今年4月1日、働き方改革関連法案が施行され、数年前から政府主導で推進された働き方改革が動きだしました。詳しい内容は厚生労働省のホームページに掲載されていますので省きますが、企業の対応には多くの違いが現れています。それには企業の置かれている状況などにより様々な原因がありますが、ここでは筆者なりの枠組みを持って説明させていただきます。
 とある変化に対する企業の対応は、まず、その企業が持っている危機意識の強さによって変わります。例えば、最近の日韓関係からしても危機意識を持っている企業もあれば、実際のビジネスで何の関係もない企業は危機意識なんか全然持っていないはずです。次に考慮すべきポイントは時間軸の問題です。短期的に見るか長期的に見るかによって企業の対応は違ってきます。単純ではありますが、この危機意識のレベルと時間軸という2つの次元で企業の対応をモデル化すると次の図のようになります。
  • <図>変化に対する企業の対応

 図の中の「S」は、目に見えないソフトな対応を意味しており、従業員の意識教育や組織文化的な対応がメインになります。「H」は、目に見えるハードな対応のことであり、組織改編など物理的環境の整備や制度改革のことを意味します。小文字と大文字の区分は対応の強さを意味します。「SH型」はソフト的にもハード的にも強い対策を打つことであり、「sh型」は両方とも消極的に取り組んでいることを意味します。
 具体的な例としてパナソニック社のケースを見ていきましょう。パナソニックは、政府の働き方改革推進内容と関連してまずは長時間労働を解決するために2017年1月の社長経営方針の表明を通じて①月80時間以上の残業者根絶、②20時には全員退勤措置などを実施しました。その過程で創立100周年を迎えることになったため、さらなる100年のためには何か次元の違う対策が必要であると考えるようになります。つまり、過去100年間の大量生産・大量販売(松下幸之助氏の水道哲学)により大量消費社会を支えてきたモノ・カルチャーな企業ではなく、社員個々人の働き甲斐と会社の成長が連鎖反応を起こし、多様な個性が輝く会社になるべきであるという結論にたどり着いたわけです。それで推進されたのがABWs(A Better Workstyle)プロジェクトでした。
  • 出典:パナソニック(株)

 プロジェクトの詳細は、①ベター上司作戦、②ベターコラボ作戦、③ベターワークスタイル作戦などの3大作戦ですが、その具体的な内容は次の動画をご覧ください。
 パナソニックが働き方改革関連法案の施行に先がけて長時間労働の解消に取り組んだのは短期的に危機を強く感じた結果であり、その対応は強制的な時間制限という強い措置なので「sH型」であると考えられます。また、ABWsの推進は、長期的なスパンで会社の存続に対する危機意識を持ち、パラダイム転換ともいうべき抜本的な組織風土改革を推進している側面から「SH型」対応であると判断されます。
 以上の簡単なパナソニック・ケースからもわかるように、「働き方改革」と言っても企業の事情によってその対応は様々です。こういったところが企業経営の面白さであり、自己流のマネジメント手法を確立する醍醐味でもあるでしょう。

身近な経営情報あらかると

 本連載では、われわれ阪南大学経営情報学部の教員が日頃の研究成果をもとに、みなさんの暮らしに役立つちょっとした知識を提供していきたいと考えています。研究分野はさまざまですが、いずれの場合も社会に役立つことを最終目標としています。難しい理論はとりあえず脇に置いて、身近な視点から経営情報学部に興味を持ってもらえれば幸いです。

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