現場から発想して行動する力-観光地理学

国際観光学部教授 松村嘉久

 色々な学問のなかでも、地理学は最も伝統ある分野です。一体、なぜでしょう。答えは簡単。ありとあらゆる現象は、いつかどこかで起こるので、時間と空間への関心は古くから存在します。その現象がどこで起こったのか、空間や地域という視点から追求するのが地理学です。私が担当する「観光地理学」では、地理学の伝統的な方法を学び、観光現象が起こっている「現場」を理解する基礎力を養います。1年生全員が履修する科目なので、難しい概念も分かり易い言葉で語っています。観光地理学的なフィールドワークの方法についても、企画から実践まで行えるよう、具体的な事例で解説します。
 教育において知識や技能を教室で習得する「座学」は重要です。でも大学教育ならではの魅力はむしろ、何かが起こっている現場から学ぶ「実学」にあります。国際観光学部では少人数編成の専門演習(ゼミ)がその場となります。現場へ行って、座学で習得した方法でまず現場を理解する。理解するなかで、現場が抱える課題も発見できるでしょう。従来の大学教育ならここで終わりますが、私たちはその先を目指しています。
 課題が発見できたら、教員と学生が一体となって、課題解決に向けて何ができるのかを考え、実際に行動します。専門演習の目標はずばり、現場から発想して行動する力を養うことです。現場で考えて行動しても、思い通りにいかないこともあります。その時こそが学びのチャンスです。どうすればうまくいくのか、何が足りないのか、みんなで話し合って、努力して、力を合わせて再び挑戦する。最初の一歩を踏み出して、前へ進み続けることが大切です。新今宮を中心に実践してきた専門演習での挑戦は、今では地域に欠かせない存在となっています。
 さて、コロナ禍で国際観光はどう変わるのか、みんな心配しています。私は時間こそかかっても、必ず回復して以前よりも成長すると楽観しています。ただ、私たちが関わってきた大阪観光の現場は、とても悲惨な状況で、みんな生き残りをかけて必死です。私も学生らもコロナ禍で現場へ行けない日々が続いていますが、オンラインで現場の状況は共有しています。沈みがちな現場を少しでも勇気づけ閉塞感を打ち破りたい、再始動するなら密にならない西成のストリートからだろうと、この秋、西成WAN(Nishinari Wall Art Nippon)の実践に向けて準備を進めています。「今できるコトを今できるヒトが、アセラズクサラズアキラメズ」(西成WANで協働するSHINGO★西成より)。
  • 外国人旅行者を杭全神社の夏祭りへ案内するツアー。2010年から毎年継続してきたが2020年は祭りが中止となり断念(2014年)

  • 西成WAN第2弾「アセラズクサラズアキラメズ」前にて。7m×70mの巨大壁画、下準備の白ペンキ塗りから学生らが参加して支えた(2015年)

  • 西成WAN第3弾完成披露会にて。総合プロデューサーのSHINGO★西成とゼミ生たち(2016年)

  • 大阪フリンジフェスティバルにてメキシコ人参加者と。学生らがボランティアとしてフェスティバルを支えた(2019年)

※関連記事