今回は阪南大学経営情報学部の山内教授の著書から「すべてはゲストのために—東京ディズニーリゾートに学ぶマーケティング—」(晃洋書房)、「モンキー・D・ルフィは実在した!? 漫画ONE PIECEとHONDAに学ぶマネジメント」(晃洋書房)の2冊について取材させていただきました。山内先生の著書の紹介は初めてになるため、山内先生の経歴についても伺いました。
会社で働きながら大学院に通った
山内:大学を卒業してからは森永乳業で10年くらい働かせてもらってました。働きながら神戸大学大学院経営学研究科に通って修士課程を修了した後に、東海総合研究所[注1]のシンクタンク[注2]に、その後、株式会社日本能率協会マネジメントセンターに勤めていました。この時も神戸大学大学院経営学研究科の博士課程に通っていました。
ライター注2:種々の分野の専門家を集め、国の政策決定や企業戦略の基礎研究、コンサルティングサービス、システム開発などを行う組織。頭脳集団。(参考文献:デジタル大辞泉より)
山内:そうですね。だからその頃は、仕事が終わってから大学院の講義があり、その後、講義の復習をして3時に寝て、仕事のために6時に起きるという生活をしていましたね。
——:詳しくはどんな仕事をしていたのですか?
山内:森永乳業にいた頃は最初2年は内勤で商品出荷の指示などをしており、その後、営業に変わり、クリープの営業をしました。それから大学院修士課程を修了し、マネジメントに関わる仕事をしたかったので森永乳業をやめ、東海総合研究所のシンクタンクでマネジメントの仕事をしていました。株式会社日本能率協会マネジメントセンターでは主に社員研修の仕事をしていました。
——:学生時代、部活動は何かされていたのでしょうか?
山内:自転車部に所属していました。短距離部門で国体に出場しました。
——:国体までいかれたのですね!
先生は主に何の研究をされているのでしょうか?
山内:マーケティングと営業の関係について研究しています。テーマパークとマーケティングの関係についても長い間研究しており、本も書かせてもらっています。
東京ディズニーリゾートでマーケティングを学ぶ
山内:顧客満足度やリピーターに注目したマーケティングです。
——:マーケティングに注目するとUSJの方がよく話題に出ると思いますが、「東京ディズニーリゾート」に注目した点は何でしょうか?
山内:顧客満足度やリピーターに注目した時に東京ディズニーリゾートが圧倒的だったからです。東京ディズニーリゾートは年間に1800万人もの来場者がいますが、その97%がリピーターになります。ディズニーリゾートは他のテーマパークに比べてリピーターがとても多いテーマパークなんです。
——:顧客満足度ですか?
山内:はい。ディズニーリゾートは世界観の作りこみが凄いんです。テーマパーク内からは徹底的に外の現実的な建物が見えなくなっていて夢の国としての完成度が大変高いです。それが非日常感を醸し出し、顧客満足度が上がり、リピーターが多いのにつながっているのではと考えています。
——:この本を書くきっかけは何だったのでしょうか?
山内:元々、ディズニーリゾートが好きだったこともありますが、一番大きいのは学生がマーケティングを学ぶ時に興味を持ってもらいやすい本が欲しいと思ったことです。社会人になったことがない学生に「〇〇の製品のマーケティングが凄くて~~」と言ってもあまりピンと来なくないですか?
——:「へぇ」で終わっちゃいそうだなとは思います(笑)
山内:そうですよね。だからこそディズニーリゾートという興味を持ってもらいやすいものを題材にしようと思いました。
——:では、この本のターゲットは?
山内:高校生や大学1年生などのマーケティングを知らない人たちですね。マーケティングを学ぶ上での入口になってほしいなと思います。
——:この本を書くにあたって意識したことを教えてください。
山内:大学教員にとっては当たり前な言葉でも学生からしたら聞いたこともない言葉だったりするのでそこの認識を学生に合わせられるようにしました。
——:本の中身について質問させていただきます。この本の中に出てくるエンパワーメントとは何でしょうか?
山内:日本語に直すと権限委譲と言う意味になります。ディズニーリゾートではゲストと直接関わるキャストが自ら行動します。普通の会社なら上司の意見を聞きにいかなければならなかったりしますが、ディズニーリゾートではゲストが最優先。ゲストを待たせないように、ゲストが不快な気持ちをしないように、ということでエンパワーメントが行われています。
——:苦労したことは何ですか?
山内:ディズニーリゾートから許可をもらうのが一番苦労しましたね。ディズニーリゾートだけではなく、オリエンタルランド[注3]からも許可をもらわないといけなかったりと色々なところに問い合わせていた記憶があります。
山内:今までの経験、研究を整理して本にしたことで自分の頭の中が整理されたことですね。そのおかげでオープンキャンパスで研究していることを話すときはこの本に書いてあることを話すことが多いですね。
漫画「ONE PIECE」でマネジメントを学ぶ
マネジメントと言うとマネージャーの仕事のイメージがあり、何かを管理したりするものだと思っていたのですが、マネジメントとはどんなものか簡単に教えてください。
山内:マネジメントを日本語に訳すと管理と言う意味になりますが、管理を英語に訳したときにはコントロールとマネジメントという言葉になります。この本でいうマネジメントとは思い通りに操作するコントロールの意味ではなく、相手の良いところを引き出すために管理するという意味になります。
——: この本を書くきっかけは何だったのでしょうか?
山内:私が大学の先生になった後に、森永乳業に勤めていた時の3つ上の先輩と話す機会がありまして、その先輩が「『ONE PIECE』ってマネジメントよな」と言ったんですよ。それまであまりアニメを見る機会がなくて「ONE PIECE」も見たことがなかったんですけど、その先輩の言葉で興味を持って漫画を大人買いしてしまいました。それで読んでみたら先輩の言葉にとても納得したんです。
——:具体的に「『ONE PIECE』ってマネジメントよな」に納得したところはどこですか?私は「ONE PIECE」はすごく面白くてワクワクする漫画で好きですが、架空の世界のお話で、マネジメントを学べる漫画と思ったことがありませんでした。
山内:麦わらの一味自体が、ルフィが社長の会社だなと感じたからですね。ルフィは「世界一の海賊王になる」という志を持って航海を始めます。そこでそのルフィの志に共感した人たちが仲間として反発しながらも共に進んでいく姿は組織としてあるべき姿ですし、その中で理想のマネジメントも知れると思います。
——:「ONE PIECE」の中で最もマネジメントと関わっているなと思った点はどこでしょうか?
山内:ルフィがウソップのことを一度、麦わらの一味から追放するところです。[注4]訳あってルフィとウソップの意見が対立するのですが、麦わらの一味という組織ではルフィが社長です。いくら仲間として認めていたとしてもトップは時には冷徹な判断をしなければなりません。そのような描写がきちんと会社という組織を描いているなと思いました。
山内:それはやっぱりルフィと本田技研の創業者である本田宗一郎氏がとても似ているからですね。ルフィは「世界一の海賊王になる」という志を持って航海を始めます。そしてまた、本田宗一郎氏も本田技研がまだ静岡県の小さい会社だったころに朝の朝礼で「世界一のオートバイメーカーになる」と宣言します。このセリフで何か思いませんか?
——:すごいそっくりですね!
山内:そうなんですよ。だから僕が初めてワンピースを読んでこのルフィのセリフを見た時、すぐに本田宗一郎氏が頭に浮かびました。ルフィと本田宗一郎氏は破天荒な性格・行動が似ているんですよね。
——:もしルフィが現代で経営をしようとしたら成功すると思いますか?
山内:ルフィは破天荒すぎるので少なくとも日本では無理かもしれないです。でも周りにその破天荒さを支えてくれる仲間がいたらわかりません。だから、ルフィだけでなく、麦わらの一味も一緒なら成功するんじゃないかと思います。
——:この本のターゲットを教えてください。
山内:この本も経営学を学ぶ人や大学生に読んでほしいですね。経営学って実は社会人になってから必要な知識とかがたくさん含まれているんですよ。だからそれを大学生の間にこの本で知識として学んでもらえたらなと思いました。
——:苦労したことは何ですか?
山内:本田宗一郎氏に関する書籍や資料が膨大にあるのでそこから必要な情報を厳選するのが一番大変でした。
——:この本を書いてよかったことは何ですか?
山内:本の内容とは外れてしまうんですが「ONE PIECE」のおかげで漫画の面白さを学べたことは良かったです(笑)
——:これから書きたいと思っている本の内容はありますか?
山内:一つは営業の仕事をしている社会人向けで営業を題材とした学術書を出せたらなと思っています。あと、各国のディズニーリゾートをマーケティングの観点から比較した研究にも興味があります。
——:とても興味があるので楽しみにしています。今回は取材させていただき、ありがとうございました!
取材を終えて
感情豊かにお話されている様子を撮影させていただいて、撮っているこちら側まで楽しい気持ちになりました。マーケティングと聞くと少し硬く考えてしまいがちですが、身近なアニメやテーマパークを用いて説明されている本書は、これから学んでいく学生にとって分かりやすく、理解しやすい書籍だと感じました。この度は貴重なお時間を割いて取材に応じてくださりありがとうございました。