1.コンピュータは計算する機械

 コンピュータの語源は,”compute( 計算する)”という動詞で,コンピュータは計算する機械として設計されました.スマホも含めて皆さんがコンピュータを使うときは,ほとんどの場合,計算するためではなく,情報を得たり文章を書いたりメールを書いたり話をしたりと何らかの意思表現のために使われていると思います.しかし,コンピュータの技術的発展を振り返ってみると,コンピュータは,複雑な計算を必要とする砲弾の軌跡を計算するために当初開発が進められました.その後,コンピュータ関連技術の技術革新が進み,音響や画像,映像情報がコンピュータで処理できるようになり,皆さんが利用しているように様々なコミュニケーションが可能なコンピュータが広く普及するようになりました.

2.ユーザフレンドリーなインタフェース

 コンピュータを活用するためには,利用者からコンピュータに指示を与え,何らかの結果をコンピュータから受け取らないといけません.昔のコンピュータでは,情報記録や加工のための様々な命令が準備され,それを用いてコンピュータへの指示や結果の参照を行っていました.準備された命令群を知らなければ,コンピュータを操作できない時代が長く続きました.コンピュータへの指示を直感的に行えるように,画面上にボタンやメニューを配置して,それをマウスで操作できるGUI(Graphical User Interface)が開発されました.このGUIが広く実装されることによりコンピュータが利用者にとって,身近なものになりました.機器への操作や利用者への情報提示の仕組みをヒューマンインタフェースといいます.インタフェースは換言すると人間と機械が情報交換する接面といえますが,直感的で簡便に使用できるユーザフレンドリーなインタフェースがPCやスマホに実装された結果,それらの普及が大きく促進されてきたといえます.
 コンピュータ技術やその周辺技術の発展によって,コンピュータはダウンサインジグされ,さらに,マイク,露光センサー,GPIやジャイロなど様々なセンサーが実装されました.これらの多様なセンサー情報を用いて集めた利用者の状況に関する情報を活用して,利用者に利便性の高いサービスが提供されています.現在のスマートホンでは,タップによる指示や選択に加えて,音声などの自然言語による指示や検索が容易に行えるようになってきています.端末からの提示も文字,画像,映像,音響信号を組み合わせて利用者に提供することで,理解しやすい情報提供がなされています.コンピュータから利用者へ音声情報で回答することによって,利用者は,人間以上に丁寧にサポートしてもらっている感覚を感じることもあるくらい,人間らしいサービスも出現しています.音声で指示できるスマートスピーカなどはその一例で,今後ますますユーザフレンドリーな新しいサービスが提供されていくと思われます.

3.利便性を高めたコンピュータ

 我々は普段,視聴覚情報を活用して他者とのコミュニケーションをとっておりますが,視聴覚情報を取り扱えるマルチメディア環境が整うことにより,利用者である人間にとって,より自然なコミュニケーションが実現できるようになりました.10年前のコンピュータや端末に比較するとコンピュータが人間に近づいてきたといえるのではないでしょうか.ここで注意したいのが,コンピュータの中心的機能はやはり以前と変わらず計算する機械であって,その点は全く変わっていません.画像や映像の加工のデータを表すビット列に対して何らかの加工をする,言い換えると計算結果に基づきビット列の書き換えを行っていることになっています.利用者が操作した結果を,コンピュータが理解できるようにプログラムで変換しているのですが,その計算能力が高くなったために,様々な操作を補完できるようになっているにすぎません.例えば,スマホは,タップやドラッグという操作を信号として受信して利用者の指示を理解したかのように画面表示を変化させているだけですが,利用者にとっては,操作を理解しているように感じられます.フリック(指を素早くスライドさせる操作)では,指先のはじくスピードによって画面スクロール速度が変わり,我々の直感がスマホに対してスムーズに伝わっているように感じられます.また,スマホでは,音声操作ができるのも,音声信号を文字というシンボリックな情報の関連性を計算によって求めて,その関係性に基づいて,コンピュータは利用者の音声による指示を読み取って(理解して)います.このように利用者の自然な振る舞いが様々な操作や指示としてコンピュータに受け取られ,それらを計算によって把握する仕組みがソフトウェア(プログラム)で実装されているために,利用者にとって極めてフレンドリーなコンピュータ(スマホ)となっているのです.

4.AIの改良により便利になるコンピュータ

 AI(Artificial Intelligence:人工知能)という言葉を耳にしない日がないくらいAIに注目が集まっています.AIとは人の知能の一部を機械で代替するものであると定義できます.私たちは他者とのコミュニケーションにおいて,他者からの音声言語を受け取り,文字に変換し,文字の集合体である文章として意味や意図を理解します.視覚から得た画像についても幾何学的な形や色という要素の組み合わせとして物体を認識し,物体の集合体としての画像の事実を認識したうえで,その画像の表す意味を理解します.このように音声刺激や視覚刺激から情報の意味や意図を理解するためには,入力される音声情報や視覚情報とその意味との関係性,言い換えるとパターンを学習する必要があります.人工知能は,このような入力と出力の関係性を記憶することが得意な機械です.具体的に人工知能は,多数の音声情報や画像情報とその音声や画像が表すものとの関係性を数式として表現し,それを用いて新しい音声情報や画像情報が表すものを推論するソフトウェアとして実装されています.
 この人工知能を応用して,表情と感情(情動)との関係性を学習し,それを利用して音声や表情から感情(情動)を推測して,利用者に対して様々なサポートをすることも可能になってきています.利用者が困っていることに対してコンピュータから働きかけて,積極的に利用者を支援することも行われています.また,人型のロボットや動物ロボットに人工知能を搭載して,ロボットセラピーや認知症対策への応用も試みられています.このように身体性を持ったロボットにコンピュータを実装すると,パソコンやスマホが便利になったという域を越えて,人間の生活をサポートする人間のような人工物という領域になりつつあります.
 以上で見てきたように,コンピュータは計算する機械であることは開発当初から変わっていませんが,CPUや周辺装置の機能向上と高度な処理を実現するソフトウェアの実装によってコンピュータは利便性の高い端末に進化しました.現在は,インターネット上の大量の情報に簡単に接続でき,それらを自動的に収集して利用者のほしい情報を提供する環境が整いつつあります.家庭や職場,家族や友人とも簡単につながることができ,ますます利便性の高い環境がスマホやPCによって提供されるようになって来ています.複雑なことも人間にとって簡便でかつ直感的に使用できるインタフェース環境が提供されることによって,このような便利な環境が実現できているといえます.今後,ヒューマンインタフェースの探求が進み,SFアニメにあったような「考えるだけで実行できるインタフェース」の提供も近い将来に実現するかもしれません.このようなコンピュータ環境の進化に遅れないようにしたいと考えています.

身近な経営情報あらかると

 本連載では、われわれ阪南大学経営情報学部の教員が日頃の研究成果をもとに、みなさんの暮らしに役立つちょっとした知識を提供していきたいと考えています。研究分野はさまざまですが、いずれの場合も社会に役立つことを最終目標としています。難しい理論はとりあえず脇に置いて、身近な視点から経営情報学部に興味を持ってもらえれば幸いです。

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