鉄道の新たな価値を探る−観光実習I(国内)

京都丹後鉄道を対象に、鉄道の利用すること自体の価値を探りました

 国際観光学部には、実際に国内外の現地に出かけ、現場を視察したり、関係者に聞き取り調査を行ったりする「観光実習」という授業があります。このうち、「観光実習I(国内)」では毎年、どこで、どのような問題にアプローチするかについて、受講生同士で話し合って決めています。
 今年度は京都府舞鶴市から宮津市を経て兵庫県豊岡市を結ぶ、京都丹後鉄道宮津線をフィールドワークの対象にすることにしました。京都丹後鉄道は昨年4月からWILLER TRAINS株式会社が運行を担い、ユニークな観光列車を走らせるなど、さまざまな取り組みを行っています。われわれは沿線の観光資源だけでなく、鉄道が持つ歴史、駅舎などの施設、車窓なども観光資源と捉え、鉄道を利用すること自体の観光価値を高める方法を探ることにしました。
 8月30日(火)から4日間の現地調査では、西舞鶴から豊岡までの全19駅の駅舎や施設などを見て回るとともに、駅員の方々に聞き取り調査を行いました。また、鉄道を運行するWILLER TRAINSへの聞き取り調査も実施しました。さらに、列車に乗車して車窓景観を調べるとともに、観光列車「あかまつ号」にも乗車し、その魅力を探りました。調査にご協力くださった現地の方々に、心より厚く御礼申し上げます。
 以下では、今回の現地調査に参加した4年生3名が、調査の様子やそこで得られた成果について報告します。(森重昌之)

フィールドワークの様子

  • WILLER TRAINSへの聞き取り調査の様子

  • 天橋立駅での調査の様子

  • 与謝野駅での調査の様子

  • 栗田駅での調査の様子

  • 由良川橋梁での調査の様子

  • 観光列車「あかまつ号」にて

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参加学生のレポート

地方鉄道の革新的モデルのために
 国際観光学部4年 榊原知恵

 京都丹後鉄道を運行しているWILLER TRAINS株式会社への聞き取り調査を行いました。民営化になるまでの経緯としては、北近畿タンゴ鉄道の利用客数が年々減少傾向にあり、赤字経営に陥っていたことが背景にあります。WILLER TRAVELというバス会社の枠を超え、自宅から目的地までバスや電車を乗り継ぎ、観光施設への入館もすべて1枚のチケットで網羅できれば画期的なモデルになると、お話しくださいました。このように交通機関のシームレスに加え、地方鉄道のビジネスモデルをつくり上げること、また他社に成功事例を広げていくことで、移動にイノベーションを起こすというビジョンを掲げておられることがわかりました。また、北近畿タンゴ鉄道が支援を決めた理由のひとつも、ここにありました。
 京都丹後鉄道では現在でも硬券を利用しています。これは鉄道ファンや観光客の旅の記念として喜んでいただくためであり、窓口で購入することができます。また、「鉄道や駅舎などで観光客や利用客に紹介したい価値はあるか」と質問しました。すると、「現在も残る歴史を感じさせる駅舎や風景をそのまま生かし、どこか懐かしく、古き良き日本の文化を感じていただきたい」とおっしゃっていました。さらに、駅名からその地域に何があるのか想像できることを目的に、わかりやすい駅名に一部変えられたそうです。自然や食が町の雰囲気に合ったものであることや観光客にとって違和感のないポスターやチラシなど、外から来た人にどのように見られるかという視点も大切にしておられました。
 一部の駅に設置されている切符回収箱は、地元の高校生がデザインしたものだそうです。また、駅の中で一番多く使われるお手洗いも清掃が行き届き、清潔感あふれる場所が多かったことも特徴でした。これは自治体との協力体制があったからだと言います。このように、地元の学生や事業者とのネットワークを広げ、地域の受け入れ体制を整えることや、普段鉄道を利用しない人からの意見も取り入れ、利便性や購買意欲を高めることにつなげていることがわかりました。豊岡、天橋立、宮津、西舞鶴、福知山の5つの主要駅はWILLER TRAINSの直轄駅ですが、その他の駅は自治体や観光協会が管理しており、私服の駅員さんが日中いらっしゃいました。
 鉄道自体を観光資源と捉え、木の温もりを感じられる車内、車窓から眺めるのどかな田園風景や、季節や時間帯によって変わる町の雰囲気、ゆっくりと時間が流れ、人の温かさに触れることができたこの4日間は本当に素敵な調査でした。初めて訪れる人も、何度訪れる人も、きっと同じように古き物の良さを改めて五感で感じることができると思います。そして、鉄道を盛り上げることが、地域活性化にもつながることを感じた調査でした。歴史的背景にも注目し、ノスタルジーな鉄道旅をより身近に楽しんでいただけるように、どのような工夫が必要か、今のままの魅力をどう活かせるか、さらに研究を深めていきたいと考えています。

鉄道を利用すること自体を観光資源と捉える可能性
 国際観光学部4年 合田絵里奈

 今年度の観光実習Iの授業では、京都丹後鉄道を事例に鉄道の持つ歴史や駅舎、車窓景観などを観光資源と捉え、鉄道を利用すること自体を観光資源と捉える可能性について研究しています。これまで、鉄道沿線の観光資源を紹介することで、鉄道利用の促進を図る取り組みはたくさん行われてきました。しかし、近年は鉄道を利用することそのものを楽しむ事例も見られるようになりました。その取り組みの1つとして、京都丹後鉄道では車窓からゆったりとした景観を楽しめる「丹後あかまつ号」や「丹後あおまつ号」、スイーツやランチをいただき、そこでしか味わえない上質な空間が演出された「丹後くろまつ号」などの観光列車が運行されています。
 8月30日から9月2日までの3泊4日にわたり、京都丹後鉄道の豊岡駅から西舞鶴駅の現地調査を行いました。各駅を周り、駅ごとの特徴や歴史、景観などを調査しました。各駅で駅舎のデザインが異なり、網野駅は「ヨット」をイメージした丸い窓のある駅舎、峰山駅は「織機」をイメージしたデザインの駅舎、四所駅は「関所」をイメージしたデザインの駅舎など、さまざまなデザインの駅舎がありました。このさまざまなデザインの駅舎は、京都丹後鉄道を利用すること自体を観光資源として捉える魅力の1つだと感じました。
 最終日に観光列車である丹後あかまつ号に乗車しました。車内では沿線についてのアナウンスがされており、景色とともに楽しむことできました。また、野生のコウノトリを発見すると列車の速度を落としたり、人気スポットである由良川橋梁を徐行運転でゆっくりと渡ったりするなどのサービスを行っていました。
 私たちは「歴史の魅力を感じさせる鉄道旅のお供」というテーマの資料を作成予定にしており、その資料とともに鉄道を利用してもらいたいと考えています。ただの景観や駅舎であっても、歴史や説明をつけ加えることで観光資源となり得るからです。具体的な内容として、資料には各駅の特徴や歴史、駅構内の柱や柵にレールが再利用されている情報や、ホームに立っている何気ない棒が、積雪量を図る棒であるという情報を記載することで、鉄道を利用していること自体を観光資源として捉える可能性の1つとして考えられるのではないでしょうか。
 京都丹後鉄道の駅舎や車窓景観はノスタルジックな雰囲気で、とても魅了されました。そういった、京都丹後鉄道らしさというものが伝わる資料にしたいと感じました。

魅力が盛りだくさんの京都丹後鉄道
 国際観光学部4年 佐藤研

 今年度の観光実習Iでは、京都丹後鉄道沿線を訪れ、鉄道の魅力や歴史、駅舎、車窓景観などの観光資源を見つけ、鉄道を利用すること自体を観光資源と捉える可能性について研究しています。これまでは、鉄道沿線の観光資源を紹介することで、観光客の誘致を図る取り組みが行われていました。しかし、近年の例で見てみると、熊本県のJR肥薩線で列車に乗ってスイッチバックを楽しむなど、鉄道を利用することが観光資源になっていることがわかりました。京都丹後鉄道においても、お客様のニーズに合わせ、ゆっくり列車を運転する「あかまつ号」やデザートやスイーツが楽しみながら景観を楽しむことができる「くろまつ号」など、観光列車の取り組みが行われています。
 私たちは8月30日から9月2日にわたり、京都丹後鉄道の豊岡駅から西舞鶴駅の現地調査を行いました。私は途中参加でしたので、すべての駅を見ることはできず、峰山駅から西舞鶴駅まで調査しました。1駅ずつ周り、駅の特徴や歴史、駅からの景観などを調査しました。1つ1つの駅舎のデザインが異なり、網野駅はヨットをイメージしてデザインされた駅舎、岩滝口駅は地元の学生のアートが描かれた駅舎など、とても入りやすいイメージであることがわかりました。このような都会では見られないデザインの駅舎などは、新たな観光資源として使える可能性があり、お客様の誘致につながるのではないかと感じました。
 最終日は「くろまつ号」に乗車する予定でしたが、あいにく運行中止になってしまったので、「あかまつ号」に乗車しました。「あかまつ号」では、スイーツやデザートを楽しむことはできませんが、飲み物や軽食が販売されています。ゆったりとした車内から景観を楽しむことができます。途中、野生動物のコウノトリがいて、列車のスピードを落としてくれたり、土木遺産に指定されている由良川橋梁を徐行運転してくれたりしました。写真を撮り逃すことなく、きれいに写真を撮ることができるので、良いサービスだと思いました。
 私たちは、「歴史の魅力を感じさせる鉄道の旅のお供」というテーマで、今後資料を作成していく予定です。そのために、今回のフィードワークで見つけた、駅ごとの駅舎の形、歴史ある待合室の建造物、現在使われていないレールなど、私たちが見つけた観光資源を活用していきます。そして、京都丹後鉄道の方々に教えていただいた意見を踏まえ、より良い資料を提供できるよう努力していきます。