についてお話を伺いました。また、農家の方々を訪れ、生産事情や流通に関して聞き取りをしました。その過程で農家の渡邊さんからポツリと一言。「まあ、話だけ聞いてもわからんやろ」。「よかったら来年うちに来て見ていかんか?」とのお誘いを受けました。
農業の話には実際に体験してみないとわからないことがたくさんあります。鳥飼なすの一年を観察し、それを写真や動画に残せば、学生だけでなく、一般の人にも理解しやすくなるはずです。何よりも、学生は自分で見聞きしたことでレポートが書けるのですから、これは願ってもない機会です。
こうした事情から、渡辺ゼミでは、2022年12月から鳥飼なすの1年を観察することにしました。私たちは鳥飼なすを地域の貴重な観光資源と考えております。鳥飼なすに関心を持った人がなすを求めてやってくるようになれば、このなすを栽培する農家の方々もきっと増え、次世代に継承されてゆくことでしょう。
このブログでは、私たちが観察し、体験したことを順次紹介してゆきます。農業の研究は種から胃袋までといいます。これは食べ物の研究でも一緒です。食べ物を育てて、食べるまでがフードシステムの研究です。鳥飼なすをどんな人たちがどうやって栽培し、どこに出荷して誰が買ってゆくのか。また、鳥飼なすをどうやって調理して食べるとおいしいのか。鳥飼なすを食べられる店はどこにあるのかなども紹介してゆきたいと思います。
はじめのうちは農作業の記事が多くなると思います。それらを経てゆきながら、鳥飼なすを支える人たちの姿を伝えてゆきたいと考えております。
鳥飼なすとは?
●はじめに
先に述べたことをもう少し詳しく知りたい方のために紹介します。鳥飼なすとはどんな野菜か、どんな経緯で衰退し、復活したのか、現在、どれ位の人たちが栽培しているのか。昨年、摂津市役所で聞いたお話をもとにまとめました。
●鳥飼なすとは?
鳥飼なすは、大阪府摂津市の鳥飼地区に伝わるなすのことです。なすはインド東部が原産地でもともと熱帯アジアの作物だったものが世界各地に広がりました(サンティッチ・ブライアント2010:209)。なすというと、みなさんはスーパーでよく見かける千両なすを思い浮かべる人が多いかもしれません。でも、日本には、古くは、水なす、長なす、巾着(きんちゃく)なすなど、いろいろな形のなすが栽培されております。鳥飼なすは、京都の賀茂なすや和歌山の湯浅なすの仲間の丸ナスです(写真1)。丸なすは関西の他にも、新潟や山形、長野など、日本海側や、そこから内陸に入った地方で栽培されてきました(青葉2013:35-36)。
●伝統野菜
このように日本列島各地にはその地域で人々に愛されてきた地域独自の野菜があります。こうした地域の人々が自家採種して特徴を持つようになった野菜を在来野菜といい、そのなかからブランド化され、広く認知されるようになった野菜を伝統野菜と呼びます(香坂・冨吉2015:29-30)。伝統野菜の多くは、かつて多くの地域でその地域の特産物として愛され、郷土料理の食材として使われてきました。
ところが、戦後、高度経済成長期に大量生産・大量消費の時代になると、鳥飼なすのような伝統野菜は、千両なすのような改良品種の野菜に置き換わってゆきました。改良品種は、品種改良によって生まれたもので、収量が多い、病気になりにくい、大きさがそろいやすいなどの理由から普及してゆきました。特にショッピングモールのような大型量販店で売る際には、同じ大きさに規格がそろう改良品種が好まれました。
こうして伝統野菜の多くは改良品種に取って代わるようになりました。その結果、なすといえば、全国の人が千両なすを思い浮かべるようになり、全国の個性的ななすが消滅の危機に立たされるようになったのです。
●鳥飼なすの歴史
鳥飼なすは江戸時代の終わり頃から戦前にかけて摂津市の鳥飼地区で栽培されてきました。天保7年『新改正摂津国名所奮跡細見大絵図・名物名産略記』に「鳥養茄子」の記載があるほど古い品種だそうです。(なにわ特産物食文化研究会2002:86)摂津市はウドやクワイでも有名です。大坂の町から近く、淀川や安威川(あいがわ)を使って船で大坂の町へ野菜を供給する近郊野菜の産地でした(*江戸時代には大阪の町を「大坂」と書きました)。野菜を売りに行った船は帰りには下肥(しもごえ)をもらって来たといいます。下肥とは糞尿のことです。現在では植物腐植土などの有機野菜におきかわりましたが、かつては都市の人の糞尿が近郊野菜を育てる肥料となってきたのです。また、鳥飼地区は、淀川と安威川の間にはさまれた低湿地で、洪水になるとよく川の水が氾濫して水没する地区でした。鳥飼なすは大量の肥料や水を必要とする野菜です。それは大坂の町に近く、低湿地である鳥飼の歴史的風土から生まれた野菜でした。
鳥飼なすの栽培は第二次世界大戦を契機に途切れます。戦後復員してきた辻幸太郎さんが復活させ、以来、守ってきました。このままでは消滅するとの危機観から摂津市は昭和60(1985)年に市として鳥飼なすを保存する取り組みをはじめました。こうした動きのなかで、平成17(2005)年、鳥飼なすはなにわの伝統野菜に指定されました。
現在、鳥飼地区で鳥飼なすを出荷目的で栽培している農家は、数軒だけしかありません。現在では、辻幸太郎さんの息子さんの辻義男さんが栽培を引き継いでおります。他に、摂津市農業振興会の方々や府立高等支援学校が地元の野菜を守ろうと、毎年鳥飼なすを栽培し、販売する取り組みをされております(写真2,3)。また、鳥飼なすを加工し、6次産業として売り出そうと試みている農家さんもおります。摂津市でも、毎年4月に鳥飼なすの苗を売って、栽培する人を募っております。また、11月には市の農業祭で農業振興会が作った鳥飼なすを販売しております(写真4)。昨年は、7月には市役所の売店で鳥飼なすを販売する試みもされておりました。
渡邊ファームの渡邊勝彦さんも辻さんの種から自前で苗を作る取り組みをはじめております(写真5)。苗作りは技術のいる仕事で、これまで外部業者に委託してきました。自前で種を作れば苗を安く作ることができるし、地産地消にもなります。それで苗作りをはじめたのだそうです。
●なにわ伝統野菜を守る
伝統野菜の多くは、こうした地域の人々の努力によって支えられております。伝統野菜は地域の歴史や風土のなかで生まれた地域の宝です。高級料亭に通う一部の食通の人たちだけが買い支えるのではなく、地域の人たちが地域の特産物として旬の季節の食材として食べながら支えてゆくべきものです。農家としても、伝統野菜は一度市場に滅ぼされた歴史があるので、市場だけには頼れません。また、流通の点でも、栽培する農家が極めて少ないので、市場に行き渡る量を出荷するのも容易なことではありません(渡辺2019:46-47)。といって、まったく市場に出荷しないと、関係者以外の人が購入し、消費者を増やすことにはつながりません(写真6)。
この点で観光はこうした少量生産生産を支えるのに向いております。地域の人たちが地域の食材を味わう場に観光客も訪れて、そのご相伴にあずかることで、地域の食文化を学びながら地産地消に貢献するのです。摂津市役所の小西さんによると、地元では昔は田楽なすにして鳥飼なすを食べてきたそうです。市役所でも鳥飼なすを使った簡単に作れる料理のレシピを作ったのだけど、もっと若い人に食べてもらえるようなレシピを作りたいのだそうです(摂津市役所)。それで、学生と一緒に摂津市役所で買ってきた巨大な鳥飼なすを調理実習をして、田楽とグリーンカレーにして食べてみました(写真7-9)。なかなか煮崩れしないでシャキシャキとした食感がやはり丸ナスだと思いました。また、秋の摂津農業祭で買ってきた鳥飼なすを、切らずにそのまま時間をかけて丸のまま焼いてみたら、ほくほくとしたなかなか深い味の焼きなすになりました。
●「まあ、話を聞いただけではわからんだろう」
そんな形で、摂津市役所や渡邊ファームで聞いた話をレポートにまとめて、今年のゼミは終わるはずでした。すると、渡邊さんが「まあ、話を聞いただけではよくわからんだろう。農業は目で見てみないとよくわからないだろうから」。私の名刺をまじまじと見ながら、渡邊さんは言いました。「1年間、なす作りの作業を見て動画でも撮るか。そういうのがあれば、農業のことがわからない人でも鳥飼なすのことを知ることができるし」。
このお言葉に甘えて、われわれは鳥飼なすの観察日記を1年間つけることにしました。一緒に取材に行った当時3年生の溝口亜美さんと笹田千穂さんは、鳥飼なすで卒論を書いてみたいといい出しました。当時2年生だった学生たちのなかからも、3年生になって活動に参加したいという人が現れ、鳥飼なすの生育を見守ってもらっております。ただ、動画を撮影するのはよくても、編集をするスキルが私にはありません。そこで、まずは撮影した写真でブログを作って、順次大学のHPでアップしてゆくことにした。
●謝辞
この記事を書くために、摂津市役所産業振興課農政係の小西仁さんと長曽寛央さん、辻義男さん、渡邊勝彦さんにお話を伺いました。記してお礼を申し上げます。また、内容に関する責任はすべて筆者にあります。
●文献
香坂玲・冨吉満之2015『伝統野菜の今』アサヒビール・清水弘文堂書房
青葉高2013『日本の野菜文化史事典』八坂書房
サンティッチ、バーバラ・ブライアント、ジェフ(著)山本紀夫(訳)2010『世界の食用植物文化図鑑』柊風舎
なにわ特産物食文化研究会2002『なにわ大阪の伝統野菜』農山漁村文化協会
摂津市役所「なにわの伝統野菜「鳥飼なす」」(閲覧日:2023年5月15日)
渡辺和之2019「伝統野菜をどう支えるか?:和歌山県湯浅町における湯浅なすの復活」『ビオストーリー』32:44-47.
●鳥飼なす台木の種まき 2022年12月27日(火)
●鳥飼なす種まき 2023年1月14日(土)
●鳥飼なすの接ぎ木 2023年3月27日(月)
今回の配信はここまでです。今後は、作業終了後、順次配信して行きたいと思います。