新しい元号を迎える2019年において,これからの日本のIT産業についての展望をお話してみたいと思います.

 クラウドやインターネット分散処理技術,IoT基盤等の世界規模のインフラが整ってきた現在となっては,それを有効活用するAI(人工知能)が人類の未来を左右する時代となってきました.難しい技術的な話はさておき,要するに「単純作業は機械,知的作業は人間」という従来の産業構造が変化しているということです.「単純作業は人間,知的作業と判断はAI]という産業構造へ移り変わってきています.

 一例を言いますと,米国のサンフランシスコで勃興したUberシステムです.簡潔にいうと,白タクシー配車システムのことです.ドライバ登録した一般の人が,乗車客の要望にリアルタイムに応じて,乗車し,送り届け,自動精算(チップも選択可)し,ドライバと乗客を相互に評価するトータルなシステムです.一番の特徴は,安価な相乗りサービスがあり,複数の乗客とその目的地を複数のドライバの現在位置とその配車依頼状況と道路状況をAIが判断し,最適なドライバに最適な経路をAIが自動的に知らせて配車するところです.
 つまり,従来ドライバの経験と知恵であった「あそこは今の時間渋滞するから,避けないといけない」とか,「乗車客Aを乗せて,そのあと乗車客Bを拾うと時間の短縮になる」等をすべてAIが判断して,ドライバのスマホに指示を与えてくれるというシステムです.人間はただひたすら,AIから指示を受けた経路を運転し,客を乗せて,客を下ろしてを繰りかえします.まさしく「単純作業は人間,知的作業と判断はAI」の時代だと実感させられます.そのうち,自動運転が完成すると,「あれ?人間のドライバもいらなくなる?」と人間の仕事がどんどんなくなってしまう社会になるとも予想されています.

 現在の学生たちはそのような時代に生きていかなくてはなりません.今までのような「大きい企業に就職して,一生安定な生活をする」という時代はもうないかもしれないですね.

 そこで,ご紹介したいのがGAFAについてです.GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)とは,今や世界を席巻する4つのIT巨大企業です.結果的に巨大企業になりましたが,最初は零細企業ともいえないような胡散臭い学生や有志の集まりから始まりました.今で言うと「ニートたちが集まって,家でなんかこちょこちょやっている」という感じでしょうか? 親世代達は「会社も行かずに,グータラなんだから!」と怒り心頭になるケースですね.

 Googleの創立者ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン,Appleの創業者スティーブン・ジョブズ,Facebookのマーク・ザッカーバーグ,Amazonの創業者ジェフリー・ベゾスたちも似たり寄ったりの始まりでした.ただ,それぞれとても優秀な技術者であり,エンジニアとしては天才的な能力の持ち主たちでした.技術力はもちろんですが,それ以外にも秀でたところがありました.それは圧倒的な発想力とカリスマ性です.かっこ良くいうとカリスマ性ですが,端的に言うと「わがままで協調性がなく,自分勝手」とも言えますよね.

 さて,日本の現在の社会に置き換えてみましょう.
 「ニートで家にこもって会社にもいかず,さらにコンピュータオタクでわがままで協調性がなく,自分勝手」な若者はどのような存在になるでしょうか?たぶん,とても生きにくい社会ですよね.起業して成功することはもちろん,自分の親たちにも認めてもらえず,小さくなって人生を過ごしてしまう人々になるでしょう.

 ここまで来てやっと,日本のIT産業の展望の話になります.現在のIT産業の構造はメーカの親会社(日立,富士通,NEC等)の中に,ソフト部門があります.もちろん,メーカは物理的なモノづくりが得意分野であり,それに付随するかたちでソフトを作ります.つまり,コンピュータやICチップ,メモリがメーカの主たる製品であり,ソフトはその付属する製品でしかありません.また,楽天やソフトバンク等のコンピュータメーカではない企業も新しく勃興していますが,それらはあくまでも通信サービスやeコマースの延長でしかありません.ソフトを主たる生産物として専門に作る大企業があまりにも少ないということです.もちろん,中小企業でソフト開発専門会社は多くあります.もとでのかからないソフト分野は中小企業が進出しやすいからです.ただ,その中小企業がAmazonやGoogleのように大きくなれないのは,日本のいわゆる親会社の下請け業務に従事しているからと想像できます.この親会社,子会社,下請け中小企業の日本の産業構造は一定の役割は果たしていますが,IT産業においてGoogleやAmazon等の世界を席巻する新興企業の創出には大きな弊害となっています.

 一例を紹介しましょう.「ルンバのろうそく」です.あまりにも有名なのでご存知の方もいらっしゃると思います.ルンバという家庭用自動掃除機がiRobot社から発売されて,世界的にヒットしています.もちろん,技術力の高い日本でも開発することはとても容易です.ルンバの発売よりも10年以上前に実現しており,実用化が可能でした.しかし,日本の電気メーカのお堅い責任者の考えは「留守中,ルンバが仏壇のろうそくを倒して火事になったら,だれが責任を取るんだ」の一言で実用化は見送られました.もちろん,火事になることは避けたいですし,責任問題に発展するとメーカとしても大変なことになります.ただ,普通は留守にするとき仏壇のろうそくの火は消しますし,そもそもろうそくに火をつける仏壇を持つ家庭が実際にはどれだけあるでしょうか? 万が一,ろうそくが倒れたとしても,「留守にろうそくの火をつけっぱなしで出かけたほうの責任である」とメーカは毅然とした態度を取ればよいのです.時代錯誤と過剰な保守的な思考で,新しい発想をつぶした例です.

 もうひとつ例を紹介しましょう.皆さんはWeb上でログインするときに「下の英数字を読み取って入力してください」とゆがんだ英数字や不鮮明な文字の図をみて,その英数字を入力したことはありませんでしょうか?もちろん,セキュリティのための有効な手段の一つです.皆さんは何の疑いもなく,その見づらい英数字を読み取ってセキュリティのためだと信じて入力しているでしょう.Googleサイトでのその不鮮明な文字の画像は,実はGoogleストリートビューで撮影した画像の中でAIで文字認識されなかった画像なのです.店の看板や番地名を文字認識で自動で読み取っているのですが,AIで読み取れなかった画像をそのログインサイトのセキュリティのゆがんだ英数字に使っているのです.つまり,AIが判断できなかった英数字を不特定多数の一般の人たちに,「セキュリティのため」と大義名分をつけて無償で読み取り作業をしてもらっているということです.日本でも同様のゆがんだ文字を読み取るセキュリティ方法はありますが,凡庸な日本人はまじめにゆがんだ文字の画像をわざわざ手動で作っています.

 上記の2つの例を見てもわかりますように,とにかく発想力が違うのです.さらにその奇抜な発想を社会や組織の責任者が受け入れる余裕があるということなのです.つまり,親会社,子会社,下請け企業の階層構造で企業論理でソフトを作る限り,日本からGoogle,Apple,Facebook,Amazonと肩を並べられる企業が育たないということです.

 これが日本のIT産業界を憂う部分です.目の前に「ニートで家にこもって会社にもいかず,さらにコンピュータオタクでわがままで協調性がなく,自分勝手」な若者がいると,年寄くさく「社会ではそんなことで通用すると思うのか!」と説教したくなりますよね.ただ,それはGAFAへ発展できる可能性も否定していることにもなりかねないということです.

 日本のIT産業界も古い親会社,子会社,下請け企業の産業構造を早く脱却し,「ニートで家にこもって会社にもいかず,さらにコンピュータオタクでわがままで協調性がなく,自分勝手」な若者も受け入れて自由な発想で活躍できる場をつくること,そのような発想力の育成と十分な技術力獲得を高等教育で実施することがこれから重要な日本の課題と思います.

身近な経営情報あらかると

 本連載では、われわれ阪南大学経営情報学部の教員が日頃の研究成果をもとに、みなさんの暮らしに役立つちょっとした知識を提供していきたいと考えています。研究分野はさまざまですが、いずれの場合も社会に役立つことを最終目標としています。難しい理論はとりあえず脇に置いて、身近な視点から経営情報学部に興味を持ってもらえれば幸いです。

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